3-2:さあ、飛び交う石を撃ち落とし

 イッシュ地方には「トリプルバトル」「ローテーションバトル」と呼ばれるものがあるらしい。バトルフィールドに6体のポケモンを出して行うそれは、単純計算でもダブルバトルの1.5倍、苛烈を極めることになる。でもきっと、戦略の複雑性は1.5倍どころの話では済まないはずだ。3倍、いやそれ以上に頭を使うことになるに違いない。
 一度やってみたいと思った。脳髄が沸き立つ程の熟考により私のポケモン達を勝利へ導いてあげたかった。ポケモンという不思議な命自体に、ポケモンバトルという奥深い「儀式」自体に、おのずから敬意を表せずにはいられないような、そうした崇高なバトルの場に挑んでみたかった。そうした純度の高い戦いで得られるものを思うとわくわくした。それは決してこのような、報復と見せしめを兼ねた低俗で利己的な戦いを経て手に入れてしまう、薄汚れたゴミのような何かではなくて、ね?

「インテレオン、後ろから一体来ているのが分かるね? 躱してから7時の方向にもう一度「ねらいうち」だ! 次で決めるよ!」

 水の弾丸を装填したスナイパーは次々と相手のポケモンを倒していく。私の愛したその旋律は今日も真っ直ぐで力強く、美しい。その様子に見惚れる間もなく、周りからは一際大きな歓声が上がる。そう、この声。これを「心地よくない」と思ってしまうこと自体がそもそもチャンピオンとして相応しくない。でも本当にそう思ってしまうのだから仕方ない。
 私は自分と相手とポケモンしかいない場所でのバトルが好きだった。雪の降る海辺、鉱山がキラキラと瞬く洞窟、ワイルドエリアの上を通る長い橋の上、そうした場所で戦うのが好きだった。二人きりの空間でダイマックスバトルを楽しめるヨロイ島のバトルコートなどは最早私にとって桃源郷に等しく、あのような場所でもぎ取る勝利こそが私の至福に違いなかった。

 だってあの至福の場所ではこのような説明をする必要がない。7時の方向から相手のポケモンが技を放とうとしていること、そしてその襲撃に対してどのように反応すべきであるかということも、私のインテレオンにはちゃんと「分かっている」。私は本来、インテレオンの背後で動きを見守る者として、最良のタイミングで「今だ」と叫ぶだけでよかったのだ。故に先程の長々としたあれはインテレオンに向けた説明ではなく、このバトルを観戦している皆さんへの説明である。まどろっこしい解説、過度の演出。ねえ、こんなものが本当に、ポケモンバトルという「儀式」に必要だろうか?

 シュートシティのスタジアムやこのような場所でのストリートバトルをそれなりに楽しむことならできるけれど、これがバトルの神髄ではない、という心地はずっと私の中にある。私が愛したポケモンバトルは紛うことなき儀式の形をしているもので、エンターテイメントやアイドルのライブのような心地はほとほと相応しくない。仮に儀式と成り得ないような、やや不純なバトルをすることがあったとしても、その「配慮」は私が本当に大切だと思う相手に対して使いたい。
 そしてその「配慮」を使いたいと思っていた大切な相手に「とんだ的外れなんですよ!」と切り捨てられてしまった過去を持つ身としては、やはり、このような場所でのバトルは「ファンサービスのための突発ライブ」以外の何物と見ることもできやしない。そして更に言うならば、私はポケモントレーナーとして在りたいのであって、アイドルになりたい訳ではない。私をチャンピオンとして慕ってくださるのはとても有難く喜ばしいことだけれど、そんな彼等の希望に沿うつもりはない。以前の私ならもっと従順になれたかもしれないけれど、ヨロイ島にて質の悪さを覚えた私はもう、彼等を完璧に満足させる術を持たない。きっともう、持とうとも思わないだろう。

