SS

・ジャンルはすべてポケモン
・短編未満、連載番外、if、パロ、なんでも詰め合わせ

SSにも満たなさそうな会話文、極端に短いもの、本編に組み込む予定のない突発エピソード、などはタグ「ちりがみ(塵)」に格納します。


▽ 天使とは?(1)

2025.04.26 Sat * 19:46

「えっ何です、貴方は天使のような人ですねとでも言ってほしいんですか?」
「ふふ、今夜の言葉はちょっと尖っていますね。そんなにパスタの茹で時間を誤ったのが悔しかった?」

 やわらかいパスタも私は好きですよ、と付け足して彼女は本を片手にソファへ体を沈める。ソファのカバーは落ち着いたモスグリーンだったのだが、つい先日彼女がそこへコーヒーをこぼしてしまい、クリーニングへ出している。
 代用品として購入したカバーは純白の薄いシーツ状のもの。言ってしまえば安っぽく、腰掛けた際のシワもかなり目立つ。早く戻ってこないだろうかと、肌触りもよかったあのモスグリーンの帰還を二人は待ち遠しく思っている。

「アルデンテの気丈なパスタを食べたい気分だったもので」
「そんな今日のパスタがまるで腑抜けだったみたいに」
「そうでしょうとも。冷水に晒して少し気を引き締めてもらうべきだった。惰性でペペロンチーノの即席ソースをそのままかけたばかりに」

 本を開かずに胸元で抱いたまま、ずるりと姿勢を崩し、コロコロと笑う。純白のカバーへ豪快にシワが寄る。翼を畳むことを忘れた天使が、自らの羽でじゃれているように……まあ、見えなくもない、かもしれない。

「貴方は天使という柄ではないでしょう。ただまあ、天使のように常軌を逸した存在であることは否定しません」
「じゃあ悪魔の方かしら?」
「そんなかわいらしいものでもないはずだ。幽霊よりも妖怪よりも、天使や悪魔なんかよりも、下手をすれば神よりも、貴方は」
「私は?」

 縋るでもなく試すでもなく責めるでもなく、ただ純粋な興味を映した丸い瞳がこちらを見上げてくる。

「アポロさんは、私が何者だと嬉しい?」

 にっこり。あまりに綺麗な笑い方だったため一瞬怯んでしまう。
 そのような質問は多かれ少なかれ恐怖ないし不安を伴うものだ。問いかける相手が想い人であるなら猶のこと。

「貴方、が」
「ええ、私が」
「強い存在であればいいと思います」
「えっ? ふふ、私はかなり強いと思うんだけど、まだ足りない?」

 しかし彼女の目にはそうしたネガティブな感情が滲まない。躊躇いを一切感じない、傷付くことを知らない子どもの目と何ら変わらない輝きだ。
 こちらを信頼しきっているからなのか、それともこちらがどう答えたとて、彼女はそう「成り直す」ことができるという確信があるからなのか。

「私などの意見を受けて魂の在り様を変えてしまうような、そうした優しさを持たない存在であればいいと、心から思います」
「……」
「アルデンテのタイミングを逃した私を慰めようとしてくれる、その心意気は受け止めます。ですが杞憂でしたね。私はもういつだって『嬉しい』のです。貴方が何者でも、何者でもなかったとしても」

 腑抜けたパスタを拗ねた顔で口にした今日の夕食だって、貴方の鈴のような喉をコロコロと慣らすきっかけになったのなら、もうそれだけでチャラにできてしまうのだ。

「ただ、私の好みで言うなら、貴方には黒い翼より白い翼が、鬼のツノより天使の輪が似合う気はしています」

 満足ですか、と付け足せば彼女は本で自らの顔を隠すようにして、ふふっと声を潜ませる珍しい笑い方をした。
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▽ 呪い

