(塵)わたしがいる、などとは言ってやれない

 だってシアが、シアがいないんです。波打ち際に膝を折り、子供のように泣く彼女は、自らが捨て置いてきた親友の名前を繰り返し呼んでいる。寂寥と懇願はやがて恨みに代わり、彼女は砂を握りしめながら淡々と呪詛を吐き出すだけの怪物と化していく。月が砂浜に薄く落とすその怪物の影を、フラダリは目を細めて眩しそうに、見ている。

「彼女の優しいところも、努力家なところも、傲慢で強欲なところも、好きだったはずなのに、そうして鮮やかに世界を変えていく彼女のようになりたかったはずなのに、今ではこんなにも彼女が憎い。憎くて憎くて仕方がない」
「彼女だけだったんです。私からいなくなるって言って背中を向けても『私も一緒に行くよ』って言って追いかけてきてくれたのは」
「父さんと母さんが揃って転勤族だったから、引越す度に友達はいなくなっていく。その場所で積み上げてきたものはいつも唐突に『大人の事情』で取り上げられる。そういうものだと思っていました。でもシアだけは違った。シアは付いてきてくれた。海を越えて、カロスにまで。私がいるからっていうただそれだけの理由で」
「シアだけなんです。私の友達、私の親友、私が、絶対に失わずに済むと確信できた人。唯一の人」
「でも、今此処にシアはいません。シアは付いてきてくれなかった。私はこんなにも寂しいのに、シアは追いかけて来てくれない。私が好きになったシアはもういない。追いかけて来てくれないシアなんか、嫌い」

「シェリー、君はそれを望んでいたのでは?」
「……」
「『私は、貴方たちの行けないところへ行く』のだと、随分、楽しそうに言っていたように記憶しているよ。あれは確か、350年前のことだったか」

 彼女はフラダリを睨み上げる。フラダリは微笑む。

「君が一人なのは君のせいだ。君は、あのシアでも追いかけられないところへ来てしまったのだから」

たぶん400年を超えたあたり

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