W、ブラックナイトと剣と盾

ダンデさんはスタジアムの中央で腕を組み、主人公が歩いてくるのを待っていました。
閉じていた目がカッと見開かれ、にやりと笑いながらこちらに視線を向けてくれました。
このダンデさんがバトル前に話してくださる言葉、彼の人間性をあまりにも眩しく表していて大好きなので、皆さんも今一度噛み締めていただきたい。

「コートの張りつめた空気。それとは真逆の観客の熱狂……。どちらも最高じゃないか!
いいかい? 彼等観客は、どちらかが負けることを願う残酷な人々でもある!
そんな怖さを跳ねのけ、ポケモントレーナーとしての全てを、チームの全てを出し切って、勝利をもぎ取るのが、オレは好きで好きでたまらない!
オレの最高のパートナー達もボールの中でウズウズしている!
さあ、チャンピオンタイムだ! ガラル地方チャンピオンダンデと、パートナーリザードン達が、これまでに得た経験、知識で、キミ達の全てを打ち砕くぜ!」

応援してくださる観客の皆様を【残酷】と言ってのける大胆さ、それを【怖さ】だと認められる勇敢さ、
勝利を【もぎ取る】に込められた力強さ、【好きで好きでたまらない】と子供らしい心地で堂々と宣言してみせる純粋さ……。
ものすごく考えられた台詞だと感じました。彼という人間を表現するための全てが此処に凝縮されています。
そしてその「彼という人間性」を、ソニアさんとかホップさんとかではなく、他ならぬ彼自身によって紡がれているというのがまた良すぎるのです。
彼は、ガラルに住む人の残忍性を理解した上で、それでも戦わざるを得ない自身のことも理解しているからこそ、
「勝利をもぎ取るのが好きで好きでたまらない」のだと確信できているのだと思います。

これは……もう、ダンデさんの勝利でいい。
バトルとかそういうこと以前にもう人間性という面においてまだ主人公じゃ敵わない。敵いようがない。
まだ、まだダンデさんの時代であるべきだ。
本気で、そう思いました。

けれども時代は巡ります。そしてその時代の転換点に主人公は立ってしまっているのです。
ダンデさんの時代から、主人公の時代へ移りゆくための戦い、それはこなさなければならないものであり、主人公は「勝たなければいけない」のです。
その前座として主人公に与えられる「特別性」。唯一性でも、運命性でも良いのですが、とにかく主人公がこの人を超えるにはそうした「何か」が必要です。
……その「何か」の準備が整ったと言わんばかりに、やって来ました、ローズさんが!

「ちょっと待って!?」「おい、モニターを見ろよ!」「なんだ、あれ……?」とざわめく観客の声に二人がモニターを見遣ると、
そこにはいつもの笑顔で微笑みかける黒幕の姿があり、ノリノリで演説を始めてしまいます。

「ハロー! ダンデくんにナユくん。ガラルの未来を守るため、ブラックナイトを始めちゃうよ! ただ、ブラックナイトのエネルギーが溢れ出して危ないんだよね……!」
(スタジアムの中央からエネルギーの柱が勢いよく噴き出す。他のスタジアムでもエネルギーの爆発が起きているようで、モニターにその様子が映し出される)
「ダンデくんが話を聞いていたらこんなことにはならなかったのにね!」

ブラックナイト。……ブラックナイト?
へあっ!? あれって人工的に起こせるものだったんですか? どこぞの3000年前の毒の花みたいに!?
何が何だかよく分かりませんが、ようやくローズさんが危ない動きをしてくださったのだということだけは理解しました。待っていてくださいローズさん、今行きますよ!