2025.04.17 Thu * 4:42

「お前が私の首を絞めたことがあったでしょう。あの頃からお前は私と同じ人種なのだと確信していましたよ」

 氷がたっぷり入った甘いレモンティーを混ぜる手がぴたりと止まる。海の目を丸くした彼女へ見せつけるようにワインの入ったグラスを掲げる。真夏、痛いほどの鋭さで窓から差し込む夕日が、グラスの中の赤いワインを明るく照らした。
 ワインの向こう側など普段なら見られたものではないが、これだけ夕日が眩しい今ではそれも叶ってしまう。小さな赤い海に溺れる二つの瞳は、しかし動揺を見せることなくすっと細められる。

「だから貴方は生きてくれたんですか? ゲーチスさん」
「……」
「我慢ならなかった? 嫌っている自身にひどく似た存在が、幼稚な正義を振りかざして自分の野望を折ることが。あまつさえ死なないで、なんて言いながら、自分の命を支配しようとしに来ることが」
「よく分かっているじゃありませんか、その通り。私はお前の為すすべてが許せなかった。お前のすることばかり許せなかった」

 ワインはこれで二杯目。この緩い空気が始まったのが約1時間前のこと。休日の昼間から果物とともにアルコール飲料を少しずつ口に運び、だらだらと続いてきた無駄話も佳境に入ろうとしている。もう十分すぎるほどに、男には酔いが回っていた。そうでもなければこのような話など出せやしない。
 思い出話を素面でできるほど、ここ数年の彼は追い詰められていなかった。あのような過去に多少の気恥ずかしさを覚えられるようになる程度には、男は変わった。男のそんな思い出話に怯える必要がなくなる程度には、少女も少女でなくなった。時が流れたのだ。

「お前に首を絞められたあの日に、その理由をようやく理解できたような気がしたのですよ。まあ、全く力の入っていない震える両手を首に沿えて、声帯をただ撫でるようにしていただけのアレを、首を絞めると表現していいのなら、ということにはなりますが」
「あはは! まさか今更あのときの恐怖と躊躇いをからかわれるとは思わなかった!」
「とんでもない、褒めているのですよ。お前の要領を得ない発言だけではピンと来ませんでしたが、形だけでもあのようにされたことでやっと理解できました。お前が自分の望みを絶対に叶えようとする人間だということ。自分の手から零れ落ちそうになるものを呪ってでも、お前はお前の望みを叶えようとするのだろうということ」

 その呪いにより男は活かされている。それはたまたま二人が似ていたからだ。本質的には同等に汚れたどす黒いはずの魂を、少女らしい無垢な願いで覆い隠していただけのこと。

 男の激情により魂を剝き出しにされた少女がしたことは、抵抗しない男を押し倒して、泣きながら首を絞めること、というのは……今思い返せば実に愉快で滑稽な話である。
 お前も同じか、よりによってお前が、同じなのか。
 雷に打たれたような気付きだった。天啓のような衝撃でさえあった。男の野望がこの少女に、非常に似た魂を持つこの少女に打ち砕かれたことに、ある種の意味を見てしまいたくなるほどには。

 まっとうに生きられるものなら生きてみろ、と思った。
 私に似た魂を持つお前が、その生き汚さを隠し通せるものならやってみろ、と思った。

 そして今のところ、少女は表向き、清廉潔白で情に脆い人間を演じている。本人が演じているという自覚がないまま、愚鈍さと愚直さは出会ったころと全く変わらないまま、彼女は日々、何者かを救うヒーローであり続けている。

「戯言と思っていただいて構いませんが、仮に他の誰が同じことをしたとしても、私は生き直そうとは思わなかったでしょうね」
「え? 嬉しいなあ、そんなに私が魅力的だった?」
「ちょっとそのレモンティーを寄越しなさい。お前を気に入らない何者かがアルコールを混ぜた可能性がある」
「いやいや冗談ですよ! それにこれは、ここへ来る途中でそのワインと一緒に買ってきたものです。混入される隙なんてありませんでしたよ」

