27 cantabile

『アクロマさんへ

久し振りのお手紙です。ちゃんと届いていますか?
解らないけれど、貴方に伝えたいことが沢山出来てしまったので、手紙を書きました。

私はあれから、一緒に戦ってくれたコバルオン達にお礼を言いに行きました。
彼等はジャイアントホールの、プラズマフリゲートが飛び去った跡地で私を待ってくれていました。
彼等はモンスターボールの中に入って、これからも私の力になることを望んでいたようです。しかし私は断ってしまいました。
コバルオン達を必要としている野生のポケモン達がきっといる筈だから、彼等を守ってあげてほしい。そう言うと、彼等は森の奥へと立ち去りました。
彼等の力がなければ、私はプラズマ団と戦い抜くことができなかったでしょう。何度、お礼を言っても足りません。

その後、私はセイガイハシティのポケモンセンターに立ち寄り、ポケモン達を休ませてから、ジャイアントホールの西にある23番道路へと向かいました。
その先には、8つのバッジをチェックするためのバッジチェックゲートがあり、そこを抜けた先にはチャンピオンロードがポケモンリーグへの道を阻んでいました。
険しい道のりを経て、ようやくポケモンリーグに辿り着きました。

四天王の皆さんはとても強敵でした。
悪タイプの使い手であるギーマさんとのバトルでは、ダイケンキの格闘タイプの技である「リベンジ」が活躍してくれました。
ゴーストタイプを繰り出すシキミさんは、ロトムがゴーストタイプ対決を挑み、辛くも勝利を収めました。
レンブさんは格闘タイプの使い手です。クロバットが全てのポケモンに先制を取り、華麗なアクロバットを決めてくれました。
エスパータイプのポケモンを繰り出すカトレアさんには、再びロトムのシャドーボールで応戦しました。

チャンピオンは、ドラゴンタイプを主力にしたポケモンを使いこなす、私よりも年下の少女、アイリスさんでした。
6匹の手持ちに、3匹で挑んだ私達は苦戦を強いられました。しかしそんな不利な状況にもかかわらず、彼等は精一杯、力を出し切ってくれました。
最後のポケモン、ラプラスに、ロトムのかみなりで決定打を与えられた時の、あの感動をどう書き表せばいいのでしょう。
私は彼等と共に、イッシュ地方のポケモンリーグで殿堂入りを果たしました。

私の殿堂入りを、母やヒュウは勿論のこと、知り合いの先輩達も、元プラズマ団の人達も、とても喜んでくれました。
けれど、誰よりも一番、この喜びを伝えたかった人に、私は出会えないままでした。

私は貴方を探すために、訪れていなかったイッシュの土地を、もう一度旅してみようと思い立ちました。

氷漬けになった町、ソウリュウシティは、ジムリーダーであるシャガさんを中心とした大人達の復興により、完全に元の形を取り戻していました。
彼等はプラズマ団と戦った私を湛えてくれましたが、私は彼等の心からの賞賛に、素直に喜ぶことができずにいました。

その町から西へ向かった先の9番道路には、以前、アクロマさんと立ち寄った「アールナイン」がありました。
ここの倉庫でおじいさんに、使えなくなった電化製品を見せてもらいました。
その中の一つ、洗濯機にロトムがすっと入り込み、姿を変えて出てきたので驚いてしまいました。
どうやらロトムは電化製品の中に入り込み、その姿とタイプ、使える技を変えるポケモンだったようです。
今、私が連れているロトムは、扇風機に入って出てきた「スピンロトム」という姿をしています。新たにエアスラッシュという技を覚えて、飛行タイプが付きました。
更に心強くなって、バトルでも活躍の幅を広げています。

更にそこからシリンダーブリッジを渡り、8番道路を越えた先にはセッカシティがありました。
夏なのに涼しい風が吹くこの町で、私はダークトリニティに出会いました。
「ゲーチス様は何もできなくなってしまった。だからお前を許さない」彼等はそう言いました。
何もできなくなった。その意味が解らずに私は当惑しました。それは、彼の体調が悪くなってしまったということなのでしょうか。
それとも、彼の計画を邪魔した私が、彼の心を折ってしまったということなのでしょうか。
ダークトリニティの1人、アブソルを連れたダークさんが言ったあの言葉の通りならば、きっと後者でしょう。
けれど、私は彼等に謝ることができませんでした。
彼等は私にバトルを仕掛けてきて、私が勝利を収めると、引き留める間もなく、いなくなってしまったからです。

その後も、私はイッシュのあらゆる場所を回りました。
リュウラセンの塔ではアララギ博士に出会い、シンオウ地方という遠くの土地の名物であるという「森のヨウカン」を貰いました。

ライモンシティの東にある16番道路を進むと、ワンダーブリッジという小さな橋があり、その先にはホワイトフォレストという、自然豊かな町がありました。
そこにある白の樹洞の最下層で、私は元イッシュチャンピオンのアデクさんの孫、バンジロウさんとバトルをしました。
その後、私はサンギタウンにあるアデクさんの家にお邪魔し、お孫さんと戦ったことを伝えました。
そこで彼ともバトルをしました。元チャンピオンの名に恥じない、堂々とした戦い方をする人でした。

サザナミタウンでは、シンオウ地方のチャンピオンであるシロナさんとポケモンバトルをしました。
その町には海底遺跡がありましたが、何度潜っても水流の関係で、一定時間が経過すると遺跡の外へ押し出されてしまいます。またじっくり調査してみようと思います。

他にも、ヤマジタウンの近くにある不思議な家、ストレンジャーハウスや、ホドモエシティにあるヤーコンロード、フキヨセシティを北に進んだ先のねじ山、
リゾートデザートにある古代の城、16番道路の奥にある迷いの森や、そこからホワイトフォレストに繋がるワンダーブリッジ、14番道路にあるほうじょうの社などを訪れました。
新しい場所に向かう度に、新しい発見や、新しいポケモンとの出会いがあります。
世界は複雑で、けれどそれ故に美しいのだと、前に先輩の一人が言っていたことを思い出しました。

私の先輩の家は、イッシュの南東、カノコタウンという小さな町にあります。
私は彼女の家を目指して、そこへ向かうことにしました。
ヒウンシティからスカイアローブリッジを渡り、矢車の森を抜け、シッポウシティ、サンヨウシティ、カラクサタウンに立ち寄り、1番道路の先のカノコタウンに辿り着きました。
私は今、彼女の家で手紙を書いています。
この手紙の住所がカラクサタウンだったので、アクロマさんにもしかしたら出会えるかもしれないと思っていたのですが、結局、見つけることはできませんでした。

アクロマさん。
今、何処にいますか?何をしていますか?

貴方と話したいことが、沢山あります。

シア


手紙をポストに投函した翌日、私はカノコタウンを離れて、1番道路から西に進んだ先にある広い海を、ダイケンキの背中に乗って渡っていた。
ここは潮の流れが激しいらしく、進みたい方向に進めずにダイケンキは悪戦苦闘していた。私は笑いながら「いいよ、このまま流れに乗っていこう」と囁いた。

彼と会えない時間、私は不安にばかり苛まれていた訳ではなかった。私は私の傍を選んでくれるポケモン達を愛し、彼等との時間を楽しんでいた。
それは私の選択に責任を取ることでもあった。
私は、彼等と一緒に居ることで、彼等の強さを最大限に引き出せるという証明をしてみせた。だからこそ、その当人である私が迷う訳にはいかなかった。
それに何よりも、私はポケモンが大好きだった。

彼とは、きっと、また、何処かで会える。
そう唱え続けることで、私は強くも弱くもなれた。

そして、その潮の流れに身を任せ、流れ着いた先で、私は信じられないものを目にする。

「……」

幻覚だろうか?
会いたいという、その強すぎる気持ちが、ついに私の心を狂わせ始めたのだろうか?
しかし何度瞬きをしても、何度目を擦っても、その船は消えてはくれなかった。
心臓が大きく跳ねる音がした。

私はダイケンキの背中から飛び降り、彼をボールに仕舞ってから、一歩を踏み出した。
それは次第に早足になり、地面を強く蹴るようになり、遂に私は全速力で走っていた。潮風が私の頬を撫でていった。
鉄の階段を上り、船へと乗り込む。船尾から入って、最奥のワープパネルを勢いよく踏んだ。


二つの太陽がこちらを見ていた。


その目は驚きに見開かれていた。私は構わず駆け出した。
彼はやがて階段を駆け下り、その腕に飛び込んだわたしをしっかりと抱き留めた。

「手紙、届いていますよ」

「あ……」

「奇遇ですね。私も、貴方にずっと会いたかった」

私は彼に縋り付いた。彼の白い手をそっと握った。
私の手は、当然のように優しく握り返された。


2014.11.20

カンタービレ 歌うように

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