14 steso

シアちゃん!」

ヤマジタウンの近くにあった洞窟、リバースマウンテンで、私はベルさんと再会した。
彼女はここで、アララギ博士に頼まれたポケモンの調査をしているところだったらしい。

「ねえ、この洞窟を抜けるのなら、一緒に行こうよ!ここのポケモン達は手強いから、一人より二人の方がいいと思うの」

「いいんですか?ありがとうございます!」

彼女はボールから見た事のないポケモンを出した。図鑑をかざすと「ムシャーナ」と表示される。
そういえば、アクロマさんがくれた本に、このポケモンのような、ピンク色の丸いポケモンが居た気がする。確か名前は、

「ムンナの進化系ですか?」

「あれ、よく知っているね。流石はシアちゃん!トウコが認めている子だけあって、ポケモンのことに詳しいね」

「……え、トウコ先輩が、私の話をするんですか?」

驚いた。他人のことを嫌いだとばかり豪語している印象の強い彼女が、私のことをあろうことか第三者に褒めていた、だなんて、今まで知らなかったのだ。
ベルさんはムシャーナにぎゅうと抱き付き、笑顔で続きを話してくれる。

「本を読むのが好きで、ちょっと捻くれているところがあるけれど、私に似て優秀な子だよって、トウコ、いつも言っていたもの。
ふふ、そんなシアちゃんと一緒にバトルをしたら、あたしの方が足手まといになっちゃいそうだなあ」

私は慌てて首を振り「そんなことないです」と彼女の言葉を否定しながら、しかし、少しだけ嬉しかったことを覚えている。
彼女が直接的に私を褒めたことは殆どないし、そういうことをするのが嫌いな人物であることを私は熟知している。
数々の暴言や毒舌も、ある程度仲がいいからこそ発せられるものだと理解はしている。
それ故に、彼女がそうした評価を他人に話したというその様子がどうしても信じられなくて、けれどそれを想像すると、とてもおかしくなって、私は笑ってしまった。
誰かを褒めるなんて、彼女らしくない。けれど、そんな「らしくない」言動がとてつもなく嬉しいと感じた。

私は洞窟を進みながら、ベルさんと色々な話をした。
彼女がした旅のこと、そこで出会った人やポケモンのこと、ジムリーダーになったチェレンさんのこと、アララギ博士の研究を手伝い始めて解ったポケモンの生態のこと。

ロトムをボールから出して連れ歩いていることが彼女には不思議だったようで、その理由を尋ねられた。
「この子は小さいから、常にボールから出していても通行の邪魔になったりしないでしょう?」そう返せば彼女はとても驚いた様子を見せたが、やがて楽しそうに笑ってくれた。
「本当は、連れているポケモン全員を連れて歩きたいんだね」と何故か私の思いを言い当てられ、少しだけ恥ずかしかったのを覚えている。

洞窟の出口に差し掛かった頃、彼女は徐に口を開いた。

「あたしはね、自分に何ができるか解らなくて、それを探すために旅に出たの!」

「自分に何ができるか、……ですか?」

「そう。でもあたし、トウコやチェレンみたいに強くなれなくて、ヒウンシティではムンナをプラズマ団に取られちゃったりもして、とにかく駄目なトレーナーだったの。
でもね、それでも大切なものは自分の力で守りたいって思ったんだよ」

2年前を懐かしむように、ベルさんは話を続ける。
彼女の旅で、彼女は何を得たのだろうか?自分に何ができるかを、彼女は見つけたのだろうか?

「あたしとトウコとチェレンは、3人一緒にカノコタウンを出たの。でもそれぞれ、色んなことがあって……。
やりたいことも、できることもバラバラで、でもそれでいいんだって、やっと思えるようになったの」

「やりたいことと、できること……」

シアちゃんも、これからの旅で、シアちゃんがしたいことや、シアちゃんにしかできないことが見つかると思うの。それを、大事にしてあげてね」

ベルさんは笑ったけれど、私は、笑えなかった。

「……」

私のやりたいことは何で、私のできることは何なのだろう。
できることと、やりたいことは揃えなければならないのだろうか。違っていてもいいのだろうか。
私ができないこと、私の身の丈に合わないことを、私がしたいと思うことは間違っているのだろうか。
私にしかできないことなんて、そんなこと、本当にあるのだろうか。

