Afterword:700音に終わる夢

 7/13~8/13の1か月間、「本日のセ」シリーズとして毎日更新してきたセイボリーSS、Twitterより引越しが完了いたしました。ただいま!
 SS文庫メーカーを利用した投稿の場合、1ページ当たりの字数の最大は710文字。ありったけ詰め込んでもだいたい700文字を超えることなく終わったので、タイトルは「700音に終わる夢」とさせていただきました。リアルタイムでお付き合いくださった方も、今回サイトを訪れて読んでくださった方も、本当に、ありがとうございました。
 以下、それぞれのSSについて簡単に裏話やあとがきを書かせていただいています。ネタバレを警告する程のものではないので、閲覧はお気軽に、どうぞ。

  • 7/13:ひらく花、とける水 → 8/5:おさない審判 & おさない地獄

 これのみ「/600のアクアティック・メヌエット」後の二人を意識して書いてしまいました。でも今読み返すとこれ単体でもどうにか成り立ちそうですね。この語り手である一般男性は善良なガラル市民であり、後にユウリに殴られることになる彼とは何の関係もございません。
 その「彼」、実はユウリを口説こうとしていました。相手は「ひらく花、とける水」における、セイボリーの隣で実に楽しそうにバトルをするユウリを見ていて、セイボリーに嫉妬したが故に彼を侮蔑する言葉を容赦なく捲し立てています。自分の価値を持ち上げるために他者を貶めるとかいう、清い魂を持つ(とユウリは頑なに信じている)セイボリーが絶対に取らない方法でユウリの心を手に入れようとした。そしてその「貶める相手」がよりにもよってセイボリーだった。これらの理由から、ユウリは相手を「殴って黙らせる」という凶行に出てしまいました。合理を重んじる彼女に手を上げさせる理由付けとして、やはり此処まで揃わないと不十分だろうなと感じた次第です。

  • 7/13:Midnight morning glory → 8/13:Dawn morning glory

 テレキネシスで花を強引に開かせる話。命の巡りと時の流れを飛び越える「魔法」の描写により彼の神秘性を書きたかった、というのと、その神秘性が時に間違った形で振るわれることがある、というのを最序盤で強調したかったので「本日のセ」シリーズ開始初日に持ってきました。
 そして8/13、「本日のセ」シリーズ最終日、再び水色の朝顔の登場です。セイボリーに「連絡の理由付けなんてこういう悪質なくらいが丁度いい」と知らしめることがユウリにとっての真の目的でしたが、私個人としては、命の巡りの再演、あとユウリに「君と一緒にいると花がとても綺麗なんだ」と明言させる、あとセイボリーに彼女の二億秒後を想起させる……という三つの文章化を目標としてねじ込んだので、この終わり方としては概ね満足しています。

  • 7/14:手折られるなら本望だ → 7/16:BPM176の証明 → 7/22:クスノキの煙の向こう、樟脳の傷を触れて埋めて

 一話目、セイボリーがユウリを抱き締める話です。/600でもユウリの手をあまりにも繊細な手つきで握る描写は書いてきましたが、「テレキネシスありの生活であらゆるものを触れずに動かしてきた結果、実際に触れるときの力加減がよく分かっていない」という裏設定について、物語の中に反映したことはなかったような気がしたのでこちらにて実現させました。次の話でも同じ流れを汲んでいますが、愛を抱き込むことに慣れつつある彼と調子に乗るユウリというちょっと珍しい形になりました。楽しかった!
 三話目のタイトルにある「樟脳」はこのSSの題材となったセルロイドの主成分です。クスノキから取れるもの、のようですね。終盤、セイボリーの「もっと強くしても壊れたりしない」ということをやや強引に教えたのが、前述の、ユウリを抱き締める際の遣り取りであったりします。

  • 7/14:あなたは悪魔か → 7/23:悪魔、再来。 → 7/16:果敢無くない恐怖 & この夢は貸しにしよう → 7/18:VSアルコール・優勢 & 劣勢 → 7/24:火照る白砂 → 7/25:愉快と優雅を渡るジョーカー & 水色に紅茶を散らす午後10時 → 7/26:水色まなこのてるてる → 7/31:喉へ伸びる袖、歌を読み解く指

