＜ミヅキ＞
ザオボーさん、お蕎麦を知っていたんですね！びっくりしました。ビッケさんやグラジオが抹茶プリンを好きになってくれていたなんて、まだ信じられない。
抹茶プリンは私も大好きです。もう、食べられないかもしれないけれど。
……それから、あなたが「死ぬことだけは許さない」とか「生きていてくれた」とか、そうしたことを言うなんて、と、ここでもまたびっくりしてしまいました。
私にそんな価値なんてないと思っていたから、そんな私に心を向けてくれるあなたのことが、少し可哀想になってしまいました。
だってアスファルトの上に転がった小石が、ある日突然姿を消したとしても、誰も気にしないでしょう？
その小石がケンタロスに踏み砕かれたとして、蹴り飛ばされて海の底へと沈んでいったとして、そんなことに、誰も心を痛めないでしょう？
でもあなたは小石のことをこんなにも考えてくれている。なんだか不思議ですね。まるであなたの目には、私が本当に、かけがえのないもののように見えているみたい。
そして、もし本当にそう見えているのだとしたら、可哀想だなって、思います。あなたの目もきっと私と同じように歪んでいるんですね。
ガラガラの炎に触れたい、海を飲み下して海になりたい。私が本気でそう思っていたのと同じような「おかしさ」を、あなたも持っているように思われてならないんです。
でもそれがあなたのおかしさであり、あなたの個性なら、それでもいいのかなって思います。
きっと私も誰かの目には可哀想と映っていて、あなたも同じように可哀想なのだから、それが私とあなたの個性なのだから、いいのかなって、思いたいです。
お揃い、ですね。眠らなくても、凍らなくても、私、大好きな人とお揃いになれたんですね。
私の本当に大好きなものの話をしてほしいと言ってくれてありがとう。嬉しかった！
でもきっとあなたに直接、話してあげることはでいないから、今ここで話します。
あなたは緑色が好きなんですよね。私は銀色が好きです。キラキラしているものが好きです。お蕎麦が好きですし、抹茶プリンやわらび餅も好きです。
でこぼこのアスファルトに揺らめく水溜まりが好きです。花壇に咲く赤やピンクのチューリップが好きです。
透明な水のゼリーに黒蜜ときな粉をかけて食べるのが好きです。高いビルの窓から下を見るのが好きです。黒くないコラッタが好きです。ポッポやニドランが好きです。
でも黒いコラッタも、ツツケラもヤングースも、同じくらい好きです。
リーリエが好きです。ハウやグラジオのことが好きです。島巡りをする中で出会った、キャプテンや島キングの皆さんのことが好きです。
でも、その中に私がいないことがとても恐ろしいんです。素敵な場所、可愛い生き物、大好きな人達、キラキラした世界の全て、そこに入れない私のことがどうしようもなく嫌いです。
あなたやグズマさんやルザミーネさんのことは、怖くありませんでした。でもそうした、私に優しい場所にばかり閉じこもって生きていくことなんかできないって、解っています。
解っているからまだ、出ていくことができません。
あなたに会いたくない訳じゃない、寧ろ会いたいとさえ思うけれど、外の世界にいるのはあなたやグズマさんやルザミーネさんだけじゃないこと、解っています。
だから、出て行けません。私は、私が息をするために、死なないために、此処にいます。
私はきっと、キラキラしたアローラの世界に焼け焦げてしまうから。小石だけど、何の取り柄もないけれど、大嫌いだけれど、それでも私は、私を大事にしたいから。
私を蔑ろにして、私の何もかもを犠牲にして笑い続けることに、もう、疲れてしまったから。
ごめんなさい。あなたがいてくれてよかった。
＜S＞
君のことを書いてくれてありがとう。
君が隠してきたもの、隠す必要など微塵もなかったものを、わたしに読ませてくれてありがとう。嬉しかったですよ。
さて、本来なら君の話に対して色々と助言をしたり、君の相変わらず歪んだ認知を軽く窘めたり、そういったことをしてあげるべきところなのでしょう。
しかし、そうも言っていられない事態が起きたので、今回はわたしの用件だけ、書かせていただきます。
昨日、グズマがわたしのところへ来ました。彼のことは君の方がよく知っているでしょう？
氷の中で眠る君を見つけたとき、リーリエよりも先に君へと駆け寄ったのは彼であったと、わたしはハウという子供から聞いていました。
分厚い氷の壁に阻まれながらも、彼はしきりに君の名前を呼んでいたようです。馬鹿野郎、と吐き捨てながら、それでも眠る君の姿に縋っていたようです。
……ええ、残念なことにわたしはその場に居合わせておりませんでしたから、事の真偽はハウという子供に問うのがよいでしょう。それか、彼に直接聞いた方が早いかもしれませんね。
彼はまだ若い。きっとわたしよりも君に似ているのでしょう。だからこそわたし以上に、君のことを放っておけなかったのでしょう。
彼は君のことを大切に思っています。君を救いたいと願っています。わたしと同じくらい、……いえ、わたしよりも少しだけ強い心持ちで、君を想っているようでした。
大柄な彼の腰には、島巡りの証が提げられていましたよ。彼はそれを持って、アローラにある4つの島を回ったようです。
君の知っているキャプテンや島キング、ぬしポケモンとも戦ったと言っていましたね。
……ええ、解っているでしょう？君のためです、君に会うためですよ。何故って君に会うためには強くならなければならないのですから。
