G、バウタウン前編

そういえばね、発売前にとある方とのお話の中で「ソードシールドにヨマワルさん出ないかな!」とはしゃいでいたのですけれども、いましたね、いましたよねヨマワルさん!

ワイルドエリアの「見張り塔跡地」というところにヨマワルさんがいらっしゃるのを見つけてしまったので、これはお仲間にしなければなるまいて! と思い、
エンジンシティの駅にある自販機で大量のミックスオレを購入し、ジメレオン達と共に意気揚々とその場所へ向かったのですが、
いざHPを良い感じに減らし、ワンパチの「ほっぺすりすり」で麻痺状態にしてからボールを投げようとすると、

「とても投げるスキのある相手ではない……!」

と表示されてしまいます。
初代のポケモンタワーにいたガラガラ、BW2のホワイトキュレム、USUMのネクロズマ第一戦、ああいう感じで捕獲不可能の状態となってしまっているのですよね。
なんでや! おい、なんでなんや! 見くびるなよヨマワルさん、我がジメレオン達の力を!
……などと憤っていたのですが、ターフタウンのジムバッジを手に入れたときに、ヤローさんと握手をしながら妙なテキストが出ていたのを思い出しました。

「レベル25までのポケモンを捕まえられるようになった!」

どうやら今作、ワイルドエリアでストーリーの進行度合いを完全に無視した高レベルのポケモンを序盤で捕まえ最強パーティを作ってしまうようなことがないように、
捕獲できるポケモンのレベルに上限が設定されており、ジムバッジを1つ手に入れる度にそのレベルキャップが少しずつ解放されていく、という仕様であるようです。
そうですよね、ワイルドエリアの駅を降りてすぐのところにいたイワークとか29レベルなんていうえげつない数字でしたものね。
ある程度の制限がないとゲームバランスが崩れてしまいますよね。

逆に言えば、そうしたこれまでにないレベルキャップというシステムを新しく作って導入してまで、ポケモン製作者様側としては、
「小さく可愛いポケモンからえげつない強さを持ったポケモンまで本当に色々いる」という野生のリアルをワイルドエリアにて表現したかった……ということなのだと思います。
ワイルドエリアにかけるスタッフ様方の熱意に感服しつつ、レべル26~29のヨマワルさんしか出現しないエリアでの彼の捕獲を諦め、次の町へ進みましょう。

……でね。
5番道路で活きのいいネギと紫ベイビーをパーティに加え、景観の素晴らしい立派な橋の上で羽を拾いつつ、トンネルを抜けてバウタウンへと到着したのですが、
此処でとんでもないイベントがあったので、当時の興奮のままにメモしたものをほぼそのまま以下に移すことにいたします。

(バウタウンに到着してすぐのところにオリーブさんとローズさん、少し離れたところにビートがいる)
「申し訳ございません! 委員長はご多忙でして……、さあ、お引き取りを! どうぞお引き取りください!」
「はーい! 委員長またねー!」(女性二人が立ち去る)
「あ、みんな……まだまだサインするよ? わたくしのポケモンリーグカードも皆さんにプレゼントしますよ!」

(ローズさんが頭を抱える描写)
「ファンが支えてくれるからこそわたくしたちはやっていけるのに、なのに邪険にするのはね……オリーヴくんは厳しすぎるかもよ?」
「勿論ファンも大事ですので、委員長には彼等のためにも仕事をこなしていただかないと……」

(ここでビートがローズさんの方へ歩み寄ってくる)
「ぼくもローズ委員長のため、全力で頑張りますから!」

(ローズさんが振り返って)
「えーっと、きみは確か……」
「ビートです」


……? ……!?

「そう、ビートくんだ! 昔、ポケモンをあげたときからすると、随分と立派になりましたよね。
ジムチャレンジに勝ち残るのはきみか……チャンピオンが推薦したトレーナーだろうね」
「委員長に選ばれたぼくは誰にも負けません! それでは失礼いたします」

(ビートが立ち去り、主人公が歩み寄る。主人公が声をかける前にローズさんが気付き、歩み寄ってくる)
「きみはナユくんだね!」


……!? ? ?

「ダンデくんが何故推薦したのか、わたくしも気になっているんだよね。
そうだ! 流石わたくしだ、いいことを思い付いちゃったよ。
きみはこれから、ジムリーダールリナくんに挑戦するよね。ジムバッジを取ったらわたくしがお祝いしよう! きみのこと、色々知りたいからね」
「委員長、そろそろ……」

(オリーヴさんの声にローズさんが頷く)
「ガラルの未来のため、張り切ってくださいね!」

(ローズさんが町の奥へ立ち去り、オリーヴさんが主人公へと向き直る)
「委員長はこの町のシーフードレストランに行かれます。ですからあなたもそれまでにジムバッジを勝ち取りなさい」
(オリーヴさんも同じ方向へ立ち去る)

……。

……いやいやいや。
待て、待て待て待て待ってくれよおい! え、え……え!?
え、ちょ、なんでここもっとカメラ寄せてくれなかったんです? なんでビートの表情の変化をもっと映してくれなかったんです?
だって、だってあんまりじゃないですか?

いや、いや色々と言いたいことはありますよ? 「まだまだサインするよ?」のフランクが過ぎるところとか、お茶目さんかなーとか、突っ込みどころは色々とありますよ?
でもこの差別化はあんまりじゃないですか? 酷いことになっていませんか?
だってだってまだジムバッジ1個しか持っていないんですよ? その段階でこれ? え……?

