ミルクパズル

17

チコリータに覚えさせた新しい技「めざめるパワー」は水タイプらしい。
私はそれを、チャンピオンロードで出会ったシルバーとのバトルで初めて知ることとなった。

「……おい、それは俺への嫌がらせか?」

「ち、違うよ!」

めざめるパワーのタイプを恣意的に選べるなら、その技は万能極まりないことになってしまう。
ヒノアラシをボールに戻して悪態づく彼に、私はただの偶然だと説明した。

「まあ、嫌がらせは冗談だが。しかしそっちのチコリータがそのつもりなら、こっちもそれなりに力を付けさせてもらうぞ。次に会う時には覚悟しておけ」

そう言った彼のヒノアラシが、次に出会う時にはマグマラシに進化しているのはまた別の話である。

私は彼と共にチャンピオンロードを抜け、ポケモンリーグに入り、挑戦の前にポケモン達を回復させるため、内設されているポケモンセンターを訪れた。
しかし、ポケモン達が戻って来ると、シルバーは踵を返して出口へと歩き始めたのだ。
「お前に負けるようじゃ、リーグでもいい成績を残せないだろうから、カントーへ修行に行ってくる」と言い残して、彼は姿を消してしまった。
それは彼の本音だったのだろう。しかし私にポケモンリーグへの挑戦権を譲ってくれたようにも思えた。
その私が、この先に控える4人の四天王とチャンピオンに負けるわけにはいかなかった。これは最早、私だけの戦いではなくなってしまっていたからだ。

「ふふ、まさかチコリータを最初に出してくるとは思わなかったわ」

最後の四天王であるカリンさんは、倒れたポケモンをモンスターボールに仕舞いながらそう言った。私はその言葉に苦笑する。
先鋒として弱点の多い草タイプであるチコリータを出すリスクを、知らない訳ではなかったが、タイプ相性など気にしている場合ではなかったのだ。
私のパーティの中で一番強いのは間違いなくこの子だからだ。

「進化させないのは、貴方の拘りかしら?」

「いいえ、この子がどうしても進化したくないらしいんです」

駆け寄ってきたチコリータは、いつものように私の背中をよじ登り、帽子の上にちょこんと乗った。
するとその光景がおかしかったのか、カリンさんはクスクスと笑い始める。
その子、貴方のことが大好きなのね。そう言われて私は嬉しくなった。私もチコリータのことが大好きだからだ。
私のかけがえのないパートナー。私の旅の全てに一緒に居てくれた大事な友達。

「強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべき」

彼女は歌うようにそう呟き、私に歩み寄る。チコリータの頭をそっと撫でて、とても嬉しそうに微笑んだ。
チコリータが、世間で言うところの「弱い」ポケモンに相当するらしいことを知らなかった私は首を傾げる。

「分からないならいいのよ。私の言葉を理解できなくても、貴方は既に大事なことを分かっているのだから」

カリンさんは、奥の扉を指差して私を促した。私は大きくお辞儀をして、チャンピオンの元へと駆け出す。
チャンピオンになる程の強い実力を備えたトレーナーに、私は心当たりがあった。

最後のカイリューが倒れた時、私の胸に迫ってきた気持ちを、どう表現すればいいのだろう。
私は相打ちでフロアに叩きつけられたチコリータの元へと駆け寄った。まだ手持ちにはトゲキッスが残っている。勝った。私のポケモンが、勝ったのだ。

「強くなったね、コトネちゃん」

チャンピオンであるワタルさんは、肩を竦めて笑いながら祝福の言葉を掛けてくれた。
しかし私は首を振る。

「強くなったのは、この子達です。私は、……もしかしたら、弱くなったのかもしれない」

「そんなことはないさ。……そうだな。もし君が、自分で納得できる君自身の強さを求めるなら、カントー地方を旅してみたらどうだい?
ジョウト地方での旅とは、また違った楽しさや面白さもあるだろう」

カントー地方。
一気に開けた新しい土地は、私にとてつもない鼓動の高鳴りをもたらした。
行きたい。カントー地方へ行ってみたい。そこに行けば、弱くなってしまった私も、変われるかもしれない。
それは私が初めて抱いた、何かに焦がれて追い求めようとする強烈な気持ちだった。

