キバナさんに見送られて、先に走っていったホップを追う形でスタジアムへと入ると、オリーヴさんが主人公へと駆け寄ってきました。
「ジ、ジムチャレンジャー! たっ、助けなさい。いえ、助けてください!!」と、並々ならぬ焦りの様相でまくし立てる彼女によると、まあ、こういうことのようです。
「わたくしのポケモンが何故だかダイマックスしちゃって、スタジアムで暴れちゃって……。
ダイマックスしてスタジアムで暴れ回っていたポケモンはキバナが……いえ、キバナさんが鎮めてくれたけど……
他のポケモンも皆ダイマックスして暴れたら、ローズ様のいる地下プラントが崩れちゃう!!
誠に身勝手ですが、お願いさせてください! 地下プラントにいるローズ様を止めてほしいのです!
ローズ様が目覚めさせたムゲンダイナなるポケモン……の体から出るエネルギーがダイマックスを引き起こすとか……。
このままではガラル地方のポケモン全てがダイマックスして暴れ回るでしょう。そんなことになったら……!
どうかお願いです、そちらのエレベーターから地下に下りて、ローズ様をお助けするのです! チャンピオンの弟にも頼みましたが、どうなっているか……」
うん……。うん?
オリーヴさんが劣勢になると弱気になるとか、先日までのプライドをかなぐり捨ててまで主人公に助けを乞うているとか、
まあそのあたりは状況を鑑みるに無理もないことだとは思いますので沈黙することにします。
そんなことより、えっとね、これ、10番道路の「お得な掲示板」にあった記載なのですけれど、
『お得な掲示板!
ポケモンの体内から放たれた特殊なパワーは、周りの空間を歪ませ、実際の大きさよりもポケモンを巨大に見せます。これをダイマックスと言います。
中にはダイマックスで姿が変わるポケモンもいます。これをキョダイマックスと言います』
馬鹿な、私達は空間の歪みに興奮していただけだったというの……? などと当時はたいへん混乱したのですが、
要するに「周りの空間がポケモンの特殊なパワーに呼応するようにして巨大なポケモンの形を取る」という現象がダイマックスなんですよね。
つまり魂の本質というか、そのポケモンの質量自体は何ら変わっていないはずなので、
ポケモンが大きくなって暴れ回るというのも「大きくなって暴れ回っているように見える」に過ぎないということになり、それならば全く問題ないのではないかな?
……などと思っていたのですが、ダイマックスしたポケモンの技の威力は、
タイプ不一致かつ「効果はいまひとつ」であるはずの相手のHPを半分以上持っていく程度には強いものなので(これはあくまで一例です)、
虚像とはいえパワーは増幅されていると考えると……彼等に暴れ回られるのはやはり、致命的なことであると解釈した方がいいのだと思います。
つまり、やはり主人公が駆け付けてローズさんを止めないと「やばい」ということです!
そうと決まれば行きましょう! きっとシナリオの都合上、ホップではローズさんを止められていないだろうから!(やめなさいやめなさい)
これまでは「関係者以外立ち入り禁止」とされていた地下プラントに通じるエレベーターに堂々と乗り込み、XYのフレア団アジトを思わせる造りの廊下をそっと歩いて、
曲がり角の奥に広がる異質な光景を見据えながら歩を進めると、……やはりというか何というか、悔しそうに俯くホップとその奥で背を向けるローズさんの姿がありました。
ローズさんの背後には、ちょっと常識を疑うレベルの大きなタマゴの殻が鎮座しています。周囲に散らばる赤い宝石のような欠片は、きっとこの殻の一部なのでしょうね。
この中に、災厄と呼ばれるブラックナイトが眠っていた、と考えて良いのでしょうか。
主人公の歩みに気付いたのか、ローズさんは振り返ります。
「何をする気なのかな? ジムチャレンジャーさん」
▼ブラックナイトを止める! or チャンピオンを助ける!
→ ブラックナイトを止める!
「うわー、驚いたな。君は何を言っているんだ。もう止める必要はない。既にブラックナイト……いや、最強のポケモン、ムゲンダイナは目覚めたんだよ!」
→ チャンピオンを助ける!
「それは困るよ、君。チャンピオンにはムゲンダイナを制御してもらわないとね」
おおっと、いい情報を頂きました。
つまり「チャンピオンのように強いトレーナーも必要」と口にしていたのはこのためだったのですね。
ローズさんの作戦に協力してくれると思しき、彼の信念を理解し、彼と共にガラルを盛り上げてくれていた人物。
そしてムゲンダイナを制御できるだろうと期待できる程度の力を持った人物。
……となれば、もうダンデさん以外には在り得ません。現チャンピオンであり、10年近くガラルのために力を奮ってきた彼以外には。
彼の協力者は本当に「ダンデさんでなければいけなかった」のですね。
「ちょっといいかな? 君からすればわたくしは酷いことをしているのだろうね。微塵も理解できないのだろう。
だがね、わたくしにはガラル地方が永遠に、安心して発達するために、無限のエネルギーをもたらす信念と使命があるのだよ。
そのため、ムゲンダイナにねがいぼしを与えていたのだ。ナックルシティで起きた赤い光の騒ぎ……。あれもムゲンダイナを目覚めさせる実験の一環だった!
いいかね! ガラルの未来を守る計画を邪魔するなんて、もってのほかなんですよ!」
▼マクロコスモスのローズが勝負を仕掛けてきた!
待ってました! この時を待っていました! この! 貴方のためのBGMを拝聴できる瞬間を! この! 貴方がボールを投げるモーションを拝見できる瞬間を!
手元のハイパーボールを握り締め、ぐっと眉を寄せてから苦い微笑みを浮かべ、そこから右手で思いっ切り投げてきました。
本当にこのