Afterword

「命を希う話」これにて完結です。
10話完結予定などと言っておきながら、やはり倍以上に膨らんでしまい、全24話、10万字の連載となりました。
パロディ連載ということで、いつも以上に好き勝手にやらかしてしまっていますが、書いている本人はやはりいつものことながらとても、とても楽しかったです。

以下、いつものように長々と書き連ねております。本編に対する致命的なネタバレを開始2行目から早速やらかしていますので、未読の方はそっとお戻りくださいね。


1、「想いの力は命の長さを動かす」
本来ならば寿命を迎えて然るべきであるポケモンも、トレーナーと共に在りたいという強い想いから命の限界を超えて生き続けることがある。
本来なら初秋に枯れて然るべきである夜顔も、少女の涙を受け止め続けていたいという強い想いから命の限界を超えて花を咲かせ続けることがある。
本来なら命の巡りの中へと戻るべき死者の魂も、誰かと共に在りたいと、誰かと共に在った記憶を手放したくないという強い想いから、ホグワーツに留まり続けることがある。

今回はそうした、随分と生温い、優しい世界を書かせていただきました。
勿論、原作のハリポタやポケモンにそのような描写は皆無であり、この理念は私が勝手に作り上げたものです。
……ただ、個人的な話になりますがここ数年、こういった現象をよく目にしていたような気がします。そのうちの一つのエピソードを、ちょっとだけ紹介させてください。

母の寂しい時に、野生の猫が窓辺へと毎日のようにやって来ていました。去年、愛猫を亡くしたばかりでしたので、母はとても喜んでいました。
けれど大学生の弟が帰省して、そのことにより母の寂しさが和らいだ途端、猫の訪問がぴたりと途絶えてしまいました。
かと思えば弟が再び家を空けた途端、やっぱり猫はやって来て、母の寂しさを紛らわしてくれていました。
猫は母が求めれば姿を現し、求めなければいなくなります。不思議ですが、そういうところがあるのでした。少なくとも私にはそう見えていました。

生き物というのは、自らが「求められている」ことを、あるいは「求められていない」ことを、言語とか表情とかそういうものとはまた別のところで、知り得ているのかもしれません。

そうした「命が大きく動く意味」についてあれこれと考えていた結果、このような世界が出来上がりました。
数あるファンタジーの中の一つの可能性として、楽しんでいただければと思います。


2、他の連載との時間軸について
CやAやGの存在からお察しいただけているかもしれませんが、この「Schedule of moonflower」は、
「空を飛べない」「冠が土に還るまで」「約束の魔法」「冷たい羽」などの他の連載から「200年後」くらいを想定しています。

そのため、「空を飛べない」で主人公となったあの子が、天寿を全うしたのちに無名のゴーストとしてホグワーツを彷徨っています。
魔法薬学を教えていたあの人が、少年の頃の姿を取って「G」としてホグワーツに居座っていたりもします。
また「約束の魔法」で主人公とそのお相手であった「初代CとA」の存在も示唆されていましたが、彼等は命の巡りの中に戻ることを選び、いなくなります。
彼等はシェリーと同じ年に命の巡りに戻ったので、彼女と同い年の新入生として、最終話、仲良く手を繋いでホグワーツへとやって来る描写をこっそりと、しています。

かつてのホグワーツで起きた全ての出来事が「過去」のものとなってしまった頃の物語。それが「Schedule of moonflower」です。


3、「命を希う」
「こいねがう」と読むこの言葉ですが、意味としては「強く願う」「切実に望む」という簡単なものです。
ただ、今回の不思議な世界には「懇願する」「望む」「祈る」という言葉よりも、こちらの「希う」が似合うような気がしたため、敢えて使わせていただきました。

二十話にて、二代目のCが「多くのゴーストが生前の名前を消滅の呪文にしている」と言っていますが、勿論、生前の命を希わないタイプのゴーストも存在します。
生前の名前を捨てると、その魂にまとわりついた容姿や記憶や運命は綺麗さっぱり洗い流されて、全く別の人間として命を授かることになるでしょう。

……もし、生まれ直すことを選べるなら、皆さんはどちらがいいですか?
もう一度自分の運命を愛し直したいですか?それとも、最初から作り上げていきたいですか?
あるいはGやYやKのように、二度と。


4、各話小ネタ
ちょっとずつ混ぜ込んだ小ネタの紹介をさせていただきます。
Kの登場シーンや世界線のヒントなど、此処でまとめてみようと思います。

一、「私、怖くて……」 → 何十年もゴーストの平穏に甘んじていた彼女がいきなり質量と色を得てしまえばそりゃあ戸惑って然るべきだ。彼女の恐れは至極当然のものだった。
二、「センセイ、気を張り過ぎよ」 → このワンレンボブの少女がK。彼女がフラダリに声を掛けたのは、困ったときには「友人」を頼るものだと彼女自身が強く思っていたから。
五、「ごめんねシェリー、こんなボクでごめんね」 → この世界線に限ったことではない、プラターヌ先生の、十八番。
六、「尊敬していた人がいなくなったんです」 → これが初代Cのことであり、この時同時にAも消滅の呪文を唱えていた。Cはクリス(クリスタル主人公)、Aはアポロ。
八、「違います!」 → 「ただそこにいる」ことで他者に勇気を与えてきた彼女の、初めての能動的な言葉。
九、「飼育学、あたしは大好きですよ!」 → ビビヨンを連れたこのハッフルパフ生、実はビオラさんという裏設定でした。
十、過去にモノズをパートナーとした少年が一人だけいたようだが → これは言わずもがな「G」のことであり、この「過去」は実は200年以上前のことであった。