 こちらの700音シリーズにあって/600連載にないもの、それはなんてことのない日常の彩り、島の中に散らばる愉快と優雅の有様です。何を訴え合うでもなくただ二人で一緒に楽しいことをする、他愛ない会話をする、というSSを書く機会をこんなにも沢山頂戴できて本当に幸せでした。こういう物語があることも、重要ですよね。

  • 7/17:嵐を追い出す白い指 → 8/1:目蓋の裏の特別・昼 & 目蓋の裏の特別・夜

 短編「ウールー、敗北を喫す」に引き続き、因縁の相手、エアームド先輩との話です。短編では三つ編みをほどかれる程度でしたが今回は本当にバッサリと切られています。
 そして後半では、このエアームド先輩をとうとう手持ちに加えることになりました! 実は7/19にこの因縁の相手を想定した技構成、性格のエアームドをポケモン交換にて頂戴いたしまして……これは是非ともユウリにも捕まえていただかなくてはいけないと思い、盛り込んだ次第です。覚えている技は「エアカッター」「すなあらし」「はがねのつばさ」「どろぼう」で、陽気な性格、悪戯が好きであるようです。完璧じゃねえか! そして「エアカッター」はタマゴ技であるとのことで、わざわざこのポケモンを用意していただいた大事な後輩にはもう……頭が上がりません。本当にありがとう。エアームド、大事にします!
 内容にも拘りました。頭を撫でる、膝に抱き上げ拘束する、歌を歌ってあげる……これらは全て、ユウリの視界が涙、ないし目の腫れにより塞がれている時にしか為されない行為です。こういう時にだけそういうことをする、この微妙な質の悪さを表現できてたいへん満足しております。

  • 7/19:8月32日 → 7/29:他の何色にも、染まるものか

 この「本日のセ」シリーズを1か月で終わらせようかなと考えていた最中に、TwitterのTLにて「ぼくのなつやすみ」の話が出ていたので、初代ぼくのなつやすみのバグにより現れる「8月31日以降も続く夏休み」に着想を得る形で「ヨロイ島への滞在延長」をこの日付で表現することといたしました。お気に入りのタイトルです。
 この二本はどちらも、セイボリーがテレキネシスを「使わずに」ユウリを引き留める、あるいは引き寄せるタイプの話です。彼のテレキネシスはコントロールができるタイプのもの。つまり二本目における「嵐」は意図的に発生させています。不機嫌を知らしめる術を心得ている程度には大人ですが、躊躇わない程度には子供です。一本目の引き留め方はユウリも告げている通り「悪手」ですが、彼女もまた、悪手に白旗を上げる程度には既に絆されています。

  • 7/20:煌めく神秘の色は水 & 物語よこちら、指差す方へ

 道場の床が低くなった畳のようなところ、あの段差に腰かけて本を読むセイボリー……の構図はこのSSより固定化されました。「物語を紙面の檻から吸い上げている」「概念の浮遊話」「浮かれた夢物語」など、彼にやってほしいことを全て詰め込んだ、趣味全開のSSとなりました。前述した「他の何色にも、染まるものか」と「目蓋の裏の特別・夜」の二本においても、セイボリーはこの位置で本を読んでいます。

  • 7/22:牙剥く悲鳴にアンコール → 8/4:有資格者の勝利宣言

 ユウリの少しおかしな献身の話です。「君のためなら大抵のものを差し出せるし、大抵のことができる」という言葉はこのシリーズ内で繰り返し言わせた台詞だったのですが、その「大抵のこと」にはこれくらいまで入ります、というのを示したく、お話の形にさせていただきました。ビードロに指を突き立てて怪我をすること、首を差し出すこと。後者は夢の中の話ですが、どちらも相手がセイボリーであるならば容易にできてしまいます。彼に寄せているのが「恋」ではなく「信仰」であることを踏まえて読むと、まだ、納得がいきやすいかもしれません。

