雨でも晴れる

「わたしが貴方を好きだと思う気持ちは、明日が晴れであることを希う気持ちに少し似ています」

不思議なことを言い出した彼の目は、楽しそうに煌めいていたので、私はティーカップを一度テーブルへと戻した。
見ているこちらが不安になってしまいそうな程に白いカップの眩しさは、彼に少し似ている気もした。

「今日はとても、不思議なことを言うんですね」

そう返せば、煌めいていた二つの太陽がすっと細められる。反射的に私も目を細める。真似をするためではなく、眩しさのために、細める。
こんなに眩しいものを持っている彼は、その瞳のうちに何よりも明るい太陽を飼っている彼は、
けれども天から降り注ぐ日差しのことも大事に思っているようで、まだもう一つ、太陽を望むという。

私は、明日が雨でも構わないと思う。雨音も湿った風も私にとっては好ましいものであったし、何より天へとその輝きを望まずとも、私の太陽はすぐ傍にあったからだ。
太陽を3つ望むのは、随分とおこがましいことであるように思われてしまったのだ。
強欲だと自覚している私のらしくない遠慮を、彼に開示することがあったなら、きっと優しく笑われてしまうのだろう。

「けれども貴方はきっと、明日の雨を許すように、わたしを好きだと思ってくださっているのでしょうね」

「……確かに私、雨は好きですよ。でも貴方が言いたいのはきっと、そういうことじゃないんですよね。理解が追い付かなくて、ごめんなさい」

らしくない遠慮、を隠して、私の嗜好だけを開示すれば、それでも彼はやはり優しく笑うのだ。

どうやら彼は本当に心から、明日が晴れであればいいと思っているようであった。
私は晴れであったなら嬉しいと思ったけれど、雨であったとしてもこの気持ちは変わらないのだから、構わないと思っていた。

「貴方のことが好きです」

「……私も、貴方のことが好きです」

こういう感情の意味を、愛というものの本質を、理解しかねている私に、彼はこうして時折、謎かけのようなたとえ話をする。
音にすれば同じ「好き」である。その音が誰かと交わることはこの上ない幸福である。それは私にだって分かっている。私は彼のことが好きである。
けれども聡明で博識な彼の耳には、私の音は随分と拙く、至らないもののように聞こえるらしい。
だからこうして、時折、二人の音を紐解く作業を差し出してくれる。私はその作業を卒なくこなせることもあるし、今日のように分かりかねることもある。
もどかしいと思われても仕方のない、遅すぎる歩みを、それでも彼は責めないので、私は今日も、彼への音を諦めきれない。

明日の晴れを乞うように、彼は私を好きだと言う。明日の雨を許すように、私は彼を好きだと言う。

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