主人公とダンデさんは、エネルギーの柱から逃れるようにしてコートから通路の方へと走ります。
そこへ駆けつけたホップが「何が起こったんだ」と尋ねますが、ダンデさんにも何が何やら分からない、といった様子でした。
あ、よかった。誰もこの状況を理解していないのですね。私の理解力に問題があるのかと思って少し不安になっていたところだったのですよ。

「さっぱり分からない! 分からないが昨日の話……1000年先の問題を解決するため動いたのか!?
とにかくオレが……チャンピオンのオレが行く! リーグ委員長の意図をきちんと理解しなかったオレに責任がある! だからオレが責任を取る!
オレに任せるんだ。今からチャンピオンタイムだぜ!」

(走り去っていくダンデに対して、ホップが)
「アニキ! 方向音痴なのにナックルシティに行けるのか……」

方向音痴、そうでした! これはいけない、いつまで経ってもチャンピオンタイムが始まらない問題が起こりそうな予感がしますね!
「アニキの力になりたいけれどナユにも勝てなかったようなオレには……(要約)」ということを呟くホップが、ブラックナイトのことについて考え始めます。

「ローズ委員長が言っていたブラックナイトって、大昔の空が暗くなったことだろ? 始めるって何だ? そもそも、何処で聞いたっけ?」

▼エンジンシティ or 英雄像(どちらを選んでも同じかな)
「エンジンシティの英雄像! ソニアがそんなこと言ってたっけ。えーっと、英雄は二人で、剣と盾のポケモンと共にブラックナイトを鎮めたんだ。
よし! 眠りについただろう2匹のポケモンを探すぞ! ナユ、何処だ?」

▼まどろみの森、ハロンタウン、キルクスタウン → まどろみの森を選択
「流石! ナユ、そうだよ、まどろみの森だよ! オマエが戦ったのはポケモンの幻……あいつが眠りについたポケモンだぞ!
よし! まどろみの森には何かあるかもしれないぞ!」

という流れで、なんとハロンタウンに戻ることになりました。ただいま! 家の前にいた2匹のスボミーは元気にしているでしょうか。
主人公の自宅がある町、そのすぐ傍にある森にて冒険の再序盤に付与された「伝説ポケモンとの邂逅」という「運命性」が、此処にきてようやく活きてきました。

これまでは大人に守られる側、導かれる側であった子供達ですが、伝説ポケモンと出会えたのは子供であるホップとナユのみです。
ソニアさんと一緒にガラルの伝説について考えてきた知識と経験から、二人は自らの為すべきこと、二人だからこそ為せることを思い付き、
大人達の庇護と先導の枠から脱して、ガラルの危機を救うため、剣と盾のポケモンの真実に辿り着くために動き出そうとしている……。
さあ、最高の舞台が整いました。これはもう進むしかないでしょう!

ハロンタウンからまどろみの森に続く柵のところで、まどろみの森を調査していたと思しきソニアさんと再会したのですが、彼女はブラックナイトの騒動を知らなかったようで、
ナユの家から駆け付けてくれたママが「ローズ委員長が大変なことをしでかしたの(要約)」とソニアさんに説明してくださいました。

「ブラックナイトは大昔、ガラル地方を滅ぼしかけた黒い渦の名前……。えっ、じゃあナユは何しに来たの?」
▼ブラックナイトを止める or 剣のポケモンを探す → 剣のポケモンを探す、を選択
「確かに伝説が真実なら、剣や盾のポケモンがブラックナイトを治めてくれる……。渦を振り払う力となる!」

主人公達の行動を肯定してくれたソニアさんから「元気のかたまり」を受け取り、二人はまどろみの森へと突っ込んでいきます。
それを見送りつつ、手を振った後でママが口にした言葉が印象的でした。

「できることをすればいいじゃない。だって貴方はもう立派なポケモントレーナーなんだから!」

これ、いい言葉であることは勿論なのですが、冒険に夢中になってろくに帰宅などしていなかった主人公を「立派」だと断言できる点がなかなかに面白いですね。
いや、「何を適当なことを言っているんだ」とかそういうことではなくてね、ママは本当に「見ていた」のですよね。
主人公がジムバッジを1つずつ集めていく様も、多くのチャレンジャーがリタイアしていく中で心を折ることなく全てのジムリーダーに勝利してみせたことも、
昨日のセミファイナルトーナメントでホップと熱いバトルを繰り広げたことも、きっとママは家のテレビで観ていたのです。
ずっと、ずっと、主人公が「立派」になっていく様を、見守ってくださっていたのだと思います。

