コバルオン達は、セイガイハシティから22番道路を抜け、ジャイアントホールという場所に向かった。
暗い洞窟を暫く進むと、とても開けた場所に出る。
そこではプラズマ団の団員達が、私に構うことなく言い争いを始めていた。
仲間割れかと思ったが、どうやらホドモエシティに居た元プラズマ団達が、現プラズマ団達の行いを止めるべくやって来てくれたらしい。
ロットさんは私の顔を見ると安心したように笑い「無事だったか!」と声を掛けてくれた。
「ここは我々が食い止める。早く中へ!」
「はい!」
私は彼の言葉に頷き、コバルオンの背中に乗ったまま、再び船の中へと進む。
伝説の3匹を連れて進む私の姿に、ロットさんが2年前のトウコさんを重ねていたことを、私は知らなかったのだけれど。
甲板には既にヒュウが来ていて、プラズマ団達とバトルをしていた。
俺はこいつらからチョロネコのことを聞き出すから、お前は先に行け。そう言われて私は頷き、先に船内へと入ることにした。
しかし、先程入ったところは封鎖されていたため、今度は船尾の入り口から侵入する。
当然のようにプラズマ団達がバトルを仕掛けてきたが、コバルオン達が応戦してくれたため、私は一直線に最奥へと進んだ。
「あの、シアさん!」
その時、私は誰かに呼び止められた。
振り返ると、黒服のプラズマ団員が駆け寄ってくる。私が身構えたが、彼は両手を揚げ、マスクの下で笑う素振りを見せた。
「俺です、元プラズマ団の!ほら、ホドモエシティで助けてもらいましたよね。今はスパイとして、此処に入り込んでいたんです」
「あ、あの時の……!」
彼は黒いマスクを下ろして、愛嬌のある笑顔を見せてくれた。
ポケモンの回復を彼にしてもらった後で、彼は悲しそうに口を開く。
「ここの連中、昔は同じ仲間だったのに、皆、N様のことを罵って……。
N様は過ちに気付かれ、自分の道を自分で決めて進まれたのに、それを裏切りと言うんですよ」
「そうですか……。ごめんなさい、私も2年前のことを詳しく知っていればよかったのですが、私は2年前のプラズマ団に直接会ったことはないので」
すると、その言葉に彼はとても驚いた様子を見せる。
「てっきり貴方も、あのヒュウという少年と同じような動機だと思っていました。
……じゃあどうして、プラズマ団と戦っているんですか?」
その言葉に私は苦笑した。
確かに、ヴィオさんも言っていたように、私の行いは他人から見ればとても不思議なものに映るのだろう。
トウコ先輩のように、誰かに強いられた訳でも、その役を押し付けられた訳でもない。全て私が決めて、此処まで来たのだ。
その為の背中は、私の大切な人達が強く押してくれたのだけれど。
プラズマ団と戦う理由。それはきっと、私の拙い正義を証明するためだ。
けれどそれを素直に口に出すことは少しだけ躊躇われて、私は肩を竦めてもう一つの理由を紡ぐことにした。
「会いたい人が、いるんです」
「え……」
「その人のことが、大好きなんです。私にとって、かけがえのない存在なんです」
おかしな理由でしょう?と私は笑った。
呆然と立ち竦む彼に、ポケモンを回復してくれたお礼を言ってから、私は奥へと駆け出す。
「会えるといいですね!」
私は振り返り、彼に手を振ってみせた。
そんな私の様子を、モニターを通してみている人物がいることなど、気付く筈もなかったのだ。
プラズマフリゲート内はとても入り組んでいて、最奥の部屋に向かうにはカードキーとパスワードが必要であるようだった。
私は彼等とバトルをしながら、何とかパスワードのヒントを貰い、カードキーを手に入れることにも成功する。
途中でポケモンドクターの男性にまたしても出会い、彼はバトルの後でやはりこちらのポケモンをも回復してくれた。
私は先程の場所に戻り、カードキーを差し込み、パスワードを入力して、ロックを外した。
私は夢中だった。だから、考えることを忘れていたのだ。
これだけの広い船内を探し回ったにもかかわらず、彼の姿を見つけられなかったことに、疑問を感じる暇すらなかったのだ。
最奥には、二つのワープパネルが置かれていた。
左のワープパネルにはプラズマ団員が立ち塞がり、乗ることはどうやらできないらしい。その団員の言葉に私はようやく気付く。
「もっとも、行った先でコテンパンにされるだろうがな!」
私は右のワープパネルを振り返った。私は確信していた。ありがとう、と紡いだ私を、そのプラズマ団員は怪訝そうに見つめていた。
半ば吸い寄せられるように、そのパネルに足を乗せた。
ふわり、と身体が宙に浮き、何処か別の場所に着地する。
「ようこそ」
二つの太陽がこちらを見ていた。
「シアさん、わたくしの望みはポケモンの力を引き出すことでした。そして、その為の手段なら、何でもよかったのです。
プラズマ団のように無慈悲なアプローチで、無理矢理ポケモンの力を引き出したとしても、……そう、そしてその結果、世界が滅ぶとしても」
彼は階段を降りながら、そんな言葉を紡ぎ始めた。
少しだけ感じた違和感はきっと、彼が自分のことを「わたくし」と呼んでいる点にあるのだろう。
この船に居る彼は、此処を居場所とする人達の思いを背負って此処に立っている。私はそれを正しく理解しなければいけなかった。
「更に言えば、わたくしは世界が「そう」あることを望んでいました。わたくしは世界の醜い部分を見過ぎていましたから、失われた世界の美しさをポケモンに見出していたのです。
ですから、彼等を人間とは全く異なる生物として捉えることをどうしても止められなかった。彼等はわたくし達とは違う生き物だと、ずっと思い続けてきたのです。
そんなわたくしの希望を、この組織は叶えてくれました」
「……」
「けれどわたくしは今、新たな仮説を立てています。それは他でもない、貴方に貰ったものだ。
……貴方にタマゴを渡したのは、貴方にその証明を求めていたからです」
『貴方に、証明してほしいと思ったからです。
ポケモンの力を引き出すのは、誰かを思う心と、そのために力を発揮したいと望む意志なのだと、その貴方自身の言葉を、真実にできるかどうか、見届けたくなったのです。』
私はその彼の言葉を思い出していた。
この彼との戦いは、私の正義と彼の正義との戦いだと思っていた。私の正義を証明するための対峙だと思っていた。
けれど同時に、彼に証明しなければならないことがもう一つあったらしい。
「そして、わたくしが最も拒んでいたその仮説を、「ポケモンは絆によりその力を最大限に発揮する」という、最も忌避すべきだった仮説を、受け入れさせたのもまた、貴方です」
「!」
「さあ、今のわたくしが望む答えを、貴方が持つのかどうか教えなさい!」
彼は白衣のポケットからモンスターボールを取り出して投げた。
出てきたレアコイルに、ロトムが勢いよく飛び出す。めざめるパワーを指示した後で、私はもう一度彼を見上げた。
彼は、とても優しい目をしていた。
2014.11.20
ホーントーン 全音