四天王を打ち負かす程に強いトレーナーでなければ、君のいるところに来ることさえ許されないのですから。
ミヅキ、君がどうしてもこちらに戻りたくないと言うのであれば、わたしは止めません。
君と話をする術は、こうして世界を隔てられた今となってもあるのですから、君がペンを取り続けてくれる限り、わたしは寂しくありません。
わたしは、構いません。
けれど、出てきてください。
わたしのためではなく、彼のために出てきてください。わたしには二度と会わずともいいから、彼には会ってやってください。
君のために強さと勇気と優しさを手にした彼の姿を見るべきは、わたしではない、君です。君が見るべきです。
彼にとって君という存在がどれ程の意味を持つのか、わたしには想像することしかできません。
グズマという男はわたしとはまた別の意味で偏屈なようですから、もし仮に君のことを大切に思っていたとして、彼はそうしたことをあまり顔や言葉には出さないでしょう。
そして彼は優しくもないようですから、大人しく君を待つ、などということはしないでしょう。短気で粗暴な彼は君に対して、言いたいことを隠さずにぶつけるでしょう。
だから君も大人しく、その中に引きこもっている必要などありません。
言いたいことを言ってやりなさい。殴って来たなら殴り飛ばしなさい。蹴り飛ばされたなら同じようにしてやりなさい。
そうしてもし、彼が君を抱き締めることができたなら、君も、あの大きな寂しい背中に手を回してやりなさい。
わたしが君にしてあげることのできない全てを、彼に、託してきました。
君が宝石であることも、小石であったことも、全部忘れて、彼に会いなさい。彼は必ず、君のところへやって来ますよ。
わたしも、君に出会えてから、毎日がとても楽しかった。
＜ミヅキ＞
ノート、ありがとうございます。
グズマさんがあなたのところへ来たんですね。とてもびっくりしています。
彼のことだから、ただ私に文句を言いたいだけじゃないのかなあ、とか、殴られるのは嫌だし、彼を殴り返すのはもっと嫌だなあ、とか、そんなことをずっと、考えていました。
ザオボーさんが書いていたように、彼は私に似ています。小石で、輝けなくて、子供みたいで、怖がりで寂しがり屋で悲しそうで、そんなグズマさんのこと、大好きでした。
でも彼は何処も壊れてなんかいませんでした。壊れていたのは私でした。私が、おかしかったんです。彼は何もおかしくなんかなかったんです。
グズマさんは壊れなくても、居場所を得ることができたんです。私は壊れても、居場所を見つけることができなかったんです。
彼に会います。大好きな彼に会おうと思います。
あなたが会いなさいと言ってくれたから、私のことを誰よりも知ってくれているあなたが、グズマさんに会わなければいけないと言ってくれたから、私、彼に会うために此処を出ます。
強くなった彼と戦おうと思います。勇敢になった彼に、言いたいことが沢山あります。優しくなってしまった彼に、会いたいです。
酷いことを言われても、殴られても、蹴り飛ばされても、構わないって思うことにします。
私がもし一人になったなら、私を一人にした何もかもをぶっ壊してくれるって、グズマさん、ずっと前に約束してくれたんです。
だから私、彼がその約束を守ってくれるって信じています。
一人で勝手におかしくなった私は、きっとグズマさんにとってのヒールなんです。彼がぶっ壊すべきは私なんです。私、悪役なんです。
だから私、彼に壊されようと思います。恐ろしいけれど、どうしようもなく息苦しいけれど、壊されるために此処を出ます。
だって、グズマさんがとてもとても頑張って、強さと勇気と優しさを手にしているのに、彼は私に会うためだけに、それだけのものを頑張って自分のものとしているのに、
私にとてもよく似た彼がそんなにも頑張っているのに、私が何もしないまま、ずっと此処でいる訳にはいかないんです。
平穏を、幸福を、笑顔を、私は捨てなきゃいけないんです。全て捨てて、彼に会わなきゃいけないんです。
私は、グズマさんにそこまでさせてしまった責任を取らなきゃいけない。
私は、グズマさんの努力に、強さに、勇気に、優しさに、報いたい。
壊された後のことは、壊されてから考えることにします。
でも、きっともう私はアローラにはいられないでしょう。だから、次は何処へ行こうかなって、今から少し、考えたくなります。
あなたの誘いに乗って、エーテルパラダイスから一歩も出ずに過ごすのも楽しそうです。思い切ってジョウトやイッシュに出かけるのもいいかもしれません。
でも、何処に行くことになったとしても、私、ちゃんと生きます。みっともなくても、逃げることになったとしても、小石だとしても、生きていきます。
頑張らなくてもいいけれど、生きなければいけない。あなたがそう言ってくれたから、頑張らずに生きてみようと思います。疲れないように生きてみます。
幸せじゃなくても、笑えなくても、排斥されても、輝けなくても、どう生きればいいか解らなくなったとしても、生きます。
アローラリーグの二代目チャンピオンは、あなたになってもらいたいです。あなたにとって最も価値のあるものを、あなたにあげたい。
だからザオボーさん、わたしが壊されることを願っていてください。これからは私のことじゃなくて、あなたのことを、あなたが輝くことだけを考えてください。
毎週、此処に来てくれてありがとう。沢山の言葉を書いてくれてありがとう。今までずっと、私を見守っていてくれてありがとう。
もう「疲れた」なんて言いません。
2017.1.22