V、ファイナルトーナメント!

ファイナルトーナメントは、7人のジムリーダーと主人公による勝ち抜き戦で行われるようです。
あれっ、7人? 誰がいないのでしょう。ポプラさんか、それともネズさんか……。
しかし控室にはネズさんの姿がしっかりとありましたので、ポプラさんが欠席ということですね。
ビートと組んで何かしている最中でトーナメントどころではないのか、それともただ単に辞退したのか……。

スタジアムに入場した8人の前に、司会としてダンデさんが姿を現します。
ローズさんに代わって急遽、彼が司会を務めることになったらしいのですが、もうこの時点でトーナメントの最中に何かが起こる気配が物凄くいたします。

「ガラルのポケモントレーナーをより高みに連れて行くために! 何よりオレのために、最強のチャレンジャーを決めてくれ!
さあ! 今ここに宣言する。ファイナルトーナメント、開催だ!」

とうとう始まりました。ファイナルトーナメント!
ですが勝ち抜き戦ということは、ジムリーダー全員と戦える訳ではないのですよね、誰と戦えるのかな、是非ともサイトウさんのネギガナイトに再戦を申し込みた

「待ちなよ!」

!!

わあああぁ! 君! 君はまさか! まさかまさかのまさかだ! 此処で! 此処で会えるなんて!
でもそのユニフォームってあれですよね、アラベスクスタジアムのジムトレーナーさんが来ていらっしゃったピンクのやつですよね。どうしたビート! 何があった!?
私はてっきり、最後の最後でローズさんと共に再び主人公の前へ立ちはだかるタイプの子だと思っていたのですよ。そういう展開を薄っすらと期待していたのですよ。
だのに! そんな妄想を吹き飛ばすくらいの最高のタイミングで登場なさるなんて! ビート……やるじゃねえか……。最高だよ、君こそがNo.1だ!

対戦相手側の入り口から堂々と歩いてきたビートがスタジアムの中央、主人公の前で立ち止まり、観客の皆様に演説めいたことを始めます。

「皆様、よろしいでしょうか。ぼくを覚えているでしょうか。ジムチャレンジ、無念のリタイアとなったビートです!」
(観客席から)「ビートだ! ローズ委員長が推薦したジムチャレンジャーだ!」
「ナユ選手とは浅からぬ因縁があります。ルール違反は承知です。その上でお願いします。選手生命を賭けて勝負をさせてください! 負けたらトレーナー引退です!」

(おそらくリーグスタッフによる実況)
「なんというハプニング! ジムチャレンジャーだったビート選手の乱入だあ!
ビート選手について審議しております。スタジアムの皆様、テレビの前の皆様、しばらくお待ちください!」

(ビートにカメラが切り替わる、目をぐいと細めてナユを見据えるビート)
「ムチャクチャなのはぼく自身がよく分かっているよ。でも言わないわけには……動かないわけにはいかないんだ!」

(ナユの背中を手前に映し、奥でビートが拳を握り締める)
「あなたのせいでメチャクチャなんだ!」

!?

「オリーヴさんに頼まれてローズ委員長のためにねがいぼしを集めていたのに、委員長には見捨てられるし、
訳の分からないバアさんに、フェアリータイプについて朝晩叩き込まれるし!
分かりますか? ピンク色に囲まれて、フェアリータイプのポケモンでクイズと勝負の毎日! アアッ! こんなに暑苦しく思いを語るなんて、ぼくのキャラじゃないのに!」

(ここで実況が)
「なんと! チャンピオンが乱入を認めました! ガラルのトレーナーを強くしたいチャンピオンの愛でしょうか、それともナユ選手への試練でしょうか」

えっちょっダンデさん! ダンデさん! いいんですか!? え、本当に? わ、わわ、ありがとうございます!

