Rain falling like wisteria(hpパロ)

この友人と共にルールを破ることへの高揚は、年に1回あるかないかの頻度で私へと乱暴に踏み入る。
ほら、ほら、素敵でしょう! と、そんな「柄」ではないくせに、幼い子供のように、本物の14歳であるように私へと手招きする。
愉快そうに細めたその目は、もう何十年もこの世界を見てきているというのに。私など、貴方がすれ違ってきた幾千の命のうちの一つに過ぎないというのに。

「ほらコトネ、早くしなさい! 雨が止んじゃう、朝が来ちゃう」

この小雨。この涼しい夜明け。私のずっと前を走るように滑る半透明の彼女には、これらの要素がどうにも重要であるらしかった。
からかうように、騙すように、禁じられた森の闇間へとその魂を滑り込ませるようにして入っていく。
振り返って急かす彼女にしっかりと呆れ顔を向けてから、誰かに見つかってしまうことへのリスクを回避するために、透明マントを被った。

「自由に消えることができないなんて、生きているって不便ね」

クスクスと笑う、いつものことだ。その蔑視、その揶揄、あまりにもいつものことだから、私は憤ったりしないけれど、あんまりだ、とは、毎回思うようにしている。
それでも、普段は私を軽蔑するように笑うだけのこの友人、私と一緒にいたがるようなことなど万に一つも起こり得なさそうな彼女からの、珍しい誘いを、
それがたとえ朝の4時に為されたものであっても、まだ夢の中にいた私を叩き起こして為したものであっても、私はやはり、拒むことができていない。

それに、偏屈な友人がこのように笑う理由など、きっと「私」では在り得ない。他の誰でも在り得ない。つまり……そういうことだ。
彼女の駆ける先には、彼女の庇護すべき人が、彼女の世界の半分を持っている相手がいる。私も大好きな、私の友達でもある、半透明の魔法使いが待っている。

「……わあ、K。貴方、コトネを起こしてしまったの?」

樹海へと絡み付くように背を伸ばし、雨を降らすように地へと向けて咲く、優しい紫色の花。その下に彼女はいた。半透明の笑顔が私の名を呼んだ。
この花はジョウト地方でも見たことがある。藤だ。俯いているにもかかわらず、それはとても鮮やかで甘い香りと共に凛として降るのだ。
気の遠くなるような永い時をこのホグワーツで過ごしている彼女たちは、生きている人間にはとても見つけられないような秘密の場所を、幾つも持っている。
きっと今日、この4時半、私はその隠された場所の一つを紹介してもらったのだろう。
小雨の降る夜明け前。この時が最も美しいからこそ、私は叩き起こされたのだろう。

「……綺麗だね。綺麗すぎて現実じゃないみたい。貴方達にとてもよく似合っている」

「あれ? それは……褒められているのかな?」

「勿論だよ、だって私にはどうやっても似合わない! そんなこと、Kにだって分かっていたはずなのに、それでも私を呼んでくれたんだね」

振り返って「ありがとう」と付け足せば、彼女はまたしても少女のように、ごく普通の14歳であるように、その感謝を喜ぶ笑みを作ってみせた。

このゴーストにとっては、この美しい、藤の香りが小雨と共に降りてくる神秘的な場所に、私を紹介しない方がずっと「らしい」ことであったのだろう。
そうした方が、半透明の片割れと永い時を回し続ける彼女にはいっとう似合っていたのだろう。
それでも彼女は私を呼んだ。朝の4時に叩き起こして此処まで連れてきてくれた。
その意味は解りかねたけれど、単なる気紛れであったのかもしれないけれど、今はただ、彼女の見えない心の変遷の先に与えられたこの景色を喜んでいたかった。

雨と共に降る花に、夜明け前の薄明るい空から降りる甘い香りに、この、命から切り離された二人は何を見たのだろう。

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