『アクロマさんへ
お元気ですか?お仕事、捗っていますか?
私はあれからヒウンシティに一度戻り、ジムリーダーのアーティさんと戦って、ジムバッジを手に入れました。
その後は4番道路を北に進み、リゾートデザートという、とても広い砂漠へと辿り着きました。
そこでマラカッチやシンボラーなどの新しいポケモンを図鑑に登録していると、古代の城と呼ばれる、その殆どが砂に埋もれてしまっている場所を見つけました。
中は入り組んでいて、迷子になりそうだったため、探索は断念したのですが、機会があればゆっくりと中を歩いてみたいです。
この場所のポケモンはとても強く、過酷な環境を選んで生息するポケモン達の強靭さを思い知りました。
ここではズバットが活躍してくれました。
群れの中でのボス格な存在を務めていただけあって、その技はどれも強力です。
何よりも素早いので、彼に先手を取ったポケモンは今まで一匹もいません。スピードのエースとして、今ではパーティの要となる存在になっています。
出会い頭にバトルを仕掛けてきたポケモンドクターの人が、バトルを終えた後で私のポケモン達を元気にしてくれました。
私には医学の知識が全くないので、何をしているのかはよく解りませんでしたが、まるで魔法みたいな手つきでポケモンを診察し、薬を与えてくれました。
砂嵐が吹き荒れるこの場所でも、傷付いたポケモンを助けようとするその精神に感動を覚える一方で、どうしてバトルを申し込まれたのだろう?という疑問が生まれました。
「この砂漠に入っても平気な強さを持った人間かどうか、ポケモンバトルで確かめているんだ」とのことです。
人間は狡くて卑怯で理不尽なところもあるけれど、こんな風に他者に尽くし、思い遣る心を持った人も、沢山います。
私は旅を続けていて、そうした親切な人に沢山、出会いました。きっとこれからも出会うでしょう。私の旅は、まだまだ終わりそうにないから。
ライモンシティに向かう途中に、ジョインアベニューという施設がありました。
そこは一軒のお店もない、閑散とした場所だったのですが、その土地のオーナーに、何故か土地を任されてしまいました。
彼曰く、この通りをお店で賑わう立派な町にしたい、とのことでしたが、そんな大変なことを任されてしまい、私はどうすればいいのか解らなくなりました。
取り敢えず、何もすることなく、逃げるようにその場を後にしました。私は医学の知識もありませんが、経営の知識も同様に皆無だったからです。
頑として断る姿勢を見せられなかった私が悪いのかもしれません。旅を続けながら、どうしようかと考えようと思います。
ライモンシティはヒウンシティとはまた雰囲気の異なる町でした。人はヒウンシティの方が圧倒的に多いはずなのですが、こちらの方が賑やかです。
それはきっと、ライモンシティに多数の娯楽施設やバトル施設があることと関係しているのだと思います。
この町では、遊園地の観覧車が取り壊されるかもしれないという話を聞いたり、リトルコートでテニスではなくポケモンバトルをしたりと、色んなことがありました。
ライモンシティの中央には、バトルサブウェイという施設があり、私は偶然にも、その施設のサブウェイマスターという方々と戦うことができました。
そのバトルサブウェイでは、バトルをするための車両が沢山ありましたが、一つだけ、カナワタウンという田舎町に繋がる路線がありました。
そこには電車の車両が日替わりで展示されていて、電車をこよなく愛する人の聖地になっていました。
観光客はその車両を見に来る人くらいで、後は閑散としていましたが、空気が美味しくて、つい長居してしまいました。
ライモンシティのジムリーダー、カミツレさんと戦い、4つ目のバッジを手に入れました。
カミツレさんは電気タイプの使い手で、ロトムが対応心を燃やしていたため、彼に頑張ってもらいました。
シャドーボールというゴーストタイプの技を使いこなせるようになったので、電気タイプの技が利かない相手にも、これで上手く立ち回れるようになります。
16番道路の先は通行止めになっていたのですが、ここでのトレーナーとのバトルで、ズバットがゴルバットに進化しました。
と思ったら、次の野生のポケモンとのバトルで、あっという間にまた進化をしてしまいました。
クロバットという、4枚の翼で空を飛ぶポケモンです。素早さに益々磨きがかかっている彼に、先制を取るポケモンはまずいないでしょう。
その時、バトルをしていたトレーナーさんに教えてもらったのですが、ゴルバットからクロバットに進化するための条件は、強さではなく、トレーナーとの絆だそうです。
だから野生のクロバットは殆どいないのだと、そのトレーナーさんは教えてくれました。
私はポケモンのことが大好きです。
けれど、私にはポケモンの声が聞こえないので、彼等が私のことをどう思っているかを、言葉の形で知ることはできません。
だからこそ、ゴルバットの進化はとても嬉しかった。彼も私を信頼してくれていると確信できたからです。
私がポケモンを思うように、ポケモンも私を慕ってくれていると知ることができたからです。
私は、少しずつ、自分がポケモントレーナーになっていくことを実感しています。
シア』
5番道路を抜け、ホドモエの跳ね橋を渡った先で、私はまたしてもあの黒服のプラズマ団員を見つけることになる。
しかしこの間と違うのは、白い服を着て、フードを被った男性と話をしていることだった。
「!」
私はあの服装を知っていた。いや、寧ろ私の中で「プラズマ団」というのは、彼のような服を着た人達のことを指していたのだ。
テレビでよく見かけた、プラズマ団員の団服。2年前に解散した筈だが、どうしてこんなところにいるのだろう?