「ベルさんにしかできないことは何ですか?」

そう尋ねた私に彼女は、ムシャーナを抱きしめて笑った。

「この子に「大好きだよ」って伝えてあげること!」

私は思わず、隣を漂うロトムに視線を移した。
この子を大切にすることは、この子のトレーナーである私にしかできない。それはこの子にとってわたしが「かけがえのない存在」になっているということなのだろうか?
私はこの子を「かけがえのない存在」だと思っているのだろうか?
それは、私とこの子がモンスターボールで結ばれているからだろうか。それとも、私の腕の中で生まれてきてくれたからだろうか。

「大丈夫だよ、シアちゃん。悩んでも迷ってもいいんだよ。だってあたしたちにはポケモンが居てくれるんだから!」

不安そうな顔をしていた私に、ベルさんはそう言って励ましてくれた。


『アクロマさんへ

お久し振りです。お元気ですか?
私は今、カゴメタウンに来ています。

ヤマジタウンからリバースマウンテンという、とても暑い洞窟を抜けると、その先にはサザナミタウンがありました。
この町は海に面していて、リゾート地であるセイガイハシティに続くマリンチューブという回転トンネルがありますが、今は通れないようです。
他にはポケモンセンターと、別荘が数件あるだけの静かな場所でした。
この町からは北にも南にも進めるようです。南の14番道路では、珍しいポケモンや強いトレーナーが沢山いました。
この先にはホワイトフォレストという町があるらしいのですが、今は通れないようなので、サザナミタウンまで引き返し、北を目指すことにしました。

海沿いの道をひたすら歩いていると、見た事のないポケモンに出会いました。私はそのポケモンを6番道路でも見かけています。
図鑑をかざすと、コバルオンというポケモンであることが解りました。
6番道路で出会った時には直ぐに逃げられてしまったのですが、今回はこちらをじっと見つめていました。
その姿勢に敵意は感じず、ロトムも警戒心を見せてはいなかったのでそのまま立ち去りましたが、その視線に含まれた複雑な色が気になりました。

コバルオンと別れ、私はカゴメタウンに辿り着きました。
この町は古くからの伝承をとても大切にしている町のようです。
近くにあるジャイアントホールにはお化けが住んでいて、夜になると人を襲うという伝承を元に、彼等は夜になると一様に自宅に籠ってしまっています。

私は夜の閑散とした町を歩いていたのですが、そこで再びプラズマ団と出会いました。
プラズマ団の船で出会ったヴィオさんという人と、数人の団員達とが私に気付き、バトルを仕掛けてきました。
ロトムとクロバットのダブルバトルで応戦し、勝利を収めることには成功しましたが、彼等は何かを探しているようでした。
「あの科学者が言うように、やはりソウリュウにあるのかも……」と言っていました。どうやらプラズマ団にも、何かの研究をしている団員がいるようです。

ヒュウは彼等を追い掛けて行きましたが、私はこの暗闇の中で彼等を見つけるのは至難の業だと思い、一先ずポケモンセンターに戻ることにしました。

プラズマ団のヴィオさんは、「伝説のドラゴンポケモンを従えてイッシュを支配する」と言っていました。
一種に伝わる伝説のドラゴンポケモンは、レシラムとゼクロムの筈ですが、彼等には既にトレーナーがいます。
2年前に英雄と称えられた二人から、プラズマ団はそのポケモンを奪うつもりでしょうか?
だとしたら、私は全力で止めたいと思います。彼等は私の知り合いで、大切な先輩です。そんな彼等を慕うポケモンを、引き離そうとするのなら、私は迷いなく戦います。

ヒオウギシティのジムリーダー、チェレンさんは以前、私にこんなことを話してくれました。
「何故、ポケモンが僕達のために戦ってくれるのか。それを考えるにおいては、ポケモンとトレーナーではなく、命と命の関係で見ることが必要なのかもしれない」
彼にとって、ポケモンは自分と対等な存在なのでしょう。だからこそ、ポケモンとトレーナーという立場を排して、彼等を向き合うことができているのだと思います。
それはきっと、家族や友人といった位置にある存在なのかもしれません。だから、そんなポケモン達を脅かす存在を、見逃しておくわけにはいかない。

……ただ、私は、残念ながら違います。私はポケモン達と対等な関係ではありません。私は、私のポケモン達に比べて遥かに無力です。
私はポケモン達から多くのことを学び、今も多くのものを受け取っていますが、それと同じだけのものを、私がこの子達に差し出せているとはとても思えません。
明らかに力を有しているのはポケモンの方である筈なのに、彼等は私を慕ってくれます。

だから私は、彼等よりも遥かに無力である私は、せめて彼等に感謝の気持ちを伝えたくて、「大好きだよ」と、言葉に出してみることにしました。
……少しだけ、恥ずかしいですね。

シア


2014.11.19

ステーソ ゆったりと遅い

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