(正面カメラでのビート、目を長く閉じてからゆっくりと開く)
「ぼくのハートは砕けてなんかいないんだ!」

と、いつものように双方、距離を取ってからバトルが始まります。
BGMはホップやマリィの時とは異なり、あの頃のビート戦の曲のままだったのですが、
あと肩書きが「ジムリーダーのビート」になっていて、もうポプラさんが引導を渡していることが明らかとなっていますが、
そんなことよりも私が見るべきはその瞳だ、そこだ、そこを見るんだ。

潰れた菫の色、ハイライトがなかった濃い紫の目がゆっくりと1回、瞬きをしました。
1回、ただその1回で目に光がぱっと灯るんです。先程まで潰れていたとは思えない程に、明るく小さく健気な菫が咲くんです。
あんまりじゃないですか。この演出、あんまりじゃないですか。
Switchのソフトではあらゆるデザインやモーションなどに心臓を持っていかれていましたが、一番を決めるならもう確実に此処です。美しいんだ。あまりにも美しいんだ。

そして君も、君もホップやソニアさんと同じように、決して心を折ることなく真っ直ぐに成長していくんですね。
ガラルの未来はそうした、真っ直ぐで健気で純朴な子供や若者によって切り拓かれていくのですね。素敵だなあ。美しいなあ。
……皆が、周りの皆がこんなにも眩しく励んでいるというのに、主人公が心を折ったり迷ったりしている場合ではもう、ありませんよね。
よし、本気で相手をして差し上げましょう!

ボールの投げ方まで序盤の彼とは異なっていることに驚愕しつつ、ブリムオンとビートの配色が完全に一致していることに感動しつつ、1匹ずつ倒していきました。
手持ちはクチート、サーナイト、ギャロップ(ガラルのすがた)、そしてキョダイマックスするブリムオンです。

「無理を通したんです。ぼく達は勝つしかない!」(バトル開始時)
「フンッ! その余裕……勝ったと思ってるんでしょうね」(ラスト1匹)
「大いなるピンクを見せましょう。ブリムオン、キョダイマックスです」(ダイマックス時)
「終わった……! ですが皆様にフェアリーの良さは伝えましたよ」(勝利時)

敗北こそしましたが、その表情は序盤の彼からは考えられない程に穏やかなものでした。
ポプラさんと過ごした修行の日々が、彼にとてもいい影響を与えたのでしょうね。
そんな彼に、スタジアムから嬉しい言葉が飛んできます。
「おいビート選手! 悪くない試合だったぞ!」「引退したらもう一度デビューしろ!」などの声を受けて、ビートが再び潰れた菫の目に戻り、頭を右手で押さえます。

「なんてことだ……。あなたにリベンジできればオーケー! 負けても引退してバアさんから逃げるはずだったのに」

(ナユの方を睨み付けるようにして)
「やっぱりあなたは迷惑だ! 皆に認められたらフェアリータイプのジムリーダーを続けないといけない!」
(最後に得意気な表情になって)
「まあ、ぼくの才能でしたらポプラさんなんか、あっ! という間に超えますけどね」

(実況)
「スタジアムは二人の若者を称える声でいっぱいだ! さてナユ選手、予想外の試合のダメージを回復するため、控室に……」

というところでビートのターンが終了した訳です。ああ……楽しかった……。

乱入という最高に燃え上がるシチュエーションとか、「あなたのせいでメチャクチャなんだ!」とか、
ずっと潰れたようになっていた濃い菫がぱっと花開いたこととか、それでも「やっぱりあなたは迷惑だ!」と言われてしまうところとか、
……色々と、感動するところは本当に色々とありました。

真っ直ぐに成長していく若者が多い中、ビート一人がガラルの影を背負うことになるのではと予想していましたが全くそんなことはなく、
むしろ序盤が影に溢れすぎていたがために、誰よりも目覚ましい成長と変化を遂げた人物として私の目に眩しく焼き付くこととなってしまいました。
乱入してくれてありがとう。戦ってくれてありがとう。君の目が輝くところを特等席で見られて、私は最高に幸せでした。

さて、ビートの乱入により開始が遅れましたが、これからがいよいよファイナルトーナメントの本番です。
1戦目はルリナさんがお相手です。
戦闘中の台詞などは大体がジム戦の時と同じなので割愛させていただきますが、
エースのカジリガメがダイマックスではなく、キョダイマックスする特別なカジリガメになっていたのが印象的でした。
ただ、キョダイマックスする特別なポケモンは「ダイマックスすることはできない」はずです。つまりこのカジリガメはジム戦時の子とは別の個体ということですね。
……少々、物寂しさを覚えましたが、よくよく考えればジムチャレンジの際の実力がそのまま彼等の本気であったならとんでもないことが起きてしまいますので、
ジムチャレンジとしてチャレンジャーを迎え撃つポケモンと、本気で戦うパーティが異なるのは当然のことでしたね。
レベル20前後のヤローさんのパーティとレベル50手前のキバナさんのパーティが戦うなんて、もう虐めもいいところですもの……。

