アナタとあなたと貴方と貴女

 二人称の使い分けってめちゃめちゃ難しい。気を抜くと全部「貴方」になってしまうんですよね。大抵の場合この「貴方(かため)」と「あなた(やわらかめ)」しか使わないんです。アナタってのはあれだ、ゲーチスが演説時とかに使ったやつなので基本的に「うわっ胡散臭い」と思っていただきたいときなんかに使いたく思う。そしてその機会が未だ訪れていない。なんてこった。

 いやそうじゃなくてね「貴女」なんですよ。これ、これ! これをナチュラルに物語の中でお使いになられている方ほんますごいと思う。無理だよ使えないよ難しすぎるよ、だってこれを使うときの当事者の心理? がぜんっぜん想像できないんだ! 普段、二人称で相手を呼ぶとき、その相手の性別が何かとかなんにも考えてないんですよ、ワタクシ……。 「貴女」に限らず「貴男」にも当て嵌まることなのだけれど、こういう、女性としての尊重、男性としての尊重を、よりにもよって二人称に込めるってすごいことだと思うんです。それをさらっとできてしまう方の心理基盤がどうにも……高度すぎて……私には想像ができなくてね……。
 たとえばアクロマさんのBW2およびSM・USUMにおける第一声は「そこのあなた!」なのですけれども、これがよ、これがもし「そこの貴女!」だった日には心臓止まっちゃうんですよ。どうですか、めちゃめちゃ印象違いませんか。「ねえちょっとそこの、待って!」か「お待ちいただけませんか女神様」かくらいの差がありませんか。ほらぁ貴女って二人称ほんますごいからほらぁ。ほんまに、うん、すごすぎるんだ!(?)

 そう、そうなんだ。「貴女」「貴男」って、何かとても気高く高貴なものに声を掛けているかのような緊張感がある。そんでもって性別によって使い分けていることから、その高貴さというのにはその人が男性であることとか、女性であることとか、そういうのを喜び祝福する気持ちが込められて然るべきだと思う。でもそういうタイミングって本当に、滅多に訪れない。私自身がそういう、性別差による尊敬の念? というのを抱く癖がないから余計にピンと来ていないだけなのかもしれないのですが……。

 でもイツキさんが少女の形をした神様に声を掛けるとき、その二人称は間違いなく「貴女」だよ。恋も愛もごちゃ混ぜにして最終的に「信仰」としようとした彼の心持ちにおいて、彼女はあなたでも貴方でもなく「貴女」なんだ。これはきっと間違いないんだ。そういうことや。
 ……私は何を言っているんだ……?(錯乱中)

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