忘れ返してやった(未定)

「ありがとう、皆を呼んでくれて。ミヅキ一人ではきっと、別の場所からやってきたあいつ等に勝つことはできなかっただろうから」

「お力になれたのであれば何よりです。……それに、ミヅキさんのためというよりも、これはわたくしの欲望に忠実に動いた結果、と言った方が正確かもしれません」

「お前の欲望?」

「ええ、わたくしがどこまでこの未知の技術を使いこなせるのか、実際に試してみたかった、というのが一つ。
そしてもう一つは、何処かの世界で実際に繰り広げられたであろう、悪役と主人公の戦いの再現を、間近で見てみたかった、ということでしょうか」

……ということはこの科学者、私の後をこっそりと付いてきていたのだ! 私がRR団の下っ端と戦っている姿を、こいつは傍でずっと見ていたのだ!
トキがマツブサやアオギリと戦う姿も、アカギを迎えに来たヒカリの姿も、フラダリを救うために声を荒げるシェリーの姿も、ゲーチスを嘲笑うトウコの姿も!
やられた、と思った。随分と美味しいところで長いこと息を潜めていたのだな、と、彼を責めることは簡単にできた。
けれども私だって、彼女達の大活躍を間近で見せてもらった一人に過ぎず、甘い汁をすすったのは私も同じであるのだから、彼ばかりを非難する気には……なれなかった。

彼女達の凛とした戦いぶりに比べれば、私の、サカキとのバトルはひどく無様で見劣りしただろうな、と思う。
いや、それも見越してアクロマは、あの、名前を教えてくれなかった不思議な女の子を連れてきてくれたのかもしれなかった。

何処までも彼の「計算通り」に動いている気がした。
この男がRR団のような組織を、それこそ戯れに立ち上げてしまったなら、一体誰が止められるのだろう、と考えて、……そこで私は、大事なことを思い出した。

そうだ。「彼女」がいない。「彼女」が、アクロマに呼ばれていない。

「なあ、マリーはどうしたんだ? お前なら誰を呼ぶよりも先に、マリーを呼んできていそうなものだけれど」

「……マリー? それは、誰のことでしょう?」

「何を言っているんだ? マリーは、」

ぞっとした。頭が真っ白になった。氷の中に埋め込まれたような、あの夢のような恐怖を私は久々に思い出した。
ミヅキの知らない人物と出会うことよりも、私が同じ運命を辿っていきそうになることよりも、そんな私に関する何もかもよりもずっと、ずっと、

この男がマリーを知らないことが恐ろしかった。

「嘘だ、嘘だろう? 冗談だと言ってくれ。お前が! お前がマリーを知らないはずがないんだ。
仮に世界がマリーを忘れたとしても、お前だけはマリーのことを知っているはずなんだ。知っていなきゃダメなんだ!」

ミヅキさん、落ち着いてください。わたくしは本当に、マリーという名前に心当たりがないのです」

「やめろ! やめてくれ! マリーを……シアを忘れたなんてその口で言うな!」

彼女の本名を口にしても、彼の表情は変わらなかった。突然、大声を上げた私を案じるように、その金色の目は不安に揺れていた。
ああ、違う、違う! その目を私なんかに向けなくていい。その太陽に案じられるべきは私じゃない!
どうして、どうしてお前がマリーを知らないんだ。私が知っているのに、あんなに二人は想い合っていたのに、どうしてお前はマリーを呼ばないんだ。
私は、期待したのに。いろんな場所の主人公が悪役と対峙するために呼ばれる度に、次こそマリーが来るはずだと、どうか会わせてほしいと、祈っていたのに。
この男の中には、本当に、最初から「マリー」などいなかったというのか?

あんまりだ。

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