「100分の1の永遠を生きる話」無事に完結することができました。パソコンのワード換算で260ページ、19万字超、計52話の大長編です。
ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。
いつものように裏話や、タイトルに込めた意味などをお話ししたいと思います。お時間のある方、どんな話でもいいよという方だけどうぞ。
0、時間軸のおさらい
始めに、ちょっとややこしい今回の連載について、時間軸のおさらいをしようと思います。
以下、経過年数をまとめています。シェリーがカロス地方で冒険を始めた年齢を14歳として、そこから計算。6年目からは、同い年であるシアの年齢で数えました。
()内の年数は、シェリーが1話で「私と生きてください」と口にした日からの歳月を表しています。フラダリの元に届いた手紙の数もその横に書きました。
1~10話……14~19歳(5年、60通)……4年目にシェリーが花を破壊、手紙はAZから
11話~22話……19~20歳(6年目、72通)……手紙は1か月に1度、シアから
23話……21歳(7年目、84通)
24~25話……22歳(8年目、96通)
26話……44歳(30年目、360通)……1か月に1度、30年で12×30=360通
-Grief works-や番外編はこの時間軸に沿ったものです。0.5話や4.6話、22.5話などといった小数点は、この時間軸の中に収まるものとして計算し、決定しています。
フラダリの時間軸をメインとして、その時間軸の中に起きた、フラダリの知らない出来事をシアやシェリーの視点から書くという手法を取った結果、このような形になりました。
1、ちょっとしたお話
この「木犀」は、XYが発売してから10日後に、その感動の勢いのまま、2日で書き上げたスピード連載を加筆修正したものです。あの時は全10話と、コンパクトな連載でした。
約2年の時を経て、このように新しい物語として生まれ変わらせることができたこと、本当に嬉しく思っています。
とは言うものの、実はこの旧版の木犀、非常に粗が多く、読み返すのも憚られる程に荒い心理描写や読み手の方々をおいてけぼりにするような雑な展開が目立っていたため、
「そろそろ非公開にしてもいいかな……」と思い、危うく消去対象になりかけていました。
そんな木犀に再び手を付けたのは、とある企画(曲と短編企画、Firstの企画跡地にあります)で木犀番外編をリクエストしてくださったことがきっかけでした。
20を超えるポケモンの連載の中から、「木犀」について言及してくださった方がかなりいらっしゃったこと、
私自身、番外編を書いていて「この話を元に彼等のその後を膨らませたいなあ」と思い立ったこと、この二点から加筆修正を決意しました。
企画などで木犀番外編をリクエストしてくださった方がいなければ、この物語は生まれなかったでしょう。
4.5話(悠久を焦がす赤百合)、4.6話(調子外れの葬送歌は流暢に)、8.4話(愛のダイヤグラム)
8.6話(指が解けるまで、どうか)、17話(目蓋の裏の小宇宙)、19話(Letter-F)
この6話は、企画にご参加くださった方からのリクエストで書いたものです。
これらのお話が無ければ、木犀は今の形にならなかったと言っても過言ではないくらい、それぞれが重要な場面になっています。
特に「悠久を焦がす赤百合」「調子外れの葬送歌は流暢に」「愛のダイヤグラム」は、どれもカサブランカをテーマとした3話となっていて、
シェリーのGrief works、4.6話に連なるキーストーリーです。
緩慢な自殺を選んだ彼女を、その幻想に陶酔したまま幸福の内に死なせてしまってはいけないと、ずっと思っていました。
要するに、死への幻想が打ち砕かれる瞬間を書きたかったのだと思います。
死は美しくも何ともなくて、ただ残酷な温度をもってしてそこに在るだけなのだと、だから決して、自ら踏み越えようなどということを考えてはいけなかったのだと。
彼女は決して、死を選ぶべきではなかったのだと。
……個人的な話をすると、懸命に生きた後に迎える死なら、決して残酷だとは思いません。
限られた時間を限りなく生きた人間に与えられた最後の安らぎ、それが死であるという考え方もできると思います。
けれど、結果として安らかに死を迎えるのと、安らかになるために死を望むのとでは、天と地ほどの差があります。シェリーはそこを計り違えていたのでしょうね。
結果として、彼女は自らの選択を悔いながら、それでも残された時を懸命に生きました。
だからこそ、シェリーのGrief works、9.9話はどこまでも安らかに、穏やかに書こうと決めていました。
彼女の求めた安らぎは、求めるのをやめた瞬間に彼女の元へとやって来ることが叶ったのだと、こうして彼女は自らの喪の作業を果たしたのだと。
安らかな終焉は、懸命に生きた者にこそやって来るのだと。
これが、今回の物語のテーマです。
2、各タイトルについて。
先ず、本編の1~10話の「Letter」以外の単語についてですが、これは全て、金木犀と銀木犀の花言葉から拝借しています。
恩恵、陶酔、魅力、初恋、高潔、真実。なんとなくフラダリさんを連想してしまう単語の集まりですね。
何故、タイトルを「木犀」にしようと思ったのか。……本当の理由を書いたら怒られてしまいそうですね。
