Afterword

「揺れる歌と想いの話」完結しました。
ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!

さて、あとがきというこの場で書きたいことは沢山あるのですが、特筆すべきは、7話完結予定と予言していて、本当に7話で完結したこと、でしょうか。
当たり前のことであり、そうでなければいけないのですが、それをちゃんと遵守できたのは今回が初めてのような気がします。何せ今までは、ね。
「10話くらいで完結です」とか言いながら28話になってしまい(アピアチェーレ続編)、
「7話くらいかな」とか言いながら最終的にズルズルと伸びに伸びて38話まで連載してしまい(冷たい羽)、
「ここで完結です」とか言いながら更に続編に続編を重ねる始末ですし(片翼並びにサイコロ)、
あまりに酷いので「ifバージョンです」とか言っておきながら何故かやっぱり主軸連載の続編になってしまう羽目にも(樹海)……。
しかし今回はこれといった暴走もなく、きちんと書き上げることができました。うん、よかったです。

いつもあとがきをどんな風に書こうかと悩んでいますが、今回はお気に入りの台詞を取り上げて、それについてコメントしようと思います。
あ、いつものように盛大なネタバレと解釈の拙い解説がありますので、未読の方はそっとお戻りください。


1、マツブサはこの少女の来訪を許していただけではない。この少女の来訪を待っていたのだ。

さて、トキ嬢とマツブサさんの関係は、「マツブサさんが彼女の訪問を許し、彼女がそれに甘える形で頻繁に訪問を繰り返す」ことで成り立つものでした。
ここで大人であるマツブサさんには、彼女の訪問に対してどういった対応を取るかという選択肢が与えられていた訳です。

しかしこの段階で、彼がトキ嬢にアクションを起こすことはできませんよね。
例えば彼女の訪問を嫌だと思った場合、「来るな」と拒絶することはできても、彼女から逃げることはできません。
逆に彼女の訪問を望んでいた場合、「来てほしい」と願うことはできても、彼女に会う為に彼から赴くことはできません。
この関係はトキ嬢を主軸として成り立っているのであり、マツブサさんができることなどたかが知れています。
それが大人の不自由さ、でもあり、紳士的な面でもあります。

それを踏まえて、この台詞の「許す」から「待つ」への、同じ受動的な行為でありながらその変化に含まれた彼の想いの重さを、感じて頂けると嬉しいです。
彼から会いに行くことのできないこの状況の中で、「待つ」という行為は、彼ができ得る最上のアプローチだったということに、お気付き頂けたでしょうか……。


2、私は、自分の矮小さを悔いたりしない。愚かだから、無知だから、経験に乏しいから、……だからこそ、できることがあると信じている。

トキ嬢の独白ですね。ここで示したかったのは彼女の性格です。
常に笑顔を絶やさずに、いつでも陽気に振舞っている彼女ですが、その底にはこうした激情が渦巻いているという点をちょっとだけ見せておきたかったのです。
BW2の主人公、シアや、他の主人公達とは少し感覚の違うトキ嬢を楽しんで頂けると嬉しいです。


3、『トキ!』

まあ要するに、公式の「キサマ」から「キミ」、そして「トキちゃん」と変化した、そこから更に変えてみたかったんです。
普段はキミとかちゃん付けだけれど、咄嗟の時にはこの場合のように呼び捨てしてしまう、そんなマツブサさんでもいいんじゃないかなと思いました。……それだけ。

ただ、「キサマ」から「キミ」、そして「トキちゃん」への変化はおそらくですが、トキ嬢に対する敬意の表れですよね。
二人称を蔑称ではなく「キミ」に切り替え、そして彼女を認めるかのように「トキちゃん」と名前で呼んだ。この公式の変化はええ、大好きです。
ただ、それ以上の関係に踏み入る時、マツブサさんの中で、トキ嬢がそれ以上の意味を持つ時にはきっと、それ以上の呼称になるんじゃないかな、と。
そんな思いもあって、この一言を入れてしまいました。


4、『もし、キミが変わらずに待っていられたなら、キミが望むものを最上の形であげよう。』

この言葉に彼女は号泣しますが、えっと、まあ、はい。だってほら、ドラマとかでプロポーズのシーンには必ず号泣するでしょう?
……ということでまあ、「キミが望むものを最上の形で」という「最上の形」とはまあ、そういうことです。未来の約束です。
それと関連させれば、ラストの「軽いもの」の正体も、おのずと判明するのではないかな、と思います。


5、花の歌
これは、BW2の主人公「シア」が、イッシュ地方のサザナミ湾にある海底遺跡で見つけた楽譜を元に組み立てたメロディです。
古代の言葉で歌詞もあるようですが、トキ嬢はその意味を知らないため、ハミングだけでメロディを奏でています。
この「花の歌」ですが、命名者はとある少女です。別の連載(しかもまだ完結していない)から引っ張ってきたネタでした。ピンときた方は握手しましょう。


さて、最後に総括を。
ORASをプレイし終えた後に感じたマツブサさんの印象は「毒気の抜けた悪役」というものでした。
大抵の場合、悪の組織の解散は後味が悪い感じで締め括られています。そのため、悪の組織の重役にはED後、会えないのが通例でした。

しかし今回のマグマ団、アクア団は組織の過ちを認め、新しく前へと進んでいくところまで描かれています。
最終的には主人公の力を認め、力を貸すまでに至りますし、全てが終わればあの「トキちゃん」発言です。
完全に毒気の抜けた彼等は最早、悪の組織のリーダーではなくなっています。
それはとてもいいことである筈なのですが、悪の組織勢のあの後味の悪い終わり方から、彼等のその後を想像することが何より楽しみだった私には、
少しだけ、今回のとても綺麗で平和な終わり方が「物足りないな」と感じられました。
これがあれか、本当の「想像力が足りないよ」というやつなのか。(違う)

故に今回の連載では、マツブサさんを「悪の組織のボス」ではなく「彼女の冒険に関わった大人の一人」として書いています。
悪の組織を率いた側としての苦悩や葛藤などが払拭された後の、毒気のない大人を書いています。
その結果、余裕のあるナイスミドルな雰囲気が前面に押し出される結果となってしまいました。
拙宅の文章でそんなマツブサさんの魅力を表せたのかは疑問が残るところではありますが……。

しかし毒気の抜けた大人でありながら、人と関わる場面で苦悩するのは同じです。
寧ろ組織を背負う人間としての苦悩や葛藤がない分、そちらが浮き彫りになってしまったため、当サイトには珍しく「夢小説らしい」お話になったのではないでしょうか。

では、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!


2014.12.11

I’m looking forward to seeing you in the next world !

© 2024 雨袱紗