悪魔が幸せそうに眠るから(未定)

ポケモンセンターの中にあるカフェの男性に、モーモーミルクをテイクアウトで注文する。
温めて、と短く告げれば、少しばかり驚いたような沈黙の後で「かしこまりました」と笑顔で快諾してくれた。
お金をカウンターの上に置き、無言でミルクを受け取って、2階にあるトレーナー専用の宿泊部屋へと向かう。
ベッドと小さなテーブルがあるだけの簡素な狭い部屋に入り、鞄からペットボトルとスプーンを取り出す。

中に入っている土色の粉を、温めてもらったミルクの上に勢いよくかけてざぶざぶと沈める。スプーンでぐるぐるとかき混ぜれば、その粉はミルクの渦に吸い込まれる。
程よくかき混ぜたところで、その渦が収まるのを待たずに口を付ける。すう、と軽く流し込む。

「……溶けてない」

ほろりと零した私の舌に、苦いコーヒーの粒が残っている。強引に口の中で溶かしてみる。もっと混ぜた方がいいのかしら。
そう思って更にぐるぐると続けたけれど、やはり粉は僅かに残ったままだった。
液体に溶かせるものの量には限界がある。ママとお菓子作りを試みて見事に失敗した遠い日のことを思い出しながら、きっと粉が多すぎたのだ、と結論付ける。

「もっと欲しいな」

ミルクは特に好きではない。この粉だって苦いだけの代物だ。
私は優しい甘さの中にちょっとしたほろ苦さがあるような、そうした、もっと繊細な味が好き。けれどもその大好きな味をこの地で手に入れることは不可能だ。
そんなことは分かっている。この地には私の大好きだったものなんて何もない。ミヅキがそれを知っている。だから私は、分かっている。

それでも、大して好きでもなく美味しくもないものを毎晩こうして飲んでいる。それは私の切実な願いのためだ。
これは私のおまじない。眠りませんようにという、私の祈り。眠っている私を見なくて済みますようにという、祈り。

「明日も明後日もその次も、ずっとずっと、ミヅキはお前たちを許さない。ミヅキは絶対に、この運命を受け入れない」

狭い部屋、静かな場所、夜の闇は答えない。窓の外に見える月は、毎夜のこうした呪詛をただ静かに許している。
まだコップの中に半分も残ったその「おまじない」を抱えて、私はベッドへと腰掛け、月を見上げた。

「大嫌いだ」

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