羽根のように軽い足跡が、少年の意識をゆっくりと浮上させた。
目を開ければ、少し古いテーブルの木目と、その上に置かれた植物図鑑が見えた。
そして、その何者かは、彼が読みかけたままにしていた図鑑と共に、いた。
彼の知らない存在、彼の見たことのない存在、あまりにも小さな彼の「未知」は、本の上を踊るように歩く。
絵の上でその足は止まり、大きくかがんだり首を傾げたり、そうしたことを繰り返しながら、満足した頃に次の絵へと進む。
見開きの全てを読み終えた何者かは、ぴょんと図鑑から飛び降りて、ページの一枚に両手を伸ばす。
カーテンを開けるように、あるいは布団のシーツをベッドの上へと広げるように、小さな両手は本のページを捲りあげる。
小さな両足は本の右端から左端まで、ページを持ったままコトコトと走る。
これ以上引っ張れないというくらい端まで来たところで、その「未知」はくるりと向きを変え、その両手はページを名残惜しそうに放す。
スキップするように本の中央まで戻り、また紙面の上へと上がる。視界に飛び込んできた新しい文字、新しい絵に、感嘆の息が零れる。
風が吹いた。「未知」は振り返った。目が合った。幼い目がぱちぱちと瞬きをした。花を咲かせるように、笑った。
雲間から太陽の光が眩しく差し込み、窓をすり抜けて本を、その傍へと立つ少女を照らす。
よく晴れた日の空を映したような、野原を駆ける風を可視化したような、美しい川の流れから零れた水のような、
……そうしたあらゆる青を宿した髪が、真綿のようにふわふわと、彼女の微笑みのすぐ傍でなびいている。
同じ青を宿した目は、少年の目を覗き込むように大きく見開かれ、
「そこ」に自分の青が映っていることを認めるや否や、その事実を喜ぶようにすっと細められる。
「あら、同じ色」
少年は体を起こすことさえ忘れて、机に伏した体制のまま、人間の少女の姿をしたその「未知」の青を、あまりにも美しい青を、見ていた。
ああ、これが自分と「同じ色」だなんて在り得ないことだ、と彼は思った。
けれどもし、もし本当に「同じ色」であったならどんなにか幸せであっただろうと、そんな風にも思われてしまった。