  • 7/27:剣を夢見る盾 → 7/28:盾を夢見る剣

 夢を見ているという意識。これは現実か、それとも夢かと疑う意識。夢かもしれない可能性を弁えつつ、それでも「君」(ソードの場合はクララ、シールドの場合はセイボリー)に会えてよかったと思えるだけの意識。それらをローティーンのユウリにだけ抱かせるのは酷な話ですが、そこまで思い至れないと、夢の中の彼女が本当の意味での平穏を手に入れることは難しいでしょうね。

  • 8/2:酩酊信仰 → 8/6:記憶と思慮の怪盗

 飲酒可能年齢に達しているという想定で、酩酊セイボリーを書かせていただきました。「ワタクシがどうしようもない程にあなたを好きなことをどうかそのまま知らずにいてください」をお話の形に出来て私はたいへん嬉しく思います! 何気に「信仰」のミラーコートまでやってのけているので、彼はもしかしたら酩酊している方が強い可能性さえありますね。
 「わたしがどうしようもない程に貴方を好きなことをどうかそのまま知らずにいてください」は元々、アクロマさんの言葉として用意した台詞だったのですが、アクロマさんの場合は「貴方だけは知らずにいて」という意味、セイボリーの場合は「皆さんはどうか知らずにいて、知っているのはあなただけでいい」という意味になり、真逆の様相を呈します。ちょっと面白い。

  • 8/3:そろえる虚栄(紅茶色より) & そろえる虚栄(水色より)

 コレット様の「恋の良いところは、階段を上る足音だけであの人だって分かることだわ」の名言から着想を得ました。中身はタイトル通りなので割愛しますが、お気に入りのSSです。

  • 8/8:スタジオに照るスマイルフィルム & 笑顔と至福の出力線 → 8/9:ゆめプリント

 8/8にTwitter上で開催されました「セボユウ創作チャレンジ」の企画にタグを付けて提出させていただきました。テーマ「スマイル」ということで、題材には随分と悩んだのですが最終的に写真で落ち着きました。互いの笑顔が最も煌めく瞬間を把握しきっている二人と、それを留め置く媒体となる写真の在り方について、改めて熟考いたしました。「過ぎゆく一瞬を永遠にするための手段」として、これまで文字や絵画を取り上げてきましたが、写真が最も高精度に留め置けるので、やはり便利ですよね。

  • 8/10:私が足枷 & あなたに足枷 → 8/7:旅支度(序) → 8/11:旅支度(破) → 8/12:旅支度(急)
    (参考:7/21:差異を飲む砂、踏む踵 & 7/30:2*10c8/3600/24/365)

 700文字どころじゃなくなった三部作+αの話です。恋人、を否定するところまでは/600と同じですがそこからのセイボリーの行動がより「愉快」かつ「大胆」になっています。繰り返される「二億秒」と、セイボリーが食らいついていくと宣言した「あなたの歩幅」に関してはそれぞれ参考のSSから引っ張って来たものです。
 この「二億秒」ですが、実際に換算すると「6.341……」年、となり、約6年と3か月です。ユウリは14歳、セイボリーは諸説ありますが私は20歳を想定して書いていたので「成る程、二億秒待てばユウリは今の彼に追いつくのか」という認識で即決定と相成りました。
 「急」の最終ページ、「夢物語のひとつに過ぎない」は、数ある「セイボリーと女性主人公」の物語のひとつに過ぎない、という意味と、あとは後述する「本来はなかったはずの邂逅」を夢見た話に過ぎない、という意味と、両方混ぜ込んでいます。
 Twitterに物語を置かせていただくのは初めてのことだったのですが、この「所詮、夢物語ですよ」という認識が毎日の更新の助けになったような気がします。有り体に言えば、まあ、軽い気持ちで書き続けることができた、ということですね。でも書き上がってみれば相応の愛着と共に大事にしたくなるもので……書き手である私も、随分と、ええ、質が悪い!


