何の脈絡もないSSばかりのページです。実は名前変換にも対応済み。
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6月下旬より続けていました1日1セイボリーは文字数を大幅に落としてこちらへ移行しました。
(7/20)SSにも満たなさそうな会話文、極端に短いもの、本編に組み込む予定のない突発エピソード、などはタグ「ちりがみ」に格納します。タイトル冒頭には(塵)と付けます。
▽ 悪魔が幸せそうに眠るから(未定)
2019.02.09 Sat * 13:55
ポケモンセンターの中にあるカフェの男性に、モーモーミルクをテイクアウトで注文する。
温めて、と短く告げれば、少しばかり驚いたような沈黙の後で「かしこまりました」と笑顔で快諾してくれた。
お金をカウンターの上に置き、無言でミルクを受け取って、2階にあるトレーナー専用の宿泊部屋へと向かう。
ベッドと小さなテーブルがあるだけの簡素な狭い部屋に入り、鞄からペットボトルとスプーンを取り出す。
中に入っている土色の粉を、温めてもらったミルクの上に勢いよくかけてざぶざぶと沈める。スプーンでぐるぐるとかき混ぜれば、その粉はミルクの渦に吸い込まれる。
程よくかき混ぜたところで、その渦が収まるのを待たずに口を付ける。すう、と軽く流し込む。
「……溶けてない」
ほろりと零した私の舌に、苦いコーヒーの粒が残っている。強引に口の中で溶かしてみる。もっと混ぜた方がいいのかしら。
そう思って更にぐるぐると続けたけれど、やはり粉は僅かに残ったままだった。
液体に溶かせるものの量には限界がある。ママとお菓子作りを試みて見事に失敗した遠い日のことを思い出しながら、きっと粉が多すぎたのだ、と結論付ける。
「もっと欲しいな」
ミルクは特に好きではない。この粉だって苦いだけの代物だ。
私は優しい甘さの中にちょっとしたほろ苦さがあるような、そうした、もっと繊細な味が好き。けれどもその大好きな味をこの地で手に入れることは不可能だ。
そんなことは分かっている。この地には私の大好きだったものなんて何もない。ミヅキがそれを知っている。だから私は、分かっている。
それでも、大して好きでもなく美味しくもないものを毎晩こうして飲んでいる。それは私の切実な願いのためだ。
これは私のおまじない。眠りませんようにという、私の祈り。眠っている私を見なくて済みますようにという、祈り。
「明日も明後日もその次も、ずっとずっと、ミヅキはお前たちを許さない。ミヅキは絶対に、この運命を受け入れない」
狭い部屋、静かな場所、夜の闇は答えない。窓の外に見える月は、毎夜のこうした呪詛をただ静かに許している。
まだコップの中に半分も残ったその「おまじない」を抱えて、私はベッドへと腰掛け、月を見上げた。
「大嫌いだ」
ミヅキ▽ Rain falling like wisteria(hpパロ)
2019.02.09 Sat * 11:44
この友人と共にルールを破ることへの高揚は、年に1回あるかないかの頻度で私へと乱暴に踏み入る。
ほら、ほら、素敵でしょう! と、そんな「柄」ではないくせに、幼い子供のように、本物の14歳であるように私へと手招きする。
愉快そうに細めたその目は、もう何十年もこの世界を見てきているというのに。私など、貴方がすれ違ってきた幾千の命のうちの一つに過ぎないというのに。
「ほらコトネ、早くしなさい! 雨が止んじゃう、朝が来ちゃう」
この小雨。この涼しい夜明け。私のずっと前を走るように滑る半透明の彼女には、これらの要素がどうにも重要であるらしかった。
からかうように、騙すように、禁じられた森の闇間へとその魂を滑り込ませるようにして入っていく。
振り返って急かす彼女にしっかりと呆れ顔を向けてから、誰かに見つかってしまうことへのリスクを回避するために、透明マントを被った。
「自由に消えることができないなんて、生きているって不便ね」
クスクスと笑う、いつものことだ。その蔑視、その揶揄、あまりにもいつものことだから、私は憤ったりしないけれど、あんまりだ、とは、毎回思うようにしている。
