比翼と連理

(参考:「連理に通る悪事」)

「立派ね、とても」

トウコちゃんらしくない言葉に私は思わず目を丸くしてしまった。彼女もその「らしくなさ」を自覚していたらしく、少しばかり恥ずかしそうに肩を竦めてみせた。
12歳という、何処からどう見ても子供であるその年齢で、人生の大きすぎる決断を軽率にした私のことを、何故だか彼女は立派だと評してくれた。

「私は母さんにそうした覚悟を問われなかったわ。友達を家に泊める感覚で、Nをずっと、もう何年もの間、家に置いてくれていたの」

「そうなんだ! 優しいお母さんだね」

「さあ、どうだか? ……勿論、Nも私も、その分の手間を担う形でちゃんと家での務めは果たしていたわ。家事だってしたし、お金だって家に入れた。
それでもコトネとシルバーの果断に比べれば、私達の時間を支えるものは随分と曖昧で、子供っぽいものだったと言わざるを得ないわね」

私がシルバーを強引に家へと招いたあの日から5年。出会った頃から20cm近く背を伸ばしたシルバーはもう、あの頃のリングを嵌められなくなっていた。
体は大きくなっても、金属製の誓いの証はそれに合わせて大きくなってなどくれないのだ。

それでも彼は、あの子供っぽい私の暴走をいつまでも覚えている。薬指に嵌めることができなくなった指輪を、細い鎖に通して首へと結んでいる。
同じように指輪のネックレスを作って彼の真似をした私も、あの日のことを忘れられないまま、今日まで過ごしている。
ヒビキの「連理の木」という言葉を受けて小さく笑い、指輪を手に取り「手を出してくれ」と告げた、彼の優しい音を、きっといつまでも覚えている。
その、あまりにも恥ずかしい、あまりにも幸せな思い出を得ることができたという点においては、あれは確かに「果断」であったのかもしれなかった。

12歳の私が限界まで背伸びをして購入した指輪は、安くて軽い金属で出来た、何の装飾もないシンプルなものだった。
それに比べると、今、彼女の薬指に輝いている指輪は、正しく「誓い」の輝きを有していて、ああこれが結婚するということなのだ、と思わざるを得ない。

「黒いダイヤ、かっこいいね。とてもよく似合っている。
トウコちゃんは結婚しても、子供を産んでも、おばあちゃんになっても、ずっとNさんと一緒にいて、その幸せな姿をこの指輪はずっと見ていくんだね」

「案外、私達の変わらないままを見て呆れることになるかもしれないわよ」

あんたも災難ね、と左手を口元に掲げて、目線を其処に落として、囁くように彼女は言う。まるでゼクロムに語り掛けているみたいだと思った。
彼女はその指に黒い宝石を宿すことで、イッシュでのあの運命をやっと許せるようになったのかもしれなかった。

「Nさんのこと、好き?」

「あはは、馬鹿言ってんじゃないわよ」

彼女らしさを極めたその返事を受けて、黒いダイヤが眩しく笑った気がした。

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