<全体を通して>
 タイトルにも副題にも、そして最終話「旅支度」のラストにも「夢物語」と強調したのは、そもそも「セイボリーとユウリが一緒にいられること自体が夢のようなもの」だと私が認識しているからです。
 私はSWSH発売当初、ユウリを「ソードの世界線で旅をする主人公」として想定していたのですが、この6月にいきなり現れたセイボリーとかいうとんでもない人物によって、彼女の世界線が、ソードからシールドに引っ張り込まれてしまいました。彼女がセイボリーに惹かれた理由として、どの物語においても「一目惚れ」「信仰」であると設定しているのは、そこに「引力」のようなものを見たかったからです。セイボリーの存在が彼女の生きる世界線さえ変えた、彼の引力は生きる世界さえ踏み越えさせるものだった……と見ると、とても面白くなりました。私が、面白い気持ちになれました。
 ただ、どう足掻いても彼を「兄弟子」として慕うことができるのはシールドの世界線のみ。ソードで彼を兄弟子と慕う方法は今のところありません。そもそもDLCを購入しなければヨロイ島という場所への門扉さえ開かれない訳で……。島での修行、兄弟子たる彼との時間、その全てはもしかしたら、あってもなくても変わらない、夢のようなものであるのかもしれないなあと、少し考えてしまいました。実際、セイボリーがいてもいなくても、本編における主人公たちの「敷かれたレール」が揺らぐことはありませんでしたからね。

 /600も、700音も、そういう意味ではどちらも空虚で、無益で無駄なつまらないもの。チャンピオンになった彼女が見た、些末な、ありふれた夢物語。でも彼女は全力で夢を見ていました。どうか覚めてくれるなと祈りながら見ていました。そんな彼女の「夢の終わり」を、物語を二つ使ってまで書き上げられたこと、本当に喜ばしく思います。いつか覚めてしまうものであったとしても、それでもセイボリーとのパラレルワールド、彼との幸せな夢は彼女にとって最善であり最愛でした。かけがえのない救いでした。
 ……ただ、彼女ならいつか「何を馬鹿げたことを、これが現実だ!」と、あの勢いと全力の気概のままに世界線さえ塗り替えにかかってきそうで、書いている身としては少々恐ろしいところがございます。同時に、合理を重んじてきた彼女のひどく「利己的な」「質の悪い」暴走が花開く瞬間を書ける日がいつか来るかもしれない、と思うと少し、楽しみでもあります。

 途中、不穏なのも書いたり、またしても三部作をやらかしたり、初めてのイラストとかやったりもして、本当に好き勝手に遊んでしまっておりました。お目汚しなものも沢山あったかと思うのですが、見守ってくださった方々には本当に、感謝しかございません。サイトでの1日1セイボリー、/600の頃からお付き合いくださっていた方とはついった上でお話をする機会があり、既にお礼申し上げているのですが、もしかしたら私が知らないだけで、サイト経由でいらしてくださった方、他にもいらっしゃるのかもしれないですね。本当に、有難いことです。

 この数ヶ月、体も心も調子が優れない期間が長く続いておりました。そんな中でセイボリーを書き続けられたこと、二人の夢物語について考え続けられたこと、そしてそれを、Twitterという大海で共有させていただけたこと、これら全て私の救いとなりました。緊張と不安の連続で、まだ1週間も経っていないうちから、やめたい、逃げ出してしまいたい、と思うことも多々あったのですが、1か月、書き尽くした今となっては、やはり飛び出してみてよかったなという気持ちの方が遥かに大きい。不安も緊張も恐怖も後悔も取り返しの付かない誤字も(いや待て誤字はいけないな)、あの場所で書けた二人の夢物語と、それを共有してくださった方とのご縁に比べたら、本当に、取るに足らないものでした。取るに足らないものだった、……と、今なら思えます。
 大袈裟じゃなく、この数か月はセイボリーを書くことで救われてきました。セイボリーがくれたご縁に生かしていただいていました。社会人になり、もうティーンの頃に抱いていたアクロマさんへのあれやこれ……が再発することなど金輪際ないだろうと思っていたのですが、まだ私の中にこれほどの、こう……頭がおかしくなるレベルの情熱が埋もれていたことに気付かされ、少し、愉快な心地にもなりました。楽しかったなあ。

 ままならない状態、ボロボロの体ではありましたが、それでも、この夏の私はきっとどこまでも幸いでした。セイボリーと皆様のおかげで幸いでした。
 改めまして、二人の「夢物語」に最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

 では、また次の物語で会いましょう!

2020/8/16 藤 葉月

I will never give up on writing words, as long as you keep on walking with me.

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