Afterword1

「生き続ける呪いの話」完結しました。
67話、30万字超にも及ぶ彼等の祈りにお付き合いくださり、本当にありがとうございます。
ご不快に思われるかもしれないところも沢山あったかと思うのですが、どれも彼等の生き様を表現するために欠かせないエピソードだと思いましたので、
生々しい描写も、性描写も、暴力描写も、倫理に悖る言葉も、汚れた激情も、全て、全て書かせていただきました。

以下、いつものように長々と書き連ねております。
面白おかしく書いていたり、至極真面目に連ねていたりと、項目によって様々です。温度差でお風邪など召されませんようお気をつけて。
マーキュリーロード程ではありませんがかなり長くなることが予想されますので、お時間のあるときにさっと、流し読みする程度にお楽しみいただければと思います。


1、全体を通して
(19番目の素数は美しい)
4月6日から書き始めたこの連載は、去年の50万ヒット感謝企画にてリクエストしていただいた連載の、8本目になります。
当初は15話に収めるつもりだったのですが、「プロットを書かない」とかいう奇行をやらかしたが故に、あれよあれよという間に4倍以上になってしまいました。

けれどもどんなに長くなろうとも「素数で完結させる!」という謎の意気込みは捨てていませんでしたので、
18番目の素数である61話を超えた段階で「よし、次の素数は67だから67話まで書くぞ!」などと意気込むに至り、そのおかげでめでたく素数での完結と相成りました。
同じく30万字超(32万字)の連載「マーキュリーロード」では、1話分の蛇足のために素数完結を為すことができなかったのですが、その雪辱を果たせてとても満足しています。
それに、この連載ではどうしても、素数という「美しい数」で終わりたかったのです。美というのは、この連載のテーマでもありましたから。
あと、これは偶然なのですが、67は19番目の素数であり、この「19」番目という数字にまで素数が入っております。なあんて美しい数字だろう!


(2本目の夢小説連載)
この連載は「劣性サルターティオ」に次いで2番目の「夢小説連載」となっています。
当サイトにある連載の9割以上は、ゲームにおける「女性主人公」を夢主とするもので、
それ以外のポケモントレーナーや一般人を夢主とする、スタンダードな夢小説というものを、これまで殆ど書いてきていませんでした。
本来、夢小説というものはキャラクターに「愛されて然るべき」であり、そこに愛の描写というのはほぼ不可欠になってくるところだとは思います。
そういう意味でこの連載は、……ええ、歪んでこそいたものの、いえ純粋が過ぎたがために狂人めいていたのですが、やはり「夢小説」であるのではないかと考えています。
第二章ではズミさんに、当サイトでは珍しく、本当に沢山の「愛」を告白していただきましたから。

ズミさんは確実にアルミナに想いを寄せていました。彼女を愛していました。彼女もズミさんを慕い、彼を心から愛していました。
このような「想いの共鳴」という奇跡が起きていたにもかかわらず、二人の間にはこのような地獄の旋律が生まれてしまいました。
そういう意味での「報われなさ」「想えば想う程に足を取られる様」というのは、木犀やマーキュリーロード以上に惨いものだったのではないかと、個人的には思っています。


(「木犀」と同じ世界線)
XYの連載を読んでくださっている方は既にご存知かもしれませんが、XYには異なる4本の世界線があります。

X1:樹海(X、ED後、「あいつ」がフレア団ボスを探して穴に潜った場合)
X2:躑躅(X、フレア団ボスとの最終決戦後、「あいつ」があの場に留まった場合)
Y1:木犀(Y、ED後、「あいつ」がフレア団ボスを探して穴に潜った場合)
Y2:星筏(Y、フレア団ボスとの最終決戦後、「あいつ」があの場に留まった場合)(未執筆)

カロス地方を舞台としたこの「やさしくありませんように」は、Y1「木犀」に準じる世界線の物語となっています。
そして世界線が同じというだけでなく、「やさしくありませんように」と「木犀」は密接に関連しています。
木犀を未読の方、フラダリさんに興味のない方にとっては、つまらない味付けになってしまうかもしれないなあという懸念はあったのですが、思い切って書かせていただきました。
こちらについては後程、大きくページを割いてじっくりまとめたいと思います。


(「やさしくありませんように」に込めた意味)
4月にこの連載を書き始めた頃、連載のタイトルは「優しくありませんように」でした。
けれども第二章、第三章を書き続けているうちに、もう一つの意味である「易しい」も、この連載の主要なテーマとなり得るように思われたので、
タイトルを「やさしくありませんように」という平仮名に変更するに至った、……という経緯が実はありました。
平仮名への変更、その意味を即座に見抜いてくださったコグマさんに、今一度、心からの感謝を申し上げます。

実はコグマさんには、『この「やさしくありませんように」は一体、誰の言葉だったのか?』という考察も、お寄せくださったご感想の中でしていただいていました。
頂いたご考察はある意味、正解でした。というのもこの物語の中で、「やさしくありませんように」と祈らなかった人物など、誰一人としていなかったからです。
文章の形で示したのは「あたし」と「お姉ちゃん」くらいのものでしたが、アルミナもズミさんもマリーも、同じような祈りを抱いていました。
生きることを選んだ人物の全てが「やさしくありませんように」と祈り続けていました。