「いや皆さん、ご観戦くださり本当にありがとうございました! 私のエースに対して最後まで諦めることなく戦ったお三方と、その勇敢なポケモン達に盛大な拍手を!」

 それ程までに「観客ありきのポケモンバトル」に違和感を覚えておきながら、それでもそういった場に立つと口だけは器用に回るものだからどうしようもない。鞄からありったけのタオルを取り出し、水を被った三人に駆け寄って謝罪と共に差し出すというフォローだって、やってしまう。彼等は気まずそうにしながらもそれを受け取ってくれる。ポケットからシュートスタジアムの観戦チケットを人数分取り出し、「明日はダンデさんを招待してバトルをするつもりなので、興味があれば是非」と囁けばたちまち機嫌を良くしてお礼の言葉まで零してくださる。なんとか彼等とのわだかまりを打ち消せたようだと安堵しつつ、バトル終了後の握手のためにこちらへと伸ばされた女性のそれを握り、そしてぐっと力を込めつつ笑顔で睨み上げる。これくらいなら許されるだろう、と思ってしまうのは、質の悪い兄弟子の影響だろうか。

「貴方が彼を貶める言葉を口にしない限り、私は貴方のよきチャンピオンになるため強さに磨きをかけると約束しましょう。ただ、次もこのような生温い報復で済むとは思わない方がいい」
「え、ええ分かったわ。でも……ふふ、ロボットみたいなつまらないチャンピオンだと思っていたけれど、意外と子供っぽいところがあるのね」
「子供? ……あはは、そう、その通り! 私は、自分のものを貶められても尚、ニコニコとしていられるような穏やかなお利口さんではないんだよ」

 自分のもの、という発言に対して追究をかけようとする女性の手をすっと離し、私はほぼ無傷のインテレオンをボールに戻した。バトルフィールドと化したメインストリート、その中央で挨拶の終了を待ってくれていたと思しきセイボリーの手を引いて、カフェへと歩き出す。インテレオンの「ねらいうち」が急所に当たった時と同じくらい、いやそれ以上に大きいかもしれないざわめきが通りを満たす。カメラのシャッター音が幾つも混ざる。スマホで配信され、紙媒体でも絶大な人気を誇るというガラルの芸能誌、明日の分には私とセイボリーのツーショットが大きく載せられるはずだ。知ったことではない。好きにすればいい。

 彼は何も言わなかった。手を振りほどくこともなくただ笑って付いてきてくれた。それがこのエンジンシティにおける、ひいてはこのガラルにおける私の唯一の救いであるように思われて、ドアに手を掛けつつ振り返って皆さんに挨拶をする寸前、私は何故だか泣きたくなってしまったのだった。

「それでは皆様さようなら! 明日から、良い一日をお過ごしください」

 中に入り、パタンと扉を閉める。ほぼ同時にエンジンスタジアムの方角から白服のリーグスタッフが大勢駆けつけてくる。皆さんがカフェの中へと流れ込んで店が混乱状態とならないように、人の波をせき止める仕事を担ってくださるのだろう。そんなことをさせるつもりはなかった、というのは醜い言い訳に過ぎない。セイボリーが三人に水をかけた段階で謝罪に徹することもできたのに、騒ぎを大きくしたのは私だ。キバナさんなどが見れば「ファン捌きのテクニックがなっていない」と苦言を呈するかもしれない。ああ勿論、概ねその通りである。
 明日、シュートシティへ向かう前に此処へ立ち寄って、スタッフの皆さんにお礼と謝罪と差し入れをしておこうと思った。私が至らないせいで迷惑をかけたことは事実だ。しっかりと謝るべきには違いなかった。

「やあチャンピオン。先程のバトル、見ていたよ。相変わらずだねえ。まさか此処にもそれ目的で来たのかい?」
「こんにちは。勿論、バトルをさせてもらうつもりで来たんだよ。譲っていただきたいお菓子があってね、森のヨウカンというのだけれど」

