「わたくしがどうしようもない程に貴方を好きなことをどうかそのまま知らずにいてください」
彼はいつでもそう思っている。彼女に対してそう思っている。尋常でない高さへと積み上がった愛は最早彼にさえどうしようもなく、ただ好きだという感情の認識だけが彼のものとしてそこに在る。過ぎる想いは人を盲目にする。それがかけがえのないものであることを彼も彼女も分かっている。分かっていながら彼はその想いを晒すことを恐れているので、今日も彼の愛した海は、自らに注がれる太陽の光の熱さを知らぬままだ。
「私が言えたことじゃないかもしれないけれど、あんたって器用よね。それだけ傲慢に愛しておきながら、それを知られたくない程度には臆病も忘れていないなんて」
「傲慢と臆病は存外容易く両立し得るものですよ、トウコさん。その両方に足を取られることを器用とは言いません。きっと不器用なんですよ、わたしも、彼女も」
*
「ワタクシがどうしようもない程にあなたを好きなことをどうかそのまま知らずにいてください」
彼はいつでもそう思っている。彼女以外に対してそう思っている。尋常でない高さへと積み上がった想いのあれやこれを全て認めて、受け入れ、取り込んでも尚、仕方のない兄弟子さんだねと笑ってくれる相手など彼女以外にはあり得ないと確信している。過ぎる想いだけが彼を照らす。道の先にいるのは彼女ばかりである。この愛を周りに知らしめようとは思わない。彼はただ、彼だけが大丈夫だと思えていればそれでいい。
「私が言えたことではないかもしれないけれど、君はもう少し器用に生きた方がいいね。私に道を拓かせたその色で、君ならもっと多くの人に手を伸べられるだろうに、此処にばかり留まるなんて不器用のすることだよ」
「ハッ、ご冗談を! 凡人のワタクシに今更、そのような聖人めいた振る舞いが似合うとでも? 馬鹿げた気遣いはご不・要です。あなたは黙ってこのワタクシに、質の悪い兄弟子に執着されていればよろしい」
(上:初代誠実お化けシアとアクロマの話(シア不在)、下:二代目誠実お化けユウリとセイボリー)