ルリナさんに勝利後、トーナメント表がチラっと映りましたが、2回戦はサイトウさんが相手になるようですね。やったぁ! ネギの姉貴で今度こそネギガナイトに勝つぞ!
そして向こう側のブロックは……きっとキバナさんが勝ち抜くでしょうね。
本音を言えばネズさんに会いたいところではあるのですが、まさかダンデさんのライバルである彼が2回戦で敗北するなどということはない、はずです。

サイトウさんに再び会えた喜びに心を躍らせつつ、芝生のスタジアムにおいても裸足で歩いてくるその鍛えられた肉体に惚れ惚れしつつ、
この日のために強さを磨いてきたネギの姉貴でネギガナイトにリベンジを果たし、最後のカイリキーまで力業で押し切りました。
「裸足のわたしが思わず裸足で逃げるような強さです!」という、勝利時の台詞には思わず笑ってしまいました。サイトウさん、楽しいことも仰るのですね、素敵だ……。

そしてファイナルトーナメント決勝戦に入る前に、控室でネズさんとマリィに会うことができます。
ネズさん、ダイマックスを使用せずキバナさんとかなりの接戦を記録したようですが、惜敗したようで、マリィもその力を認めて称賛しつつも「勝ってほしかった」と口にします。
スタジアムでは多くの観客様が我々を応援してくれているというのがとてもよく伝わってきて、あれはあれで高揚するのですが、
こうして控室という静かな閉じた場所で、二人に温かいエールを貰う時間があるというのも、勇気付けられますね。

そんな二人の応援を受けて、キバナさんとの戦闘と相成ります。
今回のキバナさんはシングルバトルでの対戦で、しかも砂嵐に限らずいろんな天候に変えてきます。その変化を楽しみつつ、戦っていきましょう。

「日照りだぜ! まさに燃える太陽!」(コータスの特性「日照り」発動時)
「雨だぜ! 火照った体に冷たい雨が染みるよなあ!」(ヌメルゴンの技「あまごい」発動時)
「吹けよ、風! 呼べよ、砂嵐!」(フライゴンの技「すなあらし」発動時)
「決勝で負けて悔しすぎるが、記念に自撮りはしておくか……」(勝利時)

ジュラルドンを倒し、勝利したナユにキバナさん、今度は純粋に称賛の言葉だけを掛けてくださいます。
「勢いそのままにダンデをぶっ飛ばせ!」と、応援まで頂戴してしまいます。
「オレ様こそがダンデを倒すのだ」という意気込みで10年近く戦ってきたはずなのに、そんな本気の彼に勝利してしまった主人公を此処まで真っ直ぐに祝福できている……。
本当にガラルの住民は、心が澄み渡り過ぎていますね。

「輝く背番号109、勝ったのはナユ選手。推薦状を貰ったポケモントレーナーが、推薦状を貰ったチャンピオンに挑みます!」

最高に盛り上がる実況を聞きながら、一度控室に戻ると、ホップとエースバーンが祝福の言葉を告げにきてくださいました。
「アニキかナユかどっちを応援しようかな」と一瞬迷うホップですが、エースバーンの声に振り向いてにこっと笑いつつ、
「やっぱナユか! だよな! ハロンタウンで一緒に旅立ったもんな!」と、あまりにも呆気なくこちらを応援する意志を固めてしまわれました。

「アニキに勝てよ! オマエなら無敵のチャンピオンを超えられる」

笑顔で力強くそう告げて控室を出ていくホップとエースバーンの後ろ姿を、主人公はどのような気持ちで見ていたのでしょう。
私はプレイヤーの身ですので、ナユの心理を推測することしかできません。プレイヤーの数だけ主人公がいて、プレイヤーの数だけ心理の変遷があるのだと思っています。
ただ、この瞬間、多くのプレイヤーが「勝たなければいけない」「勝ちたい」と、心からそう思ったのではないでしょうか。
私は、そうでした。何が何でも勝たなければならないと、勝ってみせると、switchを握り締めつつ本当にそう思っていました。

まるで私が、私こそが、ナユになったみたいでした。

2019.12.10

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