 カフェの中でも多少のざわめきが生じたけれど、先程の喧騒に比べれば微々たるものだった。日曜の午後ではあったけれどそこまで混み合っていないように感じるのは、きっと私が外でひと騒ぎ起こしてきてしまったからであろう。皆さん、あのバトルを観るためにカフェを飛び出してきてしまったのだ。このお店の集客に甚大な影響が出やしないかとやや不安になったけれど、店主であるこのマスターはそんなこと全く気にしていないかのような笑顔で、私とセイボリーの来店を歓迎してくれた。

「チャンピオン直々にお手合わせしてくれるとは光栄の至りだね! でも今日は素敵なボーイフレンドを連れているようだし、これ以上、彼を手持ち無沙汰にさせるのはよくないんじゃないかな」
「ふふ、ありがとう、そうだよ素敵な人なんだ。ただ森のヨウカンを持ち帰るのが今日の『任務』だから、バトルができないというのは少し困ってしまうかな」

 エンジンシティで騒ぎを起こすだけ起こして、何も得られませんでした、とあっては流石の師匠もお怒りになりそうだ。笑って許してくれる可能性の方が高かったけれど、叱責を受けないとは言い切れない。そんなものにセイボリーを巻き込みたくはなかった。
 けれどもそんな私の懸念は、笑いながら「ヨウカンくらい幾らでも持っていきなよ」と告げてくれたマスターの心意気により、あっという間に吹き飛ばされてしまった。

「代わりといっては何だけれど、君のおかげで日曜の午後だというのにお客がほとんど出ていってしまってね。新しい来客も、入り口をリーグスタッフが管理している状況じゃほとんど望めないし、何か注文していってくれると嬉しいのだが如何かな?」
「ええ、勿論食べて帰らせていただくよ。集客については本当にごめんなさい、お金はしっかり落としていくからね」
「はは、怒っている訳じゃないさ。奥に少し離れた席を作っておくから、ゆっくりしていくといい」
「お心遣い痛み入るよ、本当にありがとう。それじゃあ注文は、アールグレイのアイスティーをストレートで。それとスコーンも頂きます。セイボリーはどうする?」

 ご厚意にあずかることへの感謝と、迷惑をかけた謝罪を述べる。メインストリートでバトル騒ぎを引き起こしてしまったときにはどうなることかと思ったけれど、マスタード師匠に命じられた「おつかい」は最低限、無事に達成できそうであった。そのことに安堵しつつ、セイボリーに注文の確認を取るため私は振り返った。
 そこで私はようやく、彼が顔をやや俯き気味にした状態で沈黙し、ただでさえ白い肌をより青白くさせていることに気付いたのだ。

「……セイボリー?」
「えっ、あ、はい。その、あなたと同じものを!」

 弾かれたように顔を上げ、甲高い声で慌てるようにそう告げた彼の眼前に詰め寄って、どうしたのと、何があったのと、すぐに確認したかった。けれども彼が必死に作ったであろう笑顔がそれを許さなかった。失敗だ、と私は思った。自分に掛けられる視線や言葉を跳ね返すことにばかり夢中になっていて、彼へと飛んできていたかもしれない「石」を見落としていたのだ。もっと早く気付くべきだった。でも外でその手を掴んだ時、彼は至極楽しそうに笑ってくれていたはずだ。あれからこの店へ入るまでの間に何かあった? もしくはこのカフェ内に、何かある?

