Afterword2

4、YとK
先ずYですが、彼女は「約束の魔法」にも登場した「執筆活動をするゴースト」で、クリスの友達です。
『私が見える人間なんて殆どいない』というようなことを彼女は「約束の魔法」14話で話していますが、あれはそういうことです。
ゴーストには固有の霊感があり、その強さによって人間からの認知度が決まります。
彼女の霊感は「ゼロに近い」ものでした。そのため、コトネ程の強い霊感を持つ人間しか認知出来なかったのです。

後は17話でKが述べている通りです。彼女は自分と何所か似た危なっかしさを持つコトネを助けてあげたいと思い、人間の形で彼女を支えることに決めます。
しかしそれは禁忌の魔法でした。偽りの姿をずっと続けることは不可能でした。彼女の体力を案じたKにより、その関係は1年でストップします。
それでも彼女はコトネに「ゴーストに気付かれにくくする魔法」を掛け続けました。彼女の学園生活を守るために、ずっと魔法を掛け続けていました。
そしてひょんなことから(32話)コトネは、その魔法を掛けてくれたのがYだと気付くのです。

ところで、Yにはこれから自分が取るべき2つの選択肢が見えていた、という発言を前ページの後書きでしましたね。
「Yは自分の立場が下さざるを得ない、この2つの選択肢が見えていました。」というところなのですが、これは何故かというと、
Y自身が以前にこうした状況を経験したことがあったからです。
相手は誰だったのか、だなんて野暮なことは聞かないでおきましょう。
ただ、数十年をホグワーツで過ごし、達観した考え方をする彼女にも、
コトネと同じように未熟ながら、それでもと必死に足掻いていた時期が確かにあったということだけ、知っておいて頂けたらと思います。

それからタイトルにもなっている「冷たい羽」はYのことです。
冷たい、という形容詞はYを表すのにどうしても必要だろうなと思い、タイトルに突っ込んでみました。
彼女の以上に低い体温がその形容の由来ですが、それは単なる体質のものではありません。ゴーストだから、という訳でもありません。
……彼女が何故「冷たい」のか。
それをこのお話の中で言及するのはまだ早いなと思い、ぼかしています。
きっと本編か別の番外編でお話出来る機会がやって来ることでしょう。その時にはまた、お付き合い頂けると嬉しいです。
「羽」はコトネが彼女を「天使」と形容したことに由来しています。こちらは完全に私の趣味です。はい。……すみません。譲れない何かがそこにあったんだ。


次にKの話をしましょう。Yの「執筆」を人間に依頼していた「知り合いのゴースト」というのがKです。
約束の魔法にも、名前こそありませんが、存在だけは仄めかしてありました。
Yやシルバー、クリスを始めとするコトネの家族、トウコやNなど、その誰もがコトネを支える形で働きかけていた中で、
唯一、コトネ以外のことを目的として動いていたのが彼女です。
彼女の目的はYであり、数十年の付き合いである彼女が「無理をし過ぎないように」Yを見守る役目を担っていました。
だからKはゴーストになった、というのはまた別のところでお話出来たらと考えています。その時はお付き合い頂けると嬉しいです。

コトネよりもYが大切であるKは、17話や18話で彼女に辛辣な言葉を掛けます。あれは彼女が持つ本来の気質故でもありますが、
普段は人を馬鹿にしたような表情で気だるげに言葉を紡ぐだけの彼女が、Yのことが絡むと途端に感情的になるのだということにだけ注目して下さい。

冷たい羽では、コトネのYに対して築き上げられた依存的関係にスポットが当てられていましたが、
実は他にもそういう要素を兼ね揃えた人物というのは確かに存在するんだよ、ということですね。


5、クリストウコ、N、「彼」
先ずはクリスから。
彼女を含めたコトネの家族は、彼女を支える存在として描写してありますが、その中でも彼女は、数々の手助けをしていました。

30話でいきなりトウココトネのクラスを訪れますが、あれはクリスのお願いによるものです。
「今度、新しくクディッチのチームに私の妹が入るみたいなの。」とトウコに仄めかし、「もし良かったら色々と教えてあげて。」と頼んでいたのです。
元々、クリスに尊敬の念を抱いていた彼女は(その件に関しては「冠が土に還るまで」12話参照)これを快く承諾します。
後は30話の通りですが、それはただのきっかけに過ぎません。そもそもトウコはそうした義理だけで誰かと付き合うような器用な性格をしていません。
「あんたと空を飛んで遊ぶために来たの。」と彼女も言っているように、彼女がコトネと話をする中で、友達としての関係をそこに見出したのでしょうね。
シルバーとNの描写はあまり書けませんでしたが、彼等も気が合ったのでしょう。