それでも、普段は私を軽蔑するように笑うだけのこの友人、私と一緒にいたがるようなことなど万に一つも起こり得なさそうな彼女からの、珍しい誘いを、
それがたとえ朝の4時に為されたものであっても、まだ夢の中にいた私を叩き起こして為したものであっても、私はやはり、拒むことができていない。
それに、偏屈な友人がこのように笑う理由など、きっと「私」では在り得ない。他の誰でも在り得ない。つまり……そういうことだ。
彼女の駆ける先には、彼女の庇護すべき人が、彼女の世界の半分を持っている相手がいる。私も大好きな、私の友達でもある、半透明の魔法使いが待っている。
「……わあ、K。貴方、コトネを起こしてしまったの?」
樹海へと絡み付くように背を伸ばし、雨を降らすように地へと向けて咲く、優しい紫色の花。その下に彼女はいた。半透明の笑顔が私の名を呼んだ。
この花はジョウト地方でも見たことがある。藤だ。俯いているにもかかわらず、それはとても鮮やかで甘い香りと共に凛として降るのだ。
気の遠くなるような永い時をこのホグワーツで過ごしている彼女たちは、生きている人間にはとても見つけられないような秘密の場所を、幾つも持っている。
きっと今日、この4時半、私はその隠された場所の一つを紹介してもらったのだろう。
小雨の降る夜明け前。この時が最も美しいからこそ、私は叩き起こされたのだろう。
「……綺麗だね。綺麗すぎて現実じゃないみたい。貴方達にとてもよく似合っている」
「あれ? それは……褒められているのかな?」
「勿論だよ、だって私にはどうやっても似合わない! そんなこと、Kにだって分かっていたはずなのに、それでも私を呼んでくれたんだね」
振り返って「ありがとう」と付け足せば、彼女はまたしても少女のように、ごく普通の14歳であるように、その感謝を喜ぶ笑みを作ってみせた。
このゴーストにとっては、この美しい、藤の香りが小雨と共に降りてくる神秘的な場所に、私を紹介しない方がずっと「らしい」ことであったのだろう。
そうした方が、半透明の片割れと永い時を回し続ける彼女にはいっとう似合っていたのだろう。
それでも彼女は私を呼んだ。朝の4時に叩き起こして此処まで連れてきてくれた。
その意味は解りかねたけれど、単なる気紛れであったのかもしれないけれど、今はただ、彼女の見えない心の変遷の先に与えられたこの景色を喜んでいたかった。
雨と共に降る花に、夜明け前の薄明るい空から降りる甘い香りに、この、命から切り離された二人は何を見たのだろう。
冷たい羽 Y/K/コトネ▽ 切符と共に散りぬ
2019.02.08 Fri * 19:02
好きな人、誰よりも尊敬し、誰よりも恋焦がれていた人。それ故に、私が関わることなど本来なら許されなかった人。
そんな人の好きな色を身に纏える幸福、それ以上のものが、この世界にあるはずがなかったのだ。
臓器が、私の心臓を覆うように移植されていた。
私の身体に息づくことなど在り得なかった筈のその臓器は、けれども拒絶反応を起こすことなく、私の最も深いところで脈打っている。
「勇気」という名の付いた臓器、くらくらとする程に私を安心させる臓器を提供してくれたその人は、
けれども自らの勇気を微塵も欠くことなく、私に切符を渡す前と寸分変わらない眼差しを向けてくれる。
誰もに何もかもを与えるために生まれてきたような人、与える存在、それが彼だ。
彼に与えられた臓器が私に前を向かせる。自分のことを、許させる。
ポケモンと共に旅をした。一人で知らない道を歩くことの恐ろしさに、嘘を吐いて歩き続けた。
大勢の人と出会い、話をした。異なる言葉でまくしたてる彼等を恐れながら、俯いて謝り続けた。
あんなに辛い時間、私の心を締め付けるだけの時間、そんな苦しい時を経ても手に入らなかった、勇気とかいう代物。
それを、ああ、貴方は! 貴方は! 傘を差すような自然さで私に与えてしまわれた!
あの時間は、あの苦しみは何だったのだろう? 遠い日の信託に縋って歩き続けた地獄の日々にどんな意味があったというのだろう?
