心臓泥棒、夏目漱石様

 今日のお昼に読み終えたものがまだずっと、ずっと喉元に残っているんです。残って、そこで暴れてばかりなんです。平穏を返してくださらないんです。
 これだけ人の心に住み着ける物語を書けて、沢山の人に覚えてもらえて、考えてもらえて、きっとこの泥棒様はそれはそれは幸せだったに違いない……。などとちょっとでも思ってしまいがちなのですが、きっとそうじゃなかったのですよね。きっと血を吐くような気分でお書きになったんだ。ただ「誰かの心に何かを残したい」とだけ祈っている人間が書けるような代物じゃない、そんな簡単なものじゃない気がするんだ、これは。
 もっと考えよう。まだ見つかる気がする。まだ何か見出せる気がする。梅子とかただ代助のフォローに回るために置かれた人間じゃないでしょう、この人こそ思想家の権化みたいなところあるやんか、ほら考えて。……考えて。
 いや、それとももう一日寝かせようかな。たった30分の仮眠を挟むだけでこんなにも印象が変わるんだ。一晩眠ったら世の真理に触れたような大発見が私の中にやって来ているかもしれないぞ!?(楽観的にも程がある)

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