(”This is our cruel prayer.”)
この連載の全てを、一冊の「本」として見ていただけると解りやすいと思います。

随所で匂わせていましたが、彼等の生き様を「本」の形にしようとした人物こそ、アルミナの友人となり、この家族を支え続けてきたマリー本人です。
マリーが過去に書いた本として、彼女が19歳の頃に喪った「親友」を綴ったものがありますが、
マリーの執筆活動というのはこのように、「取り返しのつかないことをしてしまったという罪」を償うために専ら、行われていました。
すなわちマリーは、この家族に対して後ろめたいことがあったからこそ、この家族の在り方というものを「本」にしようと思ったのです。
彼等の生き様を記録すること、彼等の50年を一冊にまとめ上げること。それが贖罪になると思ったからこそ、マリーはこのような手段へと縋るに至ったのでしょう。
マリーも、優しくなどなかったのです。

しかし、第一章や第二章が「話し口調」になっているように、これはまだ本としての「完成形」ではありません。
この「やさしくありませんように」は、マリーが本を書くために彼等から話を聞いて回っている、その過程を示したものであり、
第一章ではアルミナの語りが、第二章ではズミさんの語りが、第三章では「あたし」の日記が記載されているだけ、という、いわば未完成の代物に過ぎません。
65話の「手紙」も、オーナーの遺品を整理していた「あたし」が見つけて、マリーに寄贈するに至ったものですし、ラスト2話も「お姉ちゃん」からの手紙そのものです。

けれど実際にマリーが仕上げることになる「本」も、この「やさしくありませんように」と似たような構造になっていることでしょう。
実の娘から受け取った手紙は流石に載せないと思いますが、それでも彼等の語り口を少し「書籍らしく」整えて、マリーは彼等の物語を一冊の本に変えていくのだと思います。
この「やさしくありませんように」は、マリーがこれから出版することになる本の「原型」「プロット」のようなものであるのかもしれません。
【本という形で紡ぎ出したものを見ている】という、この物語の真相に辿り着いてくださったポプリさんに、今一度、心からの感謝を申し上げます。


(「アルミナ」と「シーダ」)
トップページの24を覗いてくださっている方は、私がこの連載の執筆中に、この2つの名前を再三に渡り唱えている様を、見てくださっていたことと思います。
実はこの「アルミナ」というのは、この連載における夢主・アルミナのことであり、「シーダ」というのはこの連載における「お姉ちゃん」のことです。

「やさしくありませんように」は夢小説ですので、他の連載のように主人公の名前を固定させるべきではないという考えのもと、
私は「虚数(不定の存在)」「愛されるべき人」「私(お読みくださっている方)」という意味を込めて、Dream部屋での夢主は全て「アイ」という名前で統一させていました。
けれども大切なお友達が、この強烈な個性を持つ夢主に「アルミナ」という名前を付けてくださいました。
名前変換システムの都合上、こちらの名前を「やさしくありませんように」の夢主だけに当て嵌めることが難しかったので、
本編でのデフォルト名は全て「アイラ」のままに統一させていただいておりましたが、私の中ではもうすっかり、この夢主の名前は「アルミナ」で定着してしまっています。

ちなみにアルミナは【ルビーやサファイアの主成分】を意味する名前であるようです。
【青を羨望しながらも赤、赤を拒絶して青に転じた彼女】でありながら、野菜の赤には強い愛着を示し、更には外の世界の青(空)を悉く恐れていたという、
赤と青を行ったり来たりしていた彼女にぴったりな名前であると、私も思っています。
アルミナ、大好きな名前です。「愛されるべき人」であった夢主に、素敵な名前を付けて、より生き生きとしたものにしてくださったこと、心から感謝しています。
貴方に貰った名前を主人公に据えられること、とても嬉しかったです。本当にありがとう、まるめるさん!
※サイト倉庫化および移転に伴い、夢主の名前を「アルミナ」に変更することができました。

そしてもう一人の名前「シーダ」についてですが、こちらは「林檎酒」を意味する「シードル」から導き出してくださった名前です。
XYの主人公「シェリー」が「葡萄酒」のシェリー酒から来ているので、おそらくはこの名前と意図的に類似させてくださったのでしょう。なんて粋なネーミングセンスだ……!
(ちなみに「シェリー」というデフォルト名には他にも、フランス語で「愛しい人」を呼ぶ時の「cherie」という意味を含ませています)
「お姉ちゃん」の名前もこちらでは全く考えていませんでしたので、この名前を頂いた瞬間から、私の中でもうあの子はすっかり「シーダ」になってしまっていました。
貴方に貰った名前を物語に溶かさせていただけること、とても光栄でした。本当にありがとう、翠子さん!

勿論、このアルミナとシーダという名前は、書き手である私自身の中で勝手に設定していたものであり、この作品はあくまでも「夢小説」の形を取っておりますので、
読んでくださる方の数だけ、夢主の名前、そして「お姉ちゃん」や「あたし」の名前があって然るべきだと考えています。
今回、「お姉ちゃん」や「あたし」の名前を本編の中に溶かすことはしませんでしたが、皆さんは、彼女達のことをどのような名前で読んでくださっていましたか?


2017.7.7

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