 成る程、ではこのワインにも、男に腹を割らせる悪質な薬などは入っていないということになる。それなら結構と小さく笑いながら口にして男はもう一度グラスに口をつけた。
 あれっと彼女は首を傾げて、そしてクスクスと笑い始める。

「私がワインに薬を入れることは想定していなかったんですか?」
「馬鹿を言え。お前がなお私相手にそのような下手を働く人間なら今すぐそこの窓から海へと放り投げます」
「それはそう! じゃあ貴方がこんなにも沢山喋ってくれるのは、本当に貴方が話したくなったから、ってことになりますよね?」
「そうですよ。私はお前を称賛しているのです。私に似た魂を持ちながら、よくぞ表向き、ここまでまっとうに生き抜いたものだと」

(もうちょっと続く)


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▽ (塵)アオイ仮案

2022.09.28 Wed * 9:47

「あなたがアオイさんね」

 オモダカは長身を折り畳むようにして少女へと目線を合わせた。白い帽子の奥に隠れた、ニャスパーのようにまんまるな瞳がじっと彼女を見つめている。怯えも緊張もその目からは感じられなかった。子供らしい無邪気さや快活さにも乏しかった。
 スランプを抱えた芸術家のやや鬱々とした色、彼女の目はそれに似ている。何かを表現したいのに表現できないことへのもどかしさに、苦しみ、苛立っているようにも思える。

 この子供はやや無口であるとオモダカは聞き知っていた。けれどもオモダカには、彼女が「好んで寡黙を貫いている訳ではない」ように見えた。伝えたいことや訴えたいことは湯水のように湧き出ているのに、それを表現するための相応しい言葉が出てこない。そんなもどかしさが彼女の喉を詰まらせている。オモダカにはそう見えた。

「靴音」

 こちらが一方的に話をするだけの邂逅となるのでは。そう覚悟していただけに、彼女の方から言葉が出てきたことはオモダカを多少なりとも驚かせた。けれども、靴音? 彼女は何を言おうとしているのだろう。オモダカは沈黙で続きを促し彼女を見つめ続けた。彼女も視線を逸らさぬまま、落ち着いた声で続けた。

「あなたが歩くと音が鳴る。あなたの歩くところに宝石の道が出来る」

 ややあって、オモダカは彼女の言うそれが、オモダカの履く靴が立てる独特の音を指しているのだと気付いた。カツンカツンと高く響くそれをどうやらこの子は気に入ってくれたらしい。
 宝石の道、とは面白いことを言う、と思いながら、オモダカは尖った靴先をちょんと出して、悪戯っ子のように笑ってみせた。ただ彼女は靴先にすっかり目を奪われてしまっているので、オモダカの表情の変化になど気付く由もなかったのだけれど。

「凄いわね、どうして分かったの? この靴の裏には本当に宝石が入っているのよ」
「……」
「見たい?」

 彼女が頷くより先に、オモダカはその尖った靴を脱いで、ひっくり返してみせるつもりだった。勿論そこに宝石などありはしない。代わりに靴裏へと刻まれたブランドロゴを見せて「あなたも大きくなってこの名前の靴を履けば、宝石の道を作れるわ」と、話して聞かせるつもりだった。そんなちょっとした夢を彼女に見せてやれたなら。そんなお茶目な励ましで、このまんまるな目をした子供が少しでも優しく笑ってくれるなら。
 けれどもそうしたオモダカの意図に反して、彼女は首を大きく振って拒絶の意を示した。靴へと伸ばしていたオモダカの手をぐいと掴んで引き留めさえして、焦ったような必死さでこちらを見つめてきたのだ。

「見たくない」
「どうして?」
「聞くのがいいの。あなたが作った音がいいの」

 それは……どういうことだろうか。

 彼女の発言の真意を図りかねてしまい、オモダカは静かな笑顔のままに「そうなの」と同意するしかなかった。けれどもその同意こそが彼女の最も欲しいものであったのかもしれない。オモダカの相槌を受けて、彼女は手をほどきつつふわりと笑ってみせたから。喉の詰まりが取れたことへの爽快感と、何かに許されたことへの安堵感を湛えた、とても子供っぽくてあどけなくて、それはそれは素敵な笑顔だったから。

