10/24、向日葵さん

はじめまして、向日葵さん。管理人の葉月と申します。
この度はこのような辺境の地に遊びに来ていただけただけでなく、ご感想をお送りくださり、本当にありがとうございました。

マーキュリーロードを読んでくださったということで、まずはあの長い(あまりにも長い!)物語を読了されたことに対する感謝を申し上げます。
ミヅキの歪みに付き合ってくださり、ありがとうございました。

夢小説サイトと名乗っているからには、おそらく向日葵さんが書いておられたような【皆から愛されていて幸せになる】というものが正しい形としてあるべきなのだと思います。
その「皆からの愛」には夢主の強烈な個性や夢主の主張などはあまり必要ではなく、
むしろ「愛されている」夢主を「読んでくださる方」と同一視しやすくするために、そうした個性は隠した方がいいのだということも、心得ています。

何本か、そうした正統派の夢小説を書こうと試みたこともありました。
ただ、私の執筆の癖として、語り手である主人公(夢主)の形が定まらないままに書き続けるということが非常に困難であるために、
このような、夢小説界隈ではおそらく異質な形をほとんどの連載にて取らせていただき、その状態がもう……数年間、ずっと続いているという有様です。

そんな風に「これは……私の思っている夢小説とかなり違うぞ?」と違和感を覚えられてしまう連載が多すぎる当サイトではありますが、
その中でも、向日葵さんがお読みくださったマーキュリーロードは群を抜いて異質な物語です。
オリジナルキャラクターとしての傾向が強い女性主人公たち、彼女等はそれぞれ異なる歪みを持ち、それぞれの困った個性を遺憾なく奮いながらも、
最終的にはその歪みを何らかの形で解決ないし昇華させ、その果てに正しく想い合える相手を見つける……というのが、当サイトによくある物語の形でした。

けれどもこのマーキュリーロードにおいては、彼女の歪みが解決されないまま、何か別の尊いものに昇華することもないまま、ただ静かな諦めだけを経るのみとなっています。
あれだけの奇行を働かせ、あれだけの悪を振るい、あれだけ多くの人を巻き込んでおきながら、
結局のところ、アローラの旅は彼女の何をもよい方向に変えることができないまま、「生きるって悲しいこと」という真理を見つけて納得するしかない……という、有様なのです。
けれどもこの「何事をも解決できていない感覚」というのは、夢と希望溢れるポケモンの世界ではなく、むしろ私達の生きる現代において親和性の高いものであり、
有り体に言ってしまえば「このようなことは、世の中に山ほどある」のだと思います。
そのような時に「何も解決できないことは異常なことではない」「その果てに悲しい真理しかなかったとしても、人は誰かと共に在ることができる」……というように、
読んでくださった方の人生観にちょっとだけ、ほんのちょっとだけ「優しいエッセンス」を添えられたらいいなという、そうした思いであのような結末に持っていきました。

【その歪みを抱えながら、彼と共に生きていく】
彼女のあの歪みを共有できる誰がいたこと、あの歪みごと愛してくれる存在が近くにいたと気付けたこと。
それらはきっと、彼女の求めた「主人公」らしくはない、些末な祝福に過ぎず、
それにより得た「幸せ」というのは、あの輝かしい土地であるアローラにおいては、取るに足らない、つまらないものでしかないのでしょう。
彼女は主人公になることができなかったし、揺るぎない価値としての「幸せ」を得ることも叶いませんでした。
それでも隣には、彼女を愛する誰かが必ずいてくれます。
「きっとそれでいいのだろう」と、ほんの僅かな希望を彼等の未来に見出してくださったのであれば、これ以上の喜びはございません。

改めまして、マーキュリーロードのご読了ならびにご感想、本当にありがとうございました。
丁寧に読んでくださり、また色んなことを考えてくださった向日葵さんとこうしてお話ができたこと、書き手として嬉しく、誇りに思います。

この連載は……大袈裟に思われてしまうかもしれませんが、当時の私が魂を削るようにして書いてしまったものであり、
沢山ある当サイトの他の連載には、マーキュリーロードに匹敵するだけの魂の重く暗い感じというのはおそらく、ありません(それでもまあ、そこそこに重たいのですが)
そういう訳で、「夢小説」というジャンルとしても、また「雨袱紗」というサイトの中においても、マーキュリーロードは異質な物語でしたが、
ポケットモンスターの世界に思いを馳せる方法の一つとして、あるいは日常生活における息抜きとして、また遊びにいらしてくださったならとても、嬉しいです。
またのお越しをお待ちしております。

© 2024 雨袱紗