トウコとNは、コトネの良き友達であり、先輩であるという点を意識して書きました。
番外編の「共有の証明」にも書きましたが、コトネは周りの人間に極端に怯えるが故に、彼等と関わることをしません。
なるべく狭い中で安定を得ようとした彼女の世界は、極端に狭いものとなっています。
トウコはそんな彼女に欠けているもの、つまり「世界の広さ」を伝える役目を果たしています。
Nも彼女の精神的成長に寄与しています。彼の「ポケモンの声が聞こえる」という稀有な才能にも拘らず、そのことを彼は一切悲しむ素振りを見せないのです。
共有されない世界を許すことを知っている人間、という点ではシルバーと共通していますが、コトネと同じく、そうした能力を「持っている側」である筈のNが世界を許しているという事実は、彼女の目にとても新鮮な色として映ったでしょうね。

……余談ですが、コトネとシルバーとトウコとNという仲良し4人組は、私の中でちょっとした思い入れがあります。
まあ、単にこの4人が好きだというそれだけなのですが。
hpパロを作るならこの4人は絶対に絡ませよう!と思っていたので、今回の連載でそれが叶い、密かに喜んでいます。

それから、27話でクリスが透明マントを取り出しますが、
「約束の魔法」と本編「夏休み」を読んで下さった方は、この透明マントが誰のものか想像がついたと思います。
『ううん、持っている人は解っているの。その人はゴーストじゃなくて、普通の人間よ。でも私じゃその人が誰か解らないから。』とはそういうことです。
ええ、つまり「彼」です。そしてこの段階ではクリスはその「彼」の正体を知りません。
知っているのはあの本の執筆者であるYだけです。だからこそクリスはYに頼んだのです。

……ということで、実は「彼」もYを認識できる程の霊感を持っていることが明らかになりましたね。
この辺のことはまた本編でも関わって来るかもしれませんので、頭の片隅にでも残しておいて下さると嬉しいです。


6、総括
いい加減にしろという長さになってきているのでそろそろ締め括ります。

コトネシアと並ぶ「もう一人の主人公」です。
なので本編にはあまり登場しません。彼女はシアとは独立した世界を生きており、その世界において主人公であるからです。
トウコやクリスはあちこちで登場しますが、彼女達は一歩引いた脇役として活躍しています。
主人公気質、というか、傷付きながら、醜いながらも懸命に生きていくという描写が「ザ・主人公」という感じで私は好きです。それはさておき。

HGSSとBW2は私の中で、歴代ポケモン中でもトップの面白さを誇ると勝手に思っているので、その主人公たる彼女たちには思い入れがあります。
……とまあ、つまりは個人的な趣味です。ええ、申し訳ありません。

そして「もう一人の主人公」とどうしても絡ませたかったのがYとKです。
彼女達は私の中に住み着いている(もう7年になります)女の子です。
当サイトで運営しているもう一つのジャンルでは、夢主として二人とも登場しており、性格はこちらのYやKと大差ありません。
ほんの少しだけ、数十年をゴーストとして生きてきた経験の分、冷たい羽でのYの方が達観した大人びた考えを持っていますが、それでも軸は変わっていません。

Kが「全然似ていない」と吐き捨てる描写がありましたが、あれは嘘です。
コトネとYはとてもよく似ています。だから彼女はYに焦がれたのかもしれませんね。

彼女達はどうしてゴーストとなり、ホグワーツに留まり続けているのか。
Yはどうしてコトネを気に掛けるに至ったのか。それをKはどのような心境で見守っていたのか。
そういったことはグレーゾーンというか、ぼかしておくのがいいのかもしれないな、と思い、此処では明言するのを避けます。
……気が向けば、番外編として彼女達のお話を書かせて頂くかもしれません。

では、最後にコトネとKとのお話を投下して終わりましょう。

「Yだって寂しかったのよ。」

いつものように廊下の壁からぬっと姿を現した彼女は、私の隣に並び、愛想のない声音でそう呟いた。
私はその言葉に足を止め、振り返ったKをただ呆然と見つめていた。

「どうして?」

「さあね。あたしはYじゃないから。」

そんな風にとぼけてみせる彼女を面白く感じた私は、負けじと少しだけからかってみようと思い立った。
何よ、ジロジロ見て。気持ち悪いわよ。そんな暴言を吐く彼女に笑いかける。

「でも、寂しいと思っていたことは解るのね。」

「だって何十年も一緒にいるんだもの。当然よ。
……あの子を見ることが出来る人間は、あんたを含めて数人しかいないの。人に飢えていたのは寧ろYの方だったのかもしれないわね。
どう?この答えじゃ、不満?」