「また会いましょう、アオイさん」

 温かい手をぎゅっと握り締めてからオモダカは立ち上がった。帽子を目深に被った彼女とは、もう視線も交わりようがなかった。
 カツカツと靴音を響かせて歩く。今、オモダカは宝石の道を作っているのだと、オモダカの歩くところに宝石の道ができるのだと、あの不思議な子が言ったから、今はそれがオモダカの真実になる。

 もっと話してほしい。もっとあなたの話を聞きたい。あなたの目や耳に届くパルデアの世界がどれほど美しく素晴らしいものなのか、私にもっと聞かせてほしい。

 いつか、あなたの世界にあなたの言葉が追いつくところを見てみたい。

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アオイ仮案その①(話し下手・独特の感性・強い拘り)
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▽ (塵)いつか死んでほしい

2021.05.12 Wed * 18:04

「貴方には想像が難しいかもしれないけれど……私にとって、800年目を迎えたあの日はつい先週くらいのことのように思えるんです。だから次の100年だってきっとあっという間に過ぎる」
「やはり壮大な話だ。僕などは80年を生きるのがやっとだったというのに」
「だから私はこれからも、大勢の人とすれ違い、大勢の人とほんの一瞬だけ生きて、そして別れて、忘れていく。貴方の子供や孫のことだって、忙しない時代の流れの中、きっと見失ってしまいます」

 しわの増えた僕の手を握り、天使様はそう仰いました。永遠の命を持ち、あらゆることを見聞きしてきたはずの彼女。同じく死ぬことを忘れた相棒であるサーナイトと共にもう何百年と生き続けてきた彼女。知らぬことなど何一つなく、できないことなど数える程しかなさそうな彼女。
 けれどもそんな彼女は、僕の崇敬する天使様は、ああ、ああ、たったこれだけのことさえ叶えてくださらない。その全知全能に近しい頭脳のほんの片隅に、僕という存在を置くことさえ許してくださらない。

「だから約束はできない。貴方のことは連れていけない。私は今日限りで貴方とはさようなら、思い出さえ全て此処に置いていきます」
「……」
「貴方のことを嫌っている訳じゃないんです。私は誰に対しても、こうします。今までも、これからも」

 冷たい話だと思う。死の床で視界を眩ませている僕に対してなんと非道なことかとも思う。期待の一切を抱かせないその切り捨て方はほとほと天使様らしくない、とも思う。ああ天使様、永遠を生きるカロスの女神よ。貴方の記憶に留まれないことのなんと悲しく辛いことか。
 けれどもそれも仕方のないことなのかもしれない。だって彼女は天使ではあるが神ではないのだ。全知全能に思えるがきっと本当はそうではないのだ。出会った人、別れ行く人のことを全て覚えておくことなどできないのだ。その小柄な体に蓄えておける記憶には限界がある。僕では「そこ」に入れない。きっと他の誰にも入れない。彼女の「そこ」はきっともう一杯だ。おそらくは、彼女が天使様になるずっと前の段階、死の運命をまともに抱え込んでいた人の頃にはもう、既に。

「どうしても叶いませんか」
「ごめんなさい」
「声や姿までとは望みません。せめて名前だけでも憶えて、持って行ってくださいませんか」
「……ごめんなさい、本当に」

 ああなんて頑固な天使様。でもそんな貴方が看取ってくださるのなら今日限りそれも許しましょう。きっと貴方の仰る通りだ。僕には想像も付かないことではありますが、永遠を生きる貴方にとって「覚えておく」というのはとても、とても辛いことなのでしょうね。貴方はきっともう十分に辛いのだ。これ以上の辛さを抱えてはおけないのだ。であるならば僕は喜んで忘れ去られましょう。僕を手放すことが安息となるならば喜んで消えてみせましょう。