この不自然さ、かなりぞくっとしませんか。
だってビートは委員長に推薦されたんですよね。ビートはそれを誇りに思っていて、その事実が彼の矜持を支えているんですよね。
なのにローズさんは自身が推薦したジムチャレンジャーであるビートの名前をすぐに思い出すことができないんだ。ビート自ら名乗るまで名前が出てこなかったんだ。
にもかかわらずだよ、主人公の方には声を掛けられるより先に気付いて「きみはナユくんだね」って、名前を呼ぶんですよ。
主人公は委員長に推薦されている訳じゃなくて、チャンピオンの推薦者なんですよ。ローズさんは直接関わっていないんですよ。
しかも弟のおまけみたいな感じでついでに推してもらったみたいな感じの、弟のためのライバル枠として情けを貰ったような形の、あれだったはず、なんだけど、……あれ……?

な、なんでこんなことに? 何故ローズさんとビートの間にこんなにも隔たりが出来ているんだ?
そして何故ナユはローズさんにこんなにも早々に歩み寄られてしまっているのだ?
しかもレストランでお祝いとかもうフラダリカフェのあれじゃないですか、あの再来じゃないですか。
このレストランでもし、もし万が一ローズさんが「おうじゃのしるし」をくれたりしたらもう間違いなく黒です。こいつが犯人です! 捕まえろぉ!(錯乱)

以上が当時(11/16)の錯乱の様子でございます。お目汚したいへん失礼しました。

ポケモンの世界において、10~14歳くらいの子供が並々ならぬ強さで勝ち上がり、その地方の危機を救い、悪の組織を解散させ、
しまいにはポケモンリーグの頂点に立つ……という流れは最早お約束と言っていいものですが、
私は「ただの子供であったはずの主人公へどのような運命性や特別性を付与して「伝説」たる存在に仕立て上げていくのか」という流れを追うのが非常に大好きでして……。

最序盤でダンデさんという、ガラル最強のポケモントレーナーからの推薦を受けてジムチャレンジ挑戦の資格を得たり、
またホップとのバトルを終えたタイミングで「ねがいぼし」が降ってきて、ダイマックスバンドを得ることになったり、
……というのはまあ特別たる要素ではあったかなと思うのですが、ちょっと要素としては弱いかな、と思ったりもしました。
なので私はストーリーを進めながら「さてそろそろ主人公を伝説に作り変えるための重大なフラグが立って然るべきだろう」とわくわくしていたのです。
しかしこれは……この描写は……あまりにもきつくないかな……。

「選ばれし者」というのは、「黒幕に目を付けられし者」である。
ポケモン界においてこの二者は同義に等しいようなところがあるので、そういうところからの「唯一性」の装飾に入るという点は非常に魅力的だと思っています。
ローズさんという、現時点で(私の中では)最も黒幕らしき人物からの「注目」というのは、彼女を特別で有らしめるに十分すぎる要素でしょう。

ただ、そんな主人公の特別性を強調させるためにビートを軽んじる台詞を間に挟む意義はほとんどないし、
そんな理由でビートが忘れられる台本が書かれたのだとしたら、本当に彼が救われない。
後々、ローズさんとビートの関係も明らかになってきますが、どう考えてもローズさんはビートを「忘れちゃいけない」立場にあるはずだと私は考えているので、
このタイミングでもかなりローズさんにはショックを受けたのですが、後々入ってきた情報を統合すると更にこう……遣る瀬無い気持ちが込み上げてきます。

これまでの物語にも、主人公の特別性を強調するために他の人物を貶める発言が登場することはありました。
BWの「電気石の洞穴」にてNが発した台詞の
「チェレンは強さという甘い理想を求めている。ベルとやらは誰もが強くなれる訳ではないという悲しい真実を知っている。
キミはどちらにも染まっていない、いわばニュートラルな存在」
というのが最たる例だとは思うのですが、
おそらく、Nが考えているよりもずっと精神的に強いチェレンやベルは、Nの彼等に対するこのような認識で心を折ることなどまずしないでしょう。
しかもこの台詞は、チェレンもベルもいない状況下で、主人公にのみ向けられています。彼等を傷付ける意図で用意された言葉ではないのですよね。

ただ、今回のはどうだろう。これはあんまりじゃなかろうか。
勿論、ビートを傷付ける意図で用意された台詞ではないのだろうとは思っています。
けれども結果として、ビートの前で「主人公の特別性」を強調させようとしたがために、彼が致命的な傷を負うことになってしまってはいないだろうか……と、考えてしまいます。

此処までのガラルの旅、出会った人は本当に素敵な方ばかりでした。
ビートに、ダンデさん、ソニアさん、マリィ、ヤローさん、彼等の言葉に込められた温度を疑うべくもありませんでした。
ビートは端から主人公を敵視していましたので、その敵視を疑う理由だってありません。
共にトーナメント優勝を狙う分かりやすいライバルですから、その敵意は十分に納得できるものでしょう。
でもローズさんのことは疑わなければならない。彼の笑顔を信じてはいけないと、このイベントに警告されている。そんな心地を覚えました。
そういう「不信」という一滴のスパイスを落としてくれたという点においては、ローズさん、最高に魅力的な人物であったと、今も心からそう思っています。

2019.12.2

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