構わない。意味などなかったとしても、ガラクタのような時であったとしても、そんなことはもうどうだっていい。
貴方に会えた。貴方が私にこの臓器をくれた。私は今、真に貴方と共に生きている。それで十分だ。これまでの苦痛も恐怖も孤独も「これ」で全て帳消しだ。
「どうして、君がそこにいるんだ。どうしてそんな服を着ているんだ。どうしてそんな色に髪を染めたんだ。どうして俺の前を塞ぐんだ」
何故、を投げ続ける男の子を横目に、彼を見上げる。柔らかい視線が降ってくる。
私の肩を抱いていない方の手が、私に「どうぞ」と促すように男の子へと伸ばされる。いいの、と確認を乞うように首を傾げれば、静かに笑って頷いてくれた。
私は男の子へと向き直り、その目を真っ直ぐに見つめて、小さく息を吸い込んで、口を開いてみた。
「私の居場所、私の一番好きな色、私がこの土地で生きる理由、全部、全部、此処に在ったの。やっと見つかったの。私はきっと、このために生まれてきたんだよ」
「……馬鹿なことを言うな。そいつから離れろよ、シェリー」
「そうするよ、君が私に勝てたなら」
ああ、なんて、なんて流暢な言葉だろう! 自らの口からすらすらと流れ出るカロスの言語に私はすっかり高揚していた。
これが勇気の力、私に前を向かせてくれる、私の息を楽にしてくれる、臓器の正体。
この臓器に殺されたって構わない。
誰かにこの力を否定されて、奪われて、昨日までの恐怖を思い出すくらいなら、誰にも取られないところへ一緒に行ってしまいたい。
*
参考曲:vocaloid曲「ホワイトハッピー」
シェリー/フラダリ▽ 冥界の秤が傾くまで
2019.02.07 Thu * 11:37
知らない旋律だった。彼女らしくない、あまりにも覚束ない音運びだったものだから、あたしは少しだけ驚いた。
新しい曲でも作ろうとしているのかしら。……いや、それならば楽譜と共にペンを傍へと置くはずだ。
もしかしたら、誰かに曲を紹介されて、それを聞くだけでは飽き足らず、自分で弾こうとしているのかもしれない。
あたしは花の水を替えようとしていたことなどすっかり忘れて、その知らない音の出所を探ることに執心していた。
あの彼女を苦戦させるなんて、余程難しい曲なのだろう。
その「超絶技巧」と称すべき難題を母へと紹介してきたところに、あたしは彼女の実力に寄せられた信頼を見て、嬉しくなった。
彼女がその難題を解く瞬間をこの耳で聞き届けてみたいと思い、あたしはもうしばらく、この空間にとどまることを選んだ。
一輪挿しの置かれた小さなテーブルの脇に腰を下ろし、防音工事の施された白い壁へと凭れかかるようにして楽な姿勢を取った。
目を閉じて、彼女のぎこちない音が、徐々に確かなステップを刻み始める様子を、狭い小部屋の中で静かにただ聞いていた。
高音の細かい指の動きは彼女の十八番だ。キラキラと星が瞬くように奏でられるそれは私に、様々なものを想起させる。
たとえば、強い風の吹く日に4番道路へ出かけると、満開に咲いた花の赤や黄色が空へと舞い上がることがある。
この、高く小さく軽やかな音は、あの花びらに似ているようにも思う。
またたとえばこの前、お姉ちゃんとエンジュシティに出掛けた時に、丸い棘がたくさん付いた、不思議な形の硬いお菓子を食べた。
金平糖、と呼ばれるそれを全て食べきってしまったときの、袋の中に残っている小さな砂糖の欠片。あれにも少し、似ていると思う。
そうした、ささやかに鮮やかな美しい高音を飲み込むかのような、灼熱の地を這うが如き低音が、
彼女の左手によりひっきりなしに紡がれ続けているものだから、あたしは、そちらについても耳を傾けざるを得ない。
彼女はできるだけ柔らかく、優しく、その低音を花びらや金平糖のあたたかい受け皿にしようと努めて弾いているようだった。
けれども低い音というものの特質が故に、あたしにはどうしても、そのゆっくりと緩慢に這うものが恐ろしく聞こえた。
灼熱の窯。きっとそこに落とされた彼女のトリルは、その細い指によって紡ぎ出された花びらや金平糖は、
呆気なく燃えて、砕けて、溶けて、なくなってしまうに違いないと思われたのだ。
最初こそ、その覚束なさに驚いたものだけれど、しばらくすればもう、彼女の指はいつもの調子を取り戻していた。
力強く叩く。遊ぶように叩く。わざと音を儚くしてみせる。
薄く目を開けて、すっかりその新しい曲と同化してしまった彼女を盗み見る。