 何処だ、と私は「石」の出どころを探すため、さっと視線を巡らせた。どの店も混雑を極めがちである日曜の午後において、それを特定することは困難を極めるかと思われたけれど、私が外でひと騒ぎを起こしたせいで来客はぐっと減り、そして今はこのカフェの入り口がリーグスタッフにより封鎖されている状態だ。そのような易しい状況において、それを見つけるのはあまりにも簡単だった。壁際のカウンター席、ドアからは少し離れたところ。上等なスーツに身を纏った男性と、長い黒髪をパーティスタイルにまとめ上げ、綺麗な髪飾りで彩っている若い女性。彼等は手で口元を隠し、何事かを話しながらこちらを見ていた。明らかに私ではなくセイボリーを見ていた。シルクハットの周りを浮遊するボール達を珍しがっている視線でないことくらいは察しが付いた。
 ただ、あの位置からあの上品な声量で為す会話の内容を、彼等に背を向ける形で固まっているセイボリーが拾い上げられているとは思えない。彼の聴力は人並みだし、口元を手で隠したあの状態では読唇も使えない。つまり彼は、心無い暴言や悪態に傷を負っている訳ではないのだ。
 あの二人は彼のもとへ「石」を飛ばしてなどいない。ならば残った可能性はもう一つしかない。彼等の存在自体がセイボリーにとっての「石」であるという、それ以外に彼の顔色を説明する術があるはずもない。

 どうしたらいい。私は必死に考えた。彼に対する申し訳なさや心苦しさ、そして焦りが心臓の奥底でぐつぐつと煮詰まり始めている中での思考は困難を極めた。けれど考え続けなければいけなかった。私も彼も此処から一歩も動けずにいるという悲しい状況は、1分でも1秒でも短い方がいいに決まっていた。さあ、どうすべきか。
 あの男性と女性の「石」に気が付かなかったこと。彼の顔色を確認せずカフェの奥へと歩を進めてしまったこと。それらに対して謝罪を為すことは最悪の選択肢である。そのような形で放たれる「ごめんなさい」は最早禁句だ。そんな「配慮」を彼は決して望まない。彼は私に、そのような形の配慮で支えてもらおうなどとは微塵も思っていない。けれど注文を取りやめて彼の手を引きカフェを出ることだって「配慮」と遜色ない行為であるように思われた。また、傷を負ったと思しき彼を庇うように逃げ出してくるという行為自体を、プライドの高い彼はいたく嫌いそうだとも思った。
 謝ることも、逃げ出すことも、きっと彼は良しとしないだろう。ならば彼は何を望むのか、彼はこの私に何を望んだのだったか。

『ワタクシと本気で向き合ってください。いつだって全力でかかってきてください』
『分かった。約束するよ。いつだって真剣な心持ちで君と対峙しよう。全力で君と向き合おう』

 ねえ、あの日の君。それはこういうことで合っているかな。

 そうした、まるで神に問い掛けるような心地で私は再び彼の手を取りマスターに向き直った。「私と同じものを、彼にも!」と高らかに告げてから、マスターの計らいで用意された、他の席から少し離れたテーブルへと彼を引っ張っていく。あの男性と女性の席からは遠く離れているけれど、何の障害物も存在せず真っ直ぐに彼等を見据えることの叶う場所……という、非常に都合の良い状態に私はそっと笑う。四角いテーブルを挟んで向かい合う形で、彼のために椅子を引いた。私は奥の椅子、彼等の表情が見える側に、なるべく尊大な振る舞いを心がけつつどっかりと座った。
 そして尚もこちらを窺うようにして見ている二人を嗤うように、すっと目を細めて、右手をそちらへ真っ直ぐ伸ばして、人差し指と親指で銃を模すような形を作り、二人の間を狙うように片目を閉じつつ。

「バンッ」

 パートナーの得意技をリスペクトする動きで、私は「石」へ見えない弾丸を撃ち込んだ。セイボリーの指揮やインテレオンの「ねらいうち」のように、自在に操れる「可視化に足る旋律」が私の中にあるとすれば、もう、これくらいしかなかった。ただこうやって尊大に、打ち込むふりをするしかなかった。それでも私は全力だった。ままごとのような振る舞いに、全身全霊を注いでいたと言ってもいい。
 インテレオンの「ねらいうち」の威力と命中率は素晴らしいものだけれど、私の場合はどうだろう、などと思いながら、尚も挑発するようにクスクスと肩をわざとらしく揺らして笑ってやった。二人はあからさまに動揺した。セイボリーは動揺を通り越して茫然としていた。