だからこそ、上の発言には重みがあります。ママは心から主人公の成長を喜び、主人公とポケモン達の力を信頼しているのですよね。
その信頼は、中継の届かない、見守ることの叶わない森、しかも「誰も入ってはいけない」とまで言われる危険な場所へと駆けていく主人公を、
笑顔で見送り「できることをすればいい」という言葉を掛けられる程度には強固なものだったのでしょう。
ガラル地方ではホップとダンデさん、マリィとネズさん、ソニアさんとマグノリア博士、など、家族関係の絆が心地よい濃さで描写されていましたが、
主人公とママもその例に漏れず、確かな絆で結ばれていることが分かり、「ローズさんと戦える!」という歓喜に満ちた確信を忘れるレベルで嬉しかったことを覚えています。

ソニアさんは調べものをしてから追いかけてきてくださるとのことなので、先ずはホップと二人で奥へと向かいましょう。
マタドガス(ガラルのすがた)が草むらからにゅっと出てくることにびっくりしつつ、自転車で川を渡った先に「いのちのたま」があったことを喜びつつ、
ムンナに逃げられ悔しい思いをしつつ、やっぱりこの森の雰囲気大好きだなあと噛み締めつつ……さて、やって来ました。

ホップと一旦立ち止まり、周囲を見渡していると、石橋の向こうから非常に静かな足音で、ザシアンとザマゼンタが歩いてきました。
咆哮の後にふっと消えてしまった2匹に唖然としていると、ソニアさんが駆け付けてきてくれました。合流です。
彼女は、先程の剣と盾のポケモンが「ザシアン」と「ザマゼンタ」であること、
その2匹は「遥か彼方……まどろみの森の向こうで生まれたとされるポケモン」だということを説明してくれます。
調査をしてくれたソニアにお礼を告げ、更に奥へと進むと、ありました。剣と盾です。

「剣と盾のポケモンは少しでも故郷に近いまどろみの森で眠っているのかも、それこそ誰も入ってこない静かな森の奥で」とソニアさんが言及していた通り、
そのポケモン達を象徴する「剣」と「盾」もまた、まどろみの森の最奥部にぽつんと置かれていました。
濃い霧がぱっと晴れ、木漏れ日がキラキラと瞬く空間。祭壇のような場所の向こう側には、虹色の湖面が静かに凪いでいます。
主人公は迷うことなく「朽ちた剣」を手に取り、ホップはそれに続く形で「朽ちた盾」を手にしました。

「……剣と盾のポケモンは眠っているんだな。よし! アニキを助けるのはやっぱりオレ達だぞ!!」

まどろみの森で「朽ちた剣」「朽ちた盾」を手に入れたはいいものの、それらはかなりボロボロであり、ホップ曰く「お守りにはなるか!」というくらいの認識であるようでした。
てっきり此処で伝説のポケモンを仲間にするのかと思っていたのですが、彼等が本気を出して登場するのはもう少し後の機会となりそうです。

「お守り」をお借りした後、すぐにアーマーガアの空飛ぶタクシーを利用してナックルシティに下ろしてもらうと、キバナさんがスタジアムの前で出迎えてくださいました。
「大変なことになったな!」といつもの笑顔で告げるキバナさんですが、その後で、物凄く重要なことを口にしてくださいました。

「……それにしても、ポケモンから溢れるエネルギーでガラルを救おうとするなんて、ローズ委員長、ぶっ飛び過ぎてて理解できないぜ」

……つまり、ローズさんの目的は「ポケモン(ブラックナイト)から溢れるエネルギーでガラルを救う」ことだったのですね。ようやく分かりました。
ただ、ガラルのエネルギーは「1000年先にはなくなる」ものであるとローズさんはローズタワーで口にしていましたから、
エネルギー問題は現在のガラルを困らせるものではなく、あくまで1000年先の問題でしかないのですよね。

けれども今、ポケモン(ブラックナイト)を活性化させなければならなかった。……と、彼は考えていた。
「今でなければならなかった」というその理由はやはりはっきりしませんが、既に目覚めてしまったものが暴走しているというのであれば、鎮めなければいけないのでしょうね。
そろそろ、彼と戦えるかな……。

2019.12.12

 → X

© 2024 雨袱紗