「バッジが16個になったら、また此処に来てほしい。更に強くなったポケモンリーグが君を迎えてくれると思うよ」

そして私は、殿堂入りを果たし、船に揺られてカントー地方へと向かった。
町を一つずつ巡り、ジムバッジを集めた。
クチバシティのマチスさん、タマムシシティのエリカさん、ヤマブキシティのナツメさん、ハナダシティのカスミさんに勝利した。
シオンタウンという小さな町から南にある、セキチクシティでは、四天王のキョウさんの子供であるアンズさんと戦った。

道を塞いでいたカビゴンを、ポケモンの笛で起こしてから、ディグダの穴を抜けてニビシティに向かった。
タケシさんに勝利した私は、トキワの森を抜けてトキワシティに、そこから更に南に進んで、マサラタウンという田舎町に辿り着いた。
ポケモン研究の権威であるオーキド博士に挨拶をした後で、私は海を渡り、グレンタウンにやって来た。

グレンタウンはポケモンセンターしかない、とても寂しい場所だった。
突然の噴火により、町はほぼなくなってしまったらしい。
そんな説明を、傍に居たお兄さんに受けた。
彼はグリーンさんといって、3年前にポケモンリーグのチャンピオンになった人物だという。今ではトキワシティのジムリーダーをしているらしい。
グレンタウンにあったジムが、海を東に進んだところにある双子島にあると教えてくれたので、私はギャラドスに乗ってそこへ向かった。

そして私は双子島で、ジムリーダーのカツラさんと戦い、そのままトゲキッスに乗ってトキワシティに飛んだ。
ジムリーダーのグリーンさんに何とか勝利し、私は厳しさを増したポケモンリーグに挑戦する資格を得たのだ。

勿論、ジムバッジを集めるためだけに奔走していたのではない。
ジョウトにはない、長いサイクリングロードを自転車で駆け抜けたり、おじさんに貰った釣竿で、見たことのないポケモンを釣り上げたり、あちこちの洞窟を探検したりした。
お月見山に続く洞窟で私はシルバーを再開し、バトルをした。
進化したマグマラシとチコリータの一騎打ちは、またしてもチコリータに軍配が上がった。水タイプのめざめるパワーのおかげだということは言うまでもない。

カントーのジムバッジを集める途中で、私は何度かジョウトにも立ち寄った。
ポケスロンの会場でシルバーと出くわし、一緒に競技に出場した。
スピードコースでは惨敗してしまったけれど、悔しさ以上に、彼がとても嬉しそうに笑ったので、そんな重い感情は何処かへすっ飛んでしまった。

フスベシティにある龍の穴では、特訓をしているシルバーに会い、偶然そこを通りかかったワタルさんとイブキさんに、彼と組んでタッグバトルを行った。
二人が繰り出す強力なドラゴンポケモンに圧倒されながらも、何とか勝利を収めた時の喜びは計り知れなかった。
皆が立ち去った後で、私は祠の長老さんに挨拶をしに行った。するとドラゴンタイプであるミニリュウを託され、今もその子を大切に育てている。

ジョウトの草むらでは、何度かエンテイやライコウに遭遇した。
すぐに逃げられてしまい、じっくりとその姿を見ることも敵わなかったけれど、何とか図鑑に登録することはできた。
タンバシティから更に西へと進むと、強く打ち寄せる波が険しい崖を形成していた。その奥にはサファリゾーンがあり、珍しいポケモンに出会うことができた。

そして、龍の穴の長老さんに貰ったミニリュウがカイリューにまで進化し、ジョウト・カントーのポケモン図鑑の「見つけた数」が、250匹中、240匹を超えようとしていた頃。
私は、再びポケモンリーグを訪れ、5人と戦った。
ジョウトやカントーでは見た事のないようなポケモンが次々と繰り出され、苦戦を強いられた。
エースであるチコリータを始め、ゲンガーやトゲキッス、ギャラドスにカイリュー。どの子が欠けていてもきっと勝利することはできなかっただろう。
2回目の殿堂入りを果たした私に、知らない番号から電話が掛かってきた。

「やあ、わしじゃ、オーキドじゃよ!ウツギ君から君の番号を教えてもらったんじゃ。
ところで、バッジを16個集めたそうじゃな、おめでとう!そんな君に紹介したい場所があるんじゃが……」

そして私はオーキド博士から、白銀山と、ハナダの洞窟という2つの場所を教えてもらった。
そこで私は、最強のトレーナーと、最強のポケモンに出会う。

2014.10.28
「渇望」

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