十二、「私もそんな風になれますか?」 → 「私も誰かのために生まれ直すことができるようになれますか?」という意味。

十三、「ボクも、忘れない」 → この誓いの言葉があったからこそ、シェリーは彼から全ての記憶を消し去ることができなかった。心理的なブレーキが此処で掛けられていた。
十四、「ひどく困った生徒がいてね」 → 実はこの生徒はマーシュさんを想定しています。「そんな、人に杖向けるとかできひんわあ」みたいな感じで拒んだのだと思われます。
十五、「君と、生きたかったなあ」 → 「それでもボクは君と一緒に生きたいと思っているよ」という発言に重ねており、その願いを叶えられないことが悲しくて少女は泣く。
十七、「今日から私のことは「C」と呼んでください!」 → 勘のいい方は一話にて既に気付かれていたかもしれませんが、彼女こそがシェリーの友人、シア(BW2主人公)です。

十八、「私の名前はシェリーです」 → 命を希う言葉により彼女は消滅し、命の巡りの中へと戻っていく。

十九、「ラルトスを追うようにして、彼女は自ら命を絶ちました」 → まあシェリーだからこうなる。彼女は一人で生きられない。もっともそれは彼女に限ったことではない。
二十、「30近く年が離れていても友達になれるんですから」 → CとGのことです。年はきっと関係なかった。同じ時間に生きていられることこそが奇跡であり、祝福であった。
二十一、「ああ、あんたも来ていたのね」 → 見ることのできないこのゴーストは当然、冷たい羽に登場したコトネの友達、Yです。
二十二、「飽きちゃったからよ!」 → 抹茶味のドーナツは、某有名ドーナツショップの抹茶オールドファッションを想定しています。これ、大好きなんです。

二十三、同じ空色の髪を持つ女の子と男の子 → 初代CとAです。共に消えた彼等は同じ年に生まれ、同じ年にホグワーツで出会います。血はおそらく繋がっていないでしょう。
Report、冷たい羽がきっと相応しい → Kについて掘り下げた話が読みたい、と言ってくださったお友達にお答えする形で急きょ、付け足したエピソードです。

タイトル「Schedule of moonflower」 → 直訳で「夜顔のスケジュール」となります。シェリーという夜顔の命が巡ってくるまでの物語、と捉えていただければ幸いです。


5、感謝の言葉
この連載を書くにあたって、4人の方とのご縁が大きな力となってくださいました。

一人目は言わずもがな、この連載をリクエストしてくださったジェドさん。
ハリポタパロSSにちょこっとだけ書いたあのお話の続きを読みたいと言ってくださり、本当に嬉しかったです。
随分と時間が掛かってしまいましたが、完成させることができて本当に良かったです。
改めまして企画へのご参加、本当にありがとうございました!

二人目ですが、この連載を書いている間、ずっと聞いていた曲があります。日本文学「舞姫」をイメージして作られたこの曲に、この執筆中ずっとお世話になっておりました。
素敵な2枚のCDと、その曲に合わせた日本文学とSFへの縁を結んでくださった、かけがえのないお友達、まるめるさんに、心からの感謝を申し上げます。
あと、Schedule of moonflowerという英語タイトルなのに各章タイトルが堅苦しい日本語なのは間違いなく日本文学「舞姫」の影響です。あ、あしからず……。
それから、Kについての話が読みたい、と言ってくださり本当にありがとうございます。少しですが彼女についてのエピソードも書かせていただきました。とても楽しかった!

三人目、この方にも誕生日プレゼントとして素敵な曲を紹介していただきました。
「躑躅」のイメージとのことだったのですが、こちらの連載を書くにあたっても強烈なインスピレーションを頂いた次第です。
ゴーストの「記憶は次の命に持っていけない」という設定は、この曲の『生まれた途端、綺麗に忘れ』という歌詞から連想して出て来たものでした。
改めまして、翠子さん、素敵な曲のご紹介、本当にありがとうございました!

最後の方ですが、50万ヒット感謝企画の短編の方に参加していただいた、大切なお友達、Papiさんです。
アポロさんの短編「星結び」の中で、朝顔の命が1年で巡ることになぞらえて、既に「命の巡り」というテーマが取り上げられていました。

「人の命も同じように巡っているのでしょうか」
「私は、そうだと思っています。だから、死なないでくださいね。アポロさん」
「花の命は一年で巡るけれど、貴方が此処で死んでしまったら、次はいつ貴方に会えるか解らないから」
「もし貴方の命が巡ってきたとして、きっとその時にはもう私は生きていないから。……朝顔が冬を越せないのと同じように、私の命にだって、限りはあるから」

朝顔……ではなく「夜顔」の巡り、人の巡り、命の巡り。これらを「Schedule of moonflower」でより深く書くことができて、とても楽しかったです。
Papiさん、本当にありがとうございました!

勿論、この4名の他にも、執筆中、沢山の人にお世話になりました。
2週間、更新が完全にストップしていたにもかかわらず、足繁く通ってくださったコグマさん、翠子さん、深海さん。
人生初のインフルエンザで4日間、撃沈していたが故に更新が遅れてしまったにもかかわらず、優しいお言葉をかけてくださった、2名の匿名の方、イチさん、霙さん。
そして、24話にも及んだ彼女の「生き直し」を最後まで見届けてくださり、この長いあとがきにまで目を通してくださった皆さん。
本当に、ありがとうございました!

では、また次の物語で会いましょう!


2017.4.1

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