 ねえセイボリー、君は逃げたくないんだろう。私の配慮だって大嫌いなんだろう。ならば共に戦場へ赴いてやる。君の「石」を全力で撃ち落としてやる。君と同調するように磨き上げたこの質の悪さで、君を貶めるもの全てをこうして笑い飛ばしてやる。どんな手を使ってでも君の孤独を否定してみせる。

 そんな誓いを、あの夜に追加する形で立ててしまいたいと思っている。そんな私のことを詳らかに開示すれば、君は笑ってくれるだろうか。

「……」

 最悪、口論になることさえ覚悟していた。彼に関わることでなら一日に何度だって喧嘩腰になれた。けれども彼等は先程の三人組とは違い、相応の穏便派であるようだった。すぐにさっと私から視線を逸らし、そそくさと荷物をまとめて立ち上がる。その物音に彼の肩がびくりと跳ねる。シルクハットの周りをふわふわと身軽に漂うべきボール達も、床に落ちはしないもののその場で完全に固まってしまっている。青ざめたままの彼の手、テーブルの上へ無造作に投げ出されるように置かれたそれに触れて「大丈夫だよ」などと、数十分前、この街の昇降機に怯える彼へ囁いたのと同じ言葉をかけてみる。彼は昇降機でのように「何のことやら」と意地を張ったりはしなかった。ただ私の手をそっと握り返して、小さく、本当に小さく笑った。笑ってくれた。
 私は今度こそ間違っていない。私のこれは今度こそ「的外れ」ではない。その事実を噛み締めて、私はまたしても泣きそうになってしまったのだった。

 ドアが開く音、外から飛び込んでくる喧騒、出ていく二人、再びドアが閉まり静かになる店内。そうした一連の場面の切り替わりを見届けてから私は声を上げて笑った。「ああ、怖かった!」なんて、本当は彼の台詞であるはずのものを奪い取ってそう告げた。「ふふっ、どうしてあなたまでそんな」と彼は笑ったけれど、すぐに私が彼と似た心地で「戦っていた」のだという、その事実に思い至ったらしい。妙なところで勘がいい兄弟子は、感極まったように更に強く私の手を握って、深く俯き、いつかのように消え入りそうな声で「ありがとう」と告げた。あの夜の再演が、あの夜よりもずっと優しい心地で為されたことを私はひどく光栄に思った。あの水辺に欠けた月筏は今度こそ完璧な形で此処にあった。

「ねえお揃いだね、セイボリー。君も私も、行く先々で『無傷』ではいられないみたいだ。何処から石が飛んできてもおかしくない。本土は本当に物騒だね」
「……ええ、確かにそう。本当に、穏やかではありませんね」

 手を離してからも、私達は静かに笑い合うことができた。運ばれてきたアイスティーとスコーン、そして師匠に頼まれていた森のヨウカンのセット。もうこのテーブルの上にも、カフェの中にも、私達の恐怖や不快感のトリガーとなりそうなものは存在しなかった。戦い抜いた私達への報酬だと思えば益々愛おしくなった。
 このまま穏やかな時間に身を委ねて、先程の二人の件をなかったことにしてもよかった。彼等が、セイボリーの正体を知っている人物、おそらくは「由緒正しきサイキッカーの一族」の人か、あるいはその遠縁の人であろうことは容易に想像できたし、そんな存在と顔を合わせてしまった彼の狼狽と恐怖も察するに余りある。その脅威を毅然とした態度で追い払えて、こんな時間まで手に入ったのだから、私としてはもう、それだけでよかった。

「ワタクシが、一族の間でどのように見られているかということは既にご存知ですよね」

 ただ勿論、ほかならぬ彼が「話したい」というのであれば、付き合う心積もりは既に出来ている。
 いいよ、美味しい紅茶とスコーンをお供に話し合いと洒落込もうじゃないか。人払いは概ね済んでいるし、時間はたっぷりある。1分でも永遠でも、私達にとっては同じことだ。

2020.7.6

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