図星を突かれて狼狽える姿を見られると思っていただけに、その開き直ったような実直さにこちらが狼狽えてしまった。
そのゴーストはY絡みのことになると極端に感情的になるのだ。
いつでも気だるそうに宙を漂い、人を馬鹿にしたような笑みを浮かべて無神経な言葉を投げる彼女が、Yの話をする時だけ、その目に確かな光を宿すことを私は知っていた。

きっと彼女はYが好きなのだろう。大切で大切で仕方ないのだろう。
それは同性愛だとか共依存だとかそうした類のものではなく、ただ同じ時代を共に生きる同士として、KはYのことが大切なのだ。
そして、それはYも同じらしい。彼女もKのことが大切なのだ。
私がYを思うよりもずっと、YはKのことが好きなのだ。しかしそれを悲しいことだとは思わなかった。

「あの子はあんたに似て、あまり人と仲良くなろうとしないのよ。」

「……一人が好きだから?」

「違う、怖いから。自己表現願望が強くて、活字依存で、難しいことばかり考えている癖に、それを上手く生かす術を知らないの。
人への恐怖が知恵を蝕んで、頭を麻痺させているの。だからあの子のやることは馬鹿で、しかもよく空回りするわ。
それなのに、人に焦がれているの。人の温度に縋っていたいの。そんな夢見心地なことをいつも言っているのよ。本当に成長しないんだから。
生きている時なんか、人と関わる仕事がしたいだなんて言っていたのよ?どう考えても無理よね。あの子は人との間に適切な距離を築くのがどうしようもないくらいに下手なのに。」

Kはそこまで紡いで眉をひそめた。私が必死に笑いを堪えていることに気付いたからだ。
何がおかしいのよ、と不機嫌そうに投げられた言葉に、私は収まりきらない笑いを何とか飲み込んで口を開いた。

「KはYのことが大好きなのね。」

「……はあ?」

「Yにはきっと貴方が必要だから、ずっとあの子の傍にいてあげてね。」

あの子の友達からのお願いだと言えば、彼女は満面の笑みを浮かべた。

「そんなこと言われなくても、当たり前だから。」

ああ、何て眩しい笑顔をするのだろう。
このニヒリズム的な彼女にも、そんな顔をするだけの表情筋があったんだね。
私はそのことに素直に感動した。他人にほとほと無関心であった筈の彼女のイメージは、私の中で変わりつつあったのだ。

私は頷いて歩き始めた。
Kはそのまま、壁に向かってそっと消えていく筈だった。

「まあ、友達の頼みだから、ちゃんと肝に銘じておくわ。」

「……え、誰の?」

思わず聞き返してしまった私に、Kは振り返って苦笑した。

「Yが、あんたと友達になってやれって煩いからよ。
あんたの願いを聞いた訳じゃないわ。あんただって知っているでしょう。」


あたしの世界はあたしとYを中心に回っているのよ。


毅然とそう言い放った彼女に、私は自分と同じものを見た気がしたのだ。
彼女も、そうだったのだろうか。自信満々で非の打ち所がない彼女も、Yに依存し、閉鎖的な関係に溺れていったのだろうか。
Yにはそうした引力がある。そう感じてしまうのは、私が色眼鏡で彼女を見ているからだろうか。

「貴方も私と同じなの?」

思わずそう尋ねてしまった。尋ねて、途端に後悔した。こんなことを聞くのではなかった。
しかし彼女は豪快に笑い、宙を泳いだ。あーおかしい、だなんて言いながら、その目は全く笑っていないのだ。
それが彼女なりの感情の押し殺し方だと私は気付いてしまう。つまりはそれ程の距離に私達はいたのだ。

「勘がなっていないところはYにそっくりね。」

「!」

「でも他は似ていないわ。全然、似ていない。あんたはYとは違うわ。あんたは、……あの子みたいになっちゃ駄目だったのよ。」

Kは今まで見たこともないような表情を浮かべたのだ。
私は息を飲んだ。しかしそれは一瞬だった。私の口は宙を漂うその悲しげな背中に言葉を投げていた。

「私は、Yと出会えて良かったと思っているよ!」

「……。」

「Yだけじゃないよ、貴方とも、」

彼女は振り返らずに大声でいつもの高笑いを飛ばした。

「あたしも、久し振りにあんたみたいな面白くない人間に出会えて楽しいよ。」

Kらしいね、と私は笑った。
ふわりと小さな風が吹いた。どうやら彼女が近くに来ているらしい。

2014.3.3

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