そこまで考えて、私はヒウンシティへ向かう船での、トウコ先輩の話を思い出していた。
プラズマ団はあれから二つに分裂したのだ。
「傷付けられたり、捨てられたりしたポケモンを守る」という方針に賛同していたメンバーと、「人間からポケモンを奪う」という方針に賛同していたメンバーとに分かれた。
前者の拠点はホドモエシティにあると彼女は言っていたから、きっと彼等はこの辺りで活動を続けているのだろう。
そう思案していた私は、急に肩を強く叩かれ、飛び上がって驚いてしまった。
「え、何よ、そんなに驚かなくたっていいじゃない」
慌てて振り向くと、トウコ先輩が笑顔で私の肩に腕をかけているところだった。
噂をすれば何とやら、というのはこのことか。……いや、声には出していなかったけれども。
「……で、何?あいつら。喧嘩でもしているの?」
彼女のその言葉に、私は視線をあの二人に戻した。
丁度、黒服の団員が白服の団員を突き飛ばしているところだった。
「今更まじめぶっても遅いんだよ!俺達の正義は理解されず、世界征服を目論んだ悪者って言われているんだろう?
プラズマ団を辞めても、世間は冷たいよな。だからいっそのこと、俺達とポケモンを奪いまくり、世界征服をしようや!」
その言葉で私は、大体の事情を理解する。
どうやら一方の派閥が、もう一方の派閥に勧誘をしかけているらしい。慈善活動なんてせずに、こちらへ戻って来いと、黒服の彼は言っているのだ。
「……はあ、馬鹿らしい。シア、あんなのに首を突っ込んじゃいけないわよ」
彼女がすぐ傍で私にそっと囁く。私はそれに苦笑しながら、しかしその二人から目を離すことができずにいた。
白服の団員がおずおずと口を開く。
「駄目だ……。N様が悲しむ。そんなことはできない……!」
「N!何がプラズマ団の王様だ、ただの裏切り者だろ!」
そして私は、驚きに口を開いて立ち尽くすことになる。
私の肩に腕を掛け、凭れ掛かるようにして、無関心を決め込んでいた筈の彼女が、「あんなのに首を突っ込んじゃいけないわよ」と数秒前に私に忠告してくれた彼女が、
「裏切り者」という単語を聞いた途端にその目を見開き、黒服の団員に飛びかかり、そのままアスファルトへと押し倒したのだ。
「!?」
私も驚いていたが、その黒服の団員に突き飛ばされていた白服の人も、そして黒服の団員も一様に驚いている。
唯一、トウコ先輩だけが、黒服の団員の胸倉をぐいと掴み、上半身を起こさせ、そこに自分の顔を近付け、口を開いた。
「次に同じことを言ったら、クロスサンダーを浴びせてやるからな。……それとも素手で殴ってやろうか?」
それは、彼女であることを忘れさせるような、低い、真っ黒の声音だった。
彼女が右手を振り上げる。唖然とする私、白服の人、黒服の団員。その中で一番初めに我を取り戻した私は、大声で彼女の名前を呼ぶ。
「トウコ先輩!」
それは彼女への制止のつもりだったのだが、その言葉に黒服の団員さんは驚き、悲鳴を上げてよたよたと走り去ってしまった。
白服の人も、私の言葉にとても驚いた様子を見せる。
そして私はようやく思い出した。彼女がNさんと一緒に居る姿が私の中では当たり前だったから、忘れていたのだ。
彼女がNさんと対峙したことを。その後、ゲーチスさんという人と戦い、プラズマ団を解散に追いやったことを。
そんな彼女を脅威と感じるのは当然のことだろう。
「……」
逃げ去るプラズマ団員を、彼女は泣きそうな目で、じっと睨み続けていた。
2014.11.18
スタッカティッシモ 強いスタッカートで