ハビトゥスの海辺、「大人と子供の、世界に込めた願いの話」完結しました。
まさかの3日で完結というスピード連載でした。まあこんなこともたまにはありますよね。
ここまでさくさくと進められるとは思っていなかったので、今はただ、納得のいく話がこんなにも早く書き終えられたことに満足しています。
さて、アオギリさんがお相手の連載ということで、世界観はASにするのが妥当だったのでしょうね。
けれど管理人が個人的に、ORでの彼の「大人としての謝罪」と「子供に受け継がせるべき世界を語る姿」に感動したので、こちらを選ばせて頂きました。
ただ、それだけでは彼を構成する背景が足りないなと思ったので、ASでの彼の言動を引用させて頂きました。
以下、いつものようにぐだぐだと喋っております。
お話の見方を固めてしまうおそれがあるので、未読の方、自分なりの解釈を持っていたいという方はそっとお戻りください。
1、ハビトゥス
タイトルですが、ええ、そのままの意味です。ハビトゥスの意味をインターネットで検索すれば直ぐに出てくると思います。
「社会秩序における適した知覚と行動の性向」を表す、とある社会学者が用いた概念です。
アオギリさんの「大人」として、あるいは「組織のリーダー」として行った選択は、まさにハビトゥスに従ったものでした。
1匹のポケモンが生きられる世界よりも、他の多くの人間やポケモンが生きられる世界を選ばなければいけなかった。
「社会秩序における適した行動」を選ばなければいけなかった。
それに従えなかったのが3000年前の王、AZさんであり、ハビトゥスに背いてまでも愛したポケモンに尽くしたその一途さは、だからこその尊さを秘めているのだと思います。
また、トキちゃんのハビトゥスはとても子供っぽいものです。それを彼女は自覚しています。
『私はまだ子供で、私の世界は彼のそれよりもずっと単純な造りをしていたのだ。』と5話で彼女は言っていますが、そういうことです。
それぞれのハビトゥスに従いながら、彼等は新しい道を歩み始める、というところまでが今回のお話です。
大人で責任ある立場であるアオギリさんのハビトゥスと、子供で自由な発想と行動ができるトキちゃんのハビトゥスとの対比は、書いていてとても楽しかったです。
2、トキちゃんの「誇り」
彼女は背伸びをしない子です。何処かの絆されやすい誰かさんとは違い、同じ目線で世界を見ることに拘らない人間です。
『私は彼に比べて、とても無知で幼くて、幸運な人間だった。
したいことを、何の迷いもなくできる。言いたいことを、はっきりと言える。そこに彼のような苦しいジレンマなど存在しなかった。
私はまだ子供で、私の世界は彼のそれよりもずっと単純な造りをしていたのだ。
だから私は、その単純に構成された世界の中で、私にしか使えない言葉を彼に贈りたかった。
彼と同じ世界を共有してあげられないことに嘆きたくはなかった。
私の世界がこんなにも拙いからこそ、無知で幼い子供で在れるからこそ、できることがあると信じていたかったのだ。』(5話)
この数行に彼女の性格が凝縮されています。
10代の女の子と彼女よりも一回り年上である男性とのやり取りは、当サイトでも数え切れない程に書いてきましたが、
年上の彼と自分を比べ、卑屈になることも焦って背伸びをすることもなく、無知で幼い立場から自信を持って相手を見上げることができる主人公は彼女だけです。
彼女は自分に誇りを持っています。だからきっとアオギリさんが背負っていた荷物をそっと奪い取れたのでしょうね。
3、七日しか生きられなかったポケモン
ASのアクア団アジトにあるイズミさんの部屋には、写真立てがあります。
そこにはイズミさんとアオギリさん、そして1匹のポケモンが映っているようです。メモ書きから判断するにそのポケモンはおそらくジラーチでしょう。
そしてASでの彼がカイオーガを復活させ、大雨を目撃した時の台詞がこちら。
「オレは、ポケモンの……あいつの……あいつが生きていける世界を、作りたくて……」
それから、その騒動が集結した後の彼の台詞もメモしておきます。
「世界のバランスがあるがままに戻りつつある今、その考えを見直さねばならぬのかもな……」というマツブサさんの言葉に対しての返答がこちら。
「マツブサよお、テメエの言うことは至極もっともだと思うぜ。だがな、急には変われねえ……。
オレの理想とする世界……愛していたポケモンと共に暮らすことができただろう世界の理想形は今も変わらねえ。