彼女の細い体はまるで昔を思い出させるように揺れている。あたしを不安にさせる揺れ方で、そこに在る。
妖精と遊ぶように、ささやかに鮮やかなお菓子や花を空へと散らすように、高音は踊る。
灼熱を這うように、そこに放り込まれた何もかもを失わせるように、低音は穿つ。
その中央にいる彼女は、全ての音を指先に抱え込む一人の少女は、あまりにも美しい何かを奏でている。
死んでしまいたくなる程に美しい、何かを。
「貴方はまた誘いに乗ってしまうの?」
「いいえ、違うわ」
自らの口からそのような、あの頃を思い出させる言葉が出てきたことに驚き、
そしてピアノを弾くことに夢中になっていたはずの彼女が、聞き手であるあたしの言葉に間髪入れず返答したことに、更に驚いた。
あたしの動揺を許すように柔らかく笑うこの女性は、「あら、そんな顔をして」と困ったように笑う彼女は、もう「少女」の姿をしてはいなかった。
あたしの不安を煽ったあの姿はもう何処にもなかった。
「今のわたし……命を謳歌するようになったわたしにこの曲を紹介したいと、そう言ってくださった方がいるの。
思っていたよりもずっと難しい楽譜だったけれど、とても楽しかったわ。なんだか、命の天秤に触れさせてもらっているみたいだった」
「命の天秤?」
「ええ、死ぬことって、やっぱり全てに避けられずやってくるものなんだわ。すべからく公平に、平等に迎え入れられるべきなの。
まだわたし達の順番は来ていない。だからもう少し、……いいえ、許されるときまでずっと、一緒にいましょうね」
今はこうして、時折少し、ほんの少しだけ憧れているくらいが丁度いいのだと、そうしたことをこの女性はすっかり分かっている。
あなたはわたしより先に行っては駄目よと笑う彼女には、正しく時が流れている。彼女はもう、分かっている。
大きく息を吸い込んだ。一瞬だけ、止めた。真似をするように彼女も息を止めてしまい、それがおかしくて息を吐くついでに笑った。
「なんだか悔しいわ。まるでその人の方が、あたしよりもずっとお母さんのことを分かっているみたいじゃないの」
*
参考曲:リスト「死の舞踏」
やさしくありませんように アルミナ▽ 大きな青と小さな青(アリエッティパロ詐欺)
2019.02.06 Wed * 20:19
羽根のように軽い足跡が、少年の意識をゆっくりと浮上させた。
目を開ければ、少し古いテーブルの木目と、その上に置かれた植物図鑑が見えた。
そして、その何者かは、彼が読みかけたままにしていた図鑑と共に、いた。
彼の知らない存在、彼の見たことのない存在、あまりにも小さな彼の「未知」は、本の上を踊るように歩く。
絵の上でその足は止まり、大きくかがんだり首を傾げたり、そうしたことを繰り返しながら、満足した頃に次の絵へと進む。
見開きの全てを読み終えた何者かは、ぴょんと図鑑から飛び降りて、ページの一枚に両手を伸ばす。
カーテンを開けるように、あるいは布団のシーツをベッドの上へと広げるように、小さな両手は本のページを捲りあげる。
小さな両足は本の右端から左端まで、ページを持ったままコトコトと走る。
これ以上引っ張れないというくらい端まで来たところで、その「未知」はくるりと向きを変え、その両手はページを名残惜しそうに放す。
スキップするように本の中央まで戻り、また紙面の上へと上がる。視界に飛び込んできた新しい文字、新しい絵に、感嘆の息が零れる。
風が吹いた。「未知」は振り返った。目が合った。幼い目がぱちぱちと瞬きをした。花を咲かせるように、笑った。
雲間から太陽の光が眩しく差し込み、窓をすり抜けて本を、その傍へと立つ少女を照らす。
よく晴れた日の空を映したような、野原を駆ける風を可視化したような、美しい川の流れから零れた水のような、
……そうしたあらゆる青を宿した髪が、真綿のようにふわふわと、彼女の微笑みのすぐ傍でなびいている。
同じ青を宿した目は、少年の目を覗き込むように大きく見開かれ、
「そこ」に自分の青が映っていることを認めるや否や、その事実を喜ぶようにすっと細められる。
「あら、同じ色」
少年は体を起こすことさえ忘れて、机に伏した体制のまま、人間の少女の姿をしたその「未知」の青を、あまりにも美しい青を、見ていた。
ああ、これが自分と「同じ色」だなんて在り得ないことだ、と彼は思った。
けれどもし、もし本当に「同じ色」であったならどんなにか幸せであっただろうと、そんな風にも思われてしまった。