「猛毒が癒した傷の話」これにて完結です。お読みくださった皆さん、本当にありがとうございました。
以下、「天を読む藍」についていつものように長々と書き連ねております。ネタバレに容赦がありませんのでご注意ください。
この連載は元々、「モノクロステップ」番外として書くつもりでした。
8話くらいにすっきり収められたらいいなと思っていたのですが、しかしいつものように膨張し、プロット段階で既に10話超えが予想されたので、
「これは番外編に留めておくわけにはいかない、彼等の物語としてLongのPt枠に置くべきだ!」と判断し、掘り下げに掘り下げを重ねた結果このようになりました。
「天を読む藍」の「藍」は主人公の目の色として描写しております。
ヒカリの目を黒とするか紺色とするかは、髪の色と同じく意見の分かれるところではあると思いますが、ここでは「夜の色」「藍色」として統一させて頂きました。
藍という植物があるのですが、これを使って布を染める「藍染め」という染め物の文化が、私の地元ではそれなりに盛んです。
濃い青、藍色に染められた衣類などは防虫効果が高く、虫食いに遭いにくいことから長持ちするようです。(残念なことに藍染の衣類を持っていないので実体験ではないのですが)
また、藍という植物は漢方などにも使われているようで、消炎、殺菌などの効果があるようです。煎じたり湿布にしたりすることで、殺菌、解熱などにも使えたのだとか。
このように防虫、抗菌作用があり、私達にとっては有益であるこの植物、しかし菌や虫にとっては寧ろ害を為すものである、ということが見えてくると思います。
菌にとって藍は毒なのです。……毒なのです。
「彼女は猛毒だった」
回想でこの言葉を意図的に繰り返して用いたのはそういうことでした。
冷たい温度を纏い過ぎたギンガ団と、温もりを発し続けているような彼女は本来、相容れない存在である筈でした。
共に在ろうとするならどちらかがその姿を変えなければいけませんでした。そうしないと溶かされてしまうからです。凍えてしまうからです。
その二者の対比、二者が関わり続けることの危険性を「猛毒」というストレートかつ辛辣な言葉でばっさりと言い切らせて頂きました。
そして事実、この連載でのギンガ団は彼女という猛毒によってその姿を変えなければいけなくなりました。
しかし果たしてそれは、「毒される」ということは、彼等にとって本当に間違ったことだったのか。
彼女の猛毒は逆に、彼等の心に突き刺さったものを温かく溶かし癒したのではなかったか。
猛毒が彼等に与えた強烈な痛みの数々は、しかし互いが心を通わせ合うために必要な、当然のものなのではなかったか。
……というように、「猛毒が癒した傷の話」という副題の意味を、11話ラストにてそっと回収したところで、彼等の「回想」は一応の終了となりました。
ただ、猛毒だと危険視していた彼女に「癒された」姿というのをやはり最後に示しておく必要があると思いましたので、最後の天体観測のシーンは外せないものだったなと思います。
最終話に登場したオリオン座は、星座に疎い私でも見つけることのできる明るい星座で、特に真ん中に連なる三つの星「オリオンの三つ星」はかなり解りやすい並びをしています。
冬から初春にかけて南の空に見えると思うので、天気のいい日に探してみてください。
私が解るのはこのオリオン座と、あとは北斗七星くらいです……(笑)
あと、冬の大三角に銀河が走っているということを私は調べるまで知りませんでした。天の川って夏だけのものじゃなかったのですね!
さて、今回のこの「天を読む藍」を書くに辺り、第四世代の世界観、ギンガ団という組織のあれこれや下っ端、幹部、アカギさんの台詞などを念入りに調べました。
第四世代は私も長らくそのストーリーや人物を掘り下げることをしていなかったので、このまま連載を書くとあらゆるところで間違いが生じてしまうような気がしたのですよね。
幹部たちやアカギさんの一人称、口調、下っ端がアカギさんに懐疑の念を見せ始めたのはいつ頃か、幹部たちは互いのことをどう思っていたのか、など、注目すべき点は幾つもあり、
そうした下調べの後に彼等を活字に再現していくという作業は、まるで初心に帰ったようでとても新鮮で楽しく、苦労もありましたが充実していたように思います。
私はプラチナを1年程前にさっくり、ストーリーだけ追う形で遊んだのですが、
ギンガ団の彼等はあまりにも仲間割れが激しいというか、解散後に各人が取る行動がバラバラだったり、幹部同士が互いを馬鹿にするような口ぶりを絶やさなかったりと、
ああ、あの団結は本当に「仮初め」のものだったのだなあ、アカギさんを失ったこの組織はこんなにも呆気なく砕けてしまうのだなあ、と悲しくなったことを今でも覚えています。
そうしたギンガ団をこの少女が変えることが叶うのだとしたら、では、それはどの段階からであるべきなのか?たった10歳の少女は彼等の心をどのように揺らし得たのか?
それでいて原作のイベントをこなし、反転世界に踏み入るまでの流れを崩さず通すとして、ではどのように書くべきなのか?
努めて心を閉ざしていたアカギさんのあれやこれの発言には、どれ程の感情を込めさせるべきなのか?
ED後にトバリのアジトで待っていたサターンさんの存在を、どのように今後への希望に生かすべきなのか?
それでいて、トウコが少女を連れ出さなければ二人の再会は在り得なかったのだとするためには、彼女にどれ程の重荷を背負わせるべきなのか?
他にも考えなければいけないことは沢山あったのですが、そうした試行錯誤を経てようやく、13話にまとめることが叶いました。
原作では見事にバラバラになってしまった彼等を再び集わせるために、かなり派手で強引な心理の推移を盛り込みました。
そのため、皆さんの想定しているギンガ団の姿と、少しばかり異なるところもあったかと思います。
拙いところ、納得のいかないところなどあるかもしれませんが、彼等の辿り得る一つの可能性として、どうぞお楽しみ頂ければと思います。
最後になりましたが、シンオウ地方で繰り広げられた主人公の冒険、ギンガ団との対峙を紐解くきっかけを下さった冬華さん、
タイトルに連ねるべきインパクトのある言葉の並びが思い付かない!と叫ぶ私に、素敵な曲をご紹介してくださり、現タイトル完成の契機となってくださったすえさん、
そして彼等の物語にお付き合い頂き、更にはこの長いあとがきにまで目を通してくださった皆さん、本当にありがとうございました!
これからも皆さんの娯楽の一助となれますよう、精進して参ります。
2016.3.23
I’m looking forward to seeing you in the next world !