大学の図書館横にあった金木犀の並木道があまりにも綺麗だったから、なんて、そんなあまりにも単純で捻りのない理由でした。
けれどおかげで、この連載のことを考える度に、あのライラックの香りと可愛らしいオレンジ色の花を思い出すことができて、私としては大変、満足しています。
それから、続編の「少女Cからの返信」。
これはそのまま、シアがフラダリさんに手紙を送り続けたことを表しています。
「C」は、シア、というデフォルト名の頭文字から持って来ました。
まだBW2の主人公たちの名前が判明していなかった頃(もう3年も前か……)、「氷河」を表す英単語「Glacier」から「Cier」だけを抜き取って仮の名前としていました。
まさかその仮の名前を、BW2発売後も使い続けることになるとは思ってもいませんでしたが……。
あとは「Grief works」ですね。
これは日本語に訳すと「喪の作業」となります。連載の中に何度も登場しましたね。
「喪の作業」を簡単に説明するのは難しいのですが、敢えて一文に纏めるなら、
「あるもの(人物であることが多い)の喪失と向き合い、悲しみと絶望を受け入れ、乗り越えるための時間と行動」……と言うべきでしょうか。
木犀続編の中には、幾つもの「Grief work」が登場します。
1つ目はシアがかけがえのない親友を失ったことに対する「Grief work」ですが、
2つ目はシェリーが、自身の犯した罪と死を受け入れるための「Grief work」です。
あと、続編で登場するプラターヌ博士も、シアやフラダリさんと話を重ねることで「Grief work」を行っていますし、
更にはこの「木犀続編」の全体が、フラダリさんにとっての「Grief work」だと言うこともできるでしょう。
……とまあ、これだけ多くの人が喪の作業を経験しているため、タイトルは敢えて「Grief works」と、複数形にしてあります。
誰かにとっての喪の作業が、また別の誰かにとっての喪の作業にもなり得る。あの複数形にはそうした意味を込めました。
最後に「100分の1の永遠」について。
これはXYの原作でAZさんが「3000年」の時を生きたことと、シェリーがフラダリさんと共に生きる期間として「30年」を提示したことに由来します。
3000年の100分の1が30年。そのままですが、割とこのタイトル、お気に入りです。
3、ボーダーライン
このサイトを初めて数年が経ちますが、その設立当初から「破廉恥、ヤンデレ、死ネタ」は書かない、という、誰に公言するでもなく掲げていた謎の掟がありました。
しかし2年前、この連載によって、その掟を破ることになってしまいました。躊躇いもありましたし、書いた後で後悔もしました。
おそらくポケモンのジャンルで「人の死の描写」を書くことはもう二度とないでしょう。
この連載の中でも何度か書いてきましたが、死は神聖で不可侵な領域であり、今を懸命に生きようとしている人間が軽々しく扱っていい類のものではなかったのです。
けれど、だからこそこの連載は、「踏み越えてしまった」唯一の物語として、悔いの無いよう、丁寧に書いていきたかった。
木犀続編は、彼等の「Grief works」です。
けれど同時に、2年前、死という領域を踏み越える描写に軽々しく手を付けてしまった私の、その過ちを振り返るための「Grief works」でもありました。
(お前は何を失ったんだという声が聞こえてきそうですが、特に何も失っていません。逆に皆さんから元気を頂くばかりでした。)
かなり時間が掛かってしまいましたが、喪の作業、終えることができて本当によかったです。
4、次の連載への布石
この連載の世界観は「Y」に準拠するものであり、「X」の世界観で描いた「樹海」とはパラレルワールドの関係にあります。
そして「Long」では、「神の花」から「樹海」への流れで物語が進みます。
ではこの「木犀」は完全なパラレルワールドとして留まるだけなのかという点についてですが、そんなことはありません。
この物語も、また別の形で、あの長編の流れに加わります。
どこに飛び込んでくることになるのかという点については、本編に登場する「木犀」の香りを指す単語が「ライラック」であることから、お解り頂けるかと思います。
もっとも、その連載に取り掛かる目処は未だに立っていないのですが……。
5、感謝の言葉
先程の6つの番外編をリクエストしてくださった、くまさん、泉さん、雪蘭さん、まるめるさん、日向さん、娘もどきさん。
最高に素敵な執筆BGMを提供してくださったすえさんと、幻想的な曲を数多く紹介してくださったポプリさん。
日頃の不摂生が仇となり、急きょ設けてしまった休止期間にも、温かいコメントをくださった、おひたしさんをはじめとする匿名の方々。
そして、彼等の「Grief works」に、最後までお付き合いくださった皆さん。
本当にありがとうございました。
人生は意味もなく苦しく、けれどとても楽しいものです。どうか日々を楽しんでください。小さな尊さを見つけて、笑ってください。
この場所が、今を懸命に生きる皆さんの娯楽の一助となれることを、心から祈っています。
2015.6.28 葉月
※2017年のサイト閉鎖と倉庫化に伴い、旧版の「木犀」を削除しています。ご了承ください。