こんだけ迷惑をかけちまったオレが何を言えた義理でもないけどな……」
この後、イズミさんとアオギリさんの胸が熱くなる展開があったりなかったりするのですがまあそれはさておき。
マツブサさんが「人類の更なる発展を、新たな進化の道筋を生み出したくて」グラードンを求めていたのとは対照的に、
アオギリさんの思想を突き動かしていた、その根底にあったものは、1匹のポケモンの存在だったのではないか。
そんな風に思い、自己解釈ではありますが、それを今回のお話に取り入れさせて頂きました。
4、マツブサさんとアオギリさんの第一印象とその後
トキちゃんは「装甲」という言葉を使って、マツブサさんとアオギリさんに見受けられる二つの面について言及しています。
『マツブサさんにとって、それは組織を率いるために必要なカリスマ性だったのかもしれない。
アオギリさんにとって、それは大勢の団員から支持されるために必要なリーダー気質だったのかもしれない。
その結果がマツブサさんにとっての、神経質で冷酷な姿であり、アオギリさんにとっての、粗暴で豪胆な姿だったのだ。
それが仮の姿だと言っている訳ではない。けれど、きっと彼等の本質は別のところにあるのだろう。
その本質は、誰彼構わず曝け出せるものではない。装甲を剥がして向き合える相手など限られているからだ。
そしてその、アオギリさんにとっての限られた相手に私が含まれていたとして、私が見ることのできた彼の本質があったとして、
それは愛しいと微笑むに十分な温もりを持っているのは、当然のことだったのではないだろうか?』(6話)
マツブサさんの「冷酷で神経質な人かと思ったらとってもお茶目で優しい人だった」
アオギリさんの「粗暴で豪胆な人かと思ったら芯はとっても情に脆くて繊細な人だった」
この印象の変化は管理人が勝手に彼等に見出したものなので、皆さんの見方と異なる場合があるかもしれません。
彼等に人間性を見出す一つの見方として、楽しんで頂けると嬉しいです。
ただ、このお話とは全く関係ありませんが、目覚めのほこらから出てきた時のシーンで、
マツブサさんがホムラに対して「ありがとう」というのと対照的に、アオギリさんはイズミさんに「すまねえ」と言うんですよね。
これがなんだかとっても深い。二人の差をとても色濃く表していると思います。
この人間性の深さが流石、ポケモンです。これだからポケモンは止められない、止まらない。
5、相変わらずのどんよりクオリティ
マツブサさんの連載「揺蕩うソネット」のような糖度を期待してくださっていた方には大変申し訳ないどんよりした連載となってしまいました。
ただ、どんより連載の方が書き慣れているので、凄まじいスピードで更新できるというのはここだけの話です。
基本的に私は「重く深く真剣に想う話」をポリシーとしています。
それが「揺蕩うソネット」のように、「好き」という思いだけが独立した、まさに恋愛の話といった感じでもそれはそれで素敵だと思うのですが、
個人的には今回の連載のように、相手の深層に踏み入る勇気と覚悟を持って関わっていくような、そんな二人のやり取りの方が言葉を紡ぎやすいし、好きです。
その理由はまあ、書き手である管理人の恋愛偏差値がド底辺だからなのですが。
6、ORASの連載なのにXYの話を盛り込んでしまってすみません
純粋にアオギリさんだけの話が読みたくて「ハビトゥスの海辺」を開いてくれた方、大変申し訳ございません。
ただ、どうしても対比させたくなったのです。アオギリさんは本当に偉いと思ったんです。
その覚悟の大きさと悲しさが3000年前のエピソードと対比させることでより鮮明に浮き上がると思ったので、このような形を取らせて頂きました。
うん、解っている、解っています。これはORASの連載であってXYの連載ではないのだと。
解ってはいるんだが、ね。
とまあ、相変わらずべらべらと喋りつくしてしまいました。
楽しんで読んで頂けると嬉しいです。何か、を彼等のお話の中に見出し、感じてくださったのならとても嬉しいです。
長ったらしいあとがきにまでお付き合いくださった方、本当にありがとうございました!
2015.1.9
I’m looking forward to seeing you in the next world !
追記
8話にて、アオギリさんはトキちゃんの手からシーグラスを取り上げています。
きっと、自分が加工して、自分からのプレゼントとして彼女に渡したいと思ったのでしょうね。