Afterword

「優しい隔絶を埋める話」改め「食べることと生きることと信じることの話」が無事に完結しました。
お付き合い下さった皆様、本当にありがとうございました!

アンケートにて名前が上がった彼ですが、それまで全く注目していませんでした。
ストーリーに関わらないキャラクターは完全にノーマークで、今後も書くことはないだろうと思っていたので。
しかし選択肢「いいえ」を選んだ時の「この痴れ者が!!」という台詞に食いついてしまいました。あ、この人ただのイケメンじゃないな、キャラ濃いな、と。
そんな訳で中編連載をすることになりました。

どんなお話にしようかなーとあれこれ考えていたのですが、彼の職業を考えた時にもうこれしかないなということで決定しました。
その辺も含めて、いつものように喋ろうと思います。


1、シェリーの疾患

露骨な描写はなるべく避けようとしていたのですが、つい魔が差して投入してしまいました。(4話)
しかし、こんな嫌悪感を抱かせる描写を書いておいて尚、それに名前を付けることはしませんでした。
ポケモンはファンタジーの世界なので、そこにリアルな疾患名は盛り込まないように気を付けています。
フラダリさんの「木犀」にも疾患の描写はありますが、今回も含めてその名前は出していません。
一応書き手の側にはそれ相応の設定は付けてありますが、それは必ずしもお話の主題に必要なものではないので。


2、ズミさんの心情推移

簡単にまとめると、
嫌悪ないし憤怒(1話と2話)
好奇心(3話)
覚悟と庇護愛(4話~7話)
という感じです。ズミさんだけに注目するなら、個人的に3話と4話が重要回かなと思っています。
前半は簡単に言えば(本当に身も蓋もなく言ってしまうと)ズミさんがシェリーの脆さに毒されていく過程です。もっと端的に言えば絆される過程です。
舞台は随分と思い切った新しいものでしたが、私の書く話ってこんなのばかりですね。
後半は二人が歩み寄る過程であり、双方がこの名前のない関係に愛おしさを見出しつつあります。
「顔を見なくても解っていた」など、積み重ねた時間が生む独特のものを丁寧に描写したつもりです。


3、ちょっとした信条

私のポリシーの一つに、決して一方向ではいけないというものがあります。
今回のお話では、シェリーが一方的にズミさんに助けて貰っているようにも見えます。というか、前半はまさにそうです。
しかしその関係からズミさんも確かに何かを受け取っているんだよということを、初めて仄めかしたのが9話です。
彼女が救われるだけではなく、相手も彼女に救われている、ないし相手も彼女が必要なのだということを最低でも一回は明言しておきたいと考えています。
木犀やDearにもその性質が生きていますが、気付いて頂けたでしょうか?

何故そんな、ちょっと悪くすれば共依存みたいなものに拘るのかというと、そうでない一方向の見通しにあまりいいものを見通せないからです。
好きとかいう思いは保証出来ないけれど、それでも確かなものが欲しい。安定を求めるのは人間の性です。
ならばその安定は「愛され夢小説」ではなく、もっと別のところにあるんじゃないかと思いました。つまり、

重ねた時間により薄れる恋ではなく、重ねた時間が生む絆を書きたい。

今回のお話はその傾向をより色濃くしたものでもありますが、要するにちょっとかっこよく言うとこんな感じです。
だから「絆される」という言葉はお気に入りです。ほら、なんか人間っぽいでしょう?


4、プラターヌ博士とDearについて

今回、プラターヌ博士との軽い修羅場が3話ないし7話、11話にありましたが、つまりどちらに転んでもおかしくなかったよねという話です。
何を言っているのかというとつまり「Dear」になるか「3番目の魔術師」になるかは本当に僅かな差だったということです。
プラターヌ博士はこう言っています。

「ボクが腫れ物に触るように、彼女に接していたことは認めるよ。ボクにはそうすることしか出来なかった。彼女を傷付けないようにすることで精一杯だった。
だって少しでも力を加えたら、壊れてしまいそうだったんだ」

彼のシェリーに対する関わり方は何処か残酷なまでに優しいものですが、それは彼女を苦しめるものでしかなかった、というのは本文にも明記してあります。
しかしプラターヌ博士の残酷な優しさは、突き詰めることでちゃんと彼女に届いた筈です。
その結果が「Dear」であり、彼の関わり方が間違っていた訳ではなかったのです。

では、「Dear」と「3番目の魔術師」の違いは何処にあるのかというと、以下の二つです。
・プラターヌ博士がその優しさを突き通すことが出来なかった。(つまり迷いがあった)
・彼にとってシェリーは「大切な教え子」であり、あの段階ではそれ以上になり得なかった。
逆に言えばそれらを持ち得たのが「Dear」だということです。
他にもズミさんがいるか否かや、赤のスイッチを押したか青のスイッチを押したかなど、細かな違いはありますが、
それらが同じだとしても上の二つがあるならば、シェリーは「3番目の魔術師」ではなく「Dear」のルートを辿るでしょう。


5、大人3人

フラダリさんの「木犀」プラターヌ博士の「Dear」ズミさんの「3番目の魔術師」。
どれも全く別のお話ですが、この3人はシェリーとの関わり方が三者三様で書いていて楽しかったです。

フラダリさんには徹底的に「受け身」の姿勢に徹して貰いました。それと時間をたっぷりと重ねました。
木犀において、主導権を握っているのはシェリーです。シェリーが彼の変化を待っているのです。彼は長い時間をかけてそれに応えます。

ズミさんは真逆です。主導権は紛れもなく彼の方にあり、無理矢理にでもシェリーを引っ張り上げようと必死に足掻いています。
彼はおそらく3人の中で一番若いだろうから、そういう無茶が出来るんでしょうね。
シェリーの変化をただ待つことも、主導権を彼女に譲ることも出来なかった人間の姿が彼です。

プラターヌ博士は原作通りですが、そっとシェリーを誘導しています。
しかしそのやり方はズミさんのように乱暴ではなく、彼女の変化を待ち続けるという姿勢を崩しません。
放っておけば、彼女に主導権を渡してしまえば明るい未来は見えないということを知っていて、しかし同時に、彼女の手を強く引くことも危険だと感じている。
彼はこの3人の中で一番大人だと(勝手に)思っているので、Dearのような残酷な優しさに徹するしかなかったのかな、と思い、あの話を書きました。
要するにフラダリさんとズミさんの中間にいる人物なのかもしれません。


長々としたお喋りにお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
これにて「3番目の魔術師」は完結ですが、XYのお話は「神の花」を始め、まだまだ続きます。
神の花……いつ完結するのやら……。

あ、そうだ。1話と5話と10話のラストに「ここから始まったのだ」というニュアンスを入れています。
二人の心情の移り変わりに注目して頂けると嬉しいです。


2013.11.25

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