正直、海よりもずっと彼女の方が「一つの世界を変えて大勢を救う」ことに長けていると個人的には思っています。
……にもかかわらず彼女は「イッシュが嫌いだから」という自らの感情の方を大事にして、表舞台での奔走は専ら海に任せていました。
彼女にはちゃんと「自己」があるからです。彼女はちゃんと「自己」を中心に世界を回せる人間だからです。
「私の世界は私とNを中心に回っているのよ」「私は私とNの世界が守られていればそれでいい」
あまりにも閉鎖的に思われるこの台詞、実際、閉鎖的ではありますが、これが言える人でないと「世界」に、引きずられてしまいますよね。
彼女は本当に、本当に、世界にいる無数の人間よりも自身とNが大事なのだと思います。
それを申し訳なさそうに告げるのではなく、当然でしょ? みたいな口調で言い捨てられる強さは、空にも海にも琥珀にもないものです。
ただ、そんな彼女でもNを引っ張り上げることには並々ならぬ苦労を要しています。
これは躑躅のフラダリさん、樹海のシア、夜顔のプラターヌ博士、マーキュリーロードのグズマさんなどにも当て嵌まることなのですが、
「世界とかいう漠然としたものやそこに生きる大勢を救うことよりも、たった一人を確実に引き上げることの方がずっと難しい」
という確信を私が持っているために、どうしても、一人が一人に手を伸べる場面については重々しく書いてしまいがち……なのだと思います。
だからそれをとっても優雅な調子でやらかしたパキラさんってやっぱすげえなって。
あと「敢えて自分は引き上げることをしない」という選択をしたザオボーさんもやっぱ大物だなって。
……ほらぁ、こう書くと私の贔屓が誰にあるのかが一発で分かっちゃうからほらぁ!