「じゃあ、いつか死んでいただけますか。僕のもとへ、来ていただけますか」

 でも許されるなら、いつか、いつか、貴方にも僕のように、消えるという安息が訪れてほしい。死ぬことさえ忘れた彼女、次の100年さえあっという間だと語った彼女に、千年先、万年先でも構わない、どうかこの平穏が訪れてほしい。

「……ふふ、そんなことを誰かに望まれるのはとても久しぶり」

 老体の駄々捏ねに、天使様は存外機嫌を良くされてしまった。はっきりとはもう見えないが、貴方の笑顔はいつだって美しく、今もほら、光のようだ。その光、死の向こう側にある平穏で、僕はずっと天使様のことを待っています。そんな人、きっと僕の他にも沢山、沢山、いらっしゃいますよ。

 ガラリ、と扉の開く音がする。不思議な音で誰かが誰かのことを呼ぶ。彼女はそれまでずっと天使様だったから、この地では誰に対してもずっとそうであったから、僕はその男の声が紡いだ「シェリー」が他ならぬ女神様の名前であるということに、最期まで気付くことができなかった。

 850年目くらい

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▽ 雨後に箱舟

2021.04.10 Sat * 14:16

(旧サイトSS企画より抜粋、イベント「お花見」企画9本目)
 雲間から思い出したように陽の光が降り始めた頃、私と彼は最寄りの喫茶店を出た。
 ほんの1時間程度の通り雨だったけれど、それでもミナモの並木道に咲き誇る春の色を殺ぎ落とすには十分すぎる程であったらしく、その7割程が枝から離れてしまっていた。
 けれど枝から殺ぎ落とされてもその鮮やかさは褪せることがなかったようで、並木道の水溜まりに降り積もった花弁は、その下にあるアスファルトの色を忘れさせてしまう程の眩しさで人の目を鋭く穿ち、一気に散ってしまった桜を惜しむ彼等の溜め息を、一瞬にして感嘆のそれに変えてしまった。勿論、私だって例外ではなく、歓喜の声を上げてそちらへと駆け出し、水溜まりを埋め尽くす桜色を、言葉すら忘れてただ茫然と見つめていた。

「花筏か」

 少し遅れて私の隣に並んだ彼は、赤い隻眼をすっと細めて、水溜まりを彩るその桜に私の知らない名前を付けてみせた。花筏、と彼の言葉を反芻すれば、彼はいかにも説明が億劫だというように大きく溜め息を吐いてから、しかし淀みなく饒舌に「花筏」の説明をしてくれた。

「水面を埋め尽くす桜をそう呼ぶ人もいるらしい。もっとも、本来は川を筏のように流れる花弁を指す言葉であるようですが。
……人というものは、命の短く美しいものには必ずと言っていい程に、何かと名前や理由を付けて慈しまずにはいられない、忙しない生き物だということですよ」

「ふふ、でもそんな『忙しない』言葉を、私は知りませんでしたよ、ゲーチスさん」

 貴方はどうして知っていたんですか?
 そう告げれば彼は見るからに不機嫌そうな顔になって、私の、まだ乾ききっていないセミロングの髪を左手で掻き乱した。それは先程の雨空の下で為された行為に酷く似ていたけれど、もう彼は子供のように屈託なく笑うことはしなかった。彼の子供のようなあの笑顔を引き取るように、彼の屈んだアスファルトは春色の方舟を描いていた。

「しかしお前もこれから『忙しない』ことをするのでしょう? 相変わらず強欲なことだ」

 そうして彼はいとも容易く私の心を読む。私は肩を竦めて微笑み、鞄からその「忙しない」行為の象徴である、スケッチブックと色鉛筆を取り出して、近くのベンチへと駆け出す。彼はいつもの溜め息を落とした後で、少し遅れて付いてきてくれる。

<サイコロ番外「葉桜の目は赤」の後にあったかもしれない話>

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