台詞だけ(R・S)

「女性にできないこと、しちゃいけないことって結構あるんだよ。男性に課される制限だって少なくない。陸って基本的に意地悪だから……優しくて従順なだけじゃ、何処にも行けないまま。私はその不自由がとても悔しい」
「陸では死んだ人のこと、とても大事にするんだよ。でも死にそうな人のことは徹底的に隠すの。おかしいでしょう? 海だと全部混ざり合って、綺麗な青の中で廻るのにね」

「もし愛着がなかったなら、全部いっぺんに手放せたろうね。でも少し難しかった。伸ばした髪も、ピンクのワンピースも、一番高いソプラノのパートも、喉仏のない真っ直ぐな首も、ちょっとしかない胸も、好きだったから。そうやって私らしく生きてきたこれまでのこと、一気に切り捨てるだけの度胸はなかったから」
「本当は、覚えておいてもよかったんだ。こんなものを最後に頼むつもりはなかった。でも君が、あんまり上手に褒めるから。私が捨てようとしているもの全部、君が綺麗だって、似合っているって、相応しいって言ってくれるから」

「知らない、覚えてなんかいない、分かりたくないよ。だって、こんなつまらない人間のために顔を歪める不器用な人が、アズール・アーシェングロットであっていいはずがないんだ」

 気を抜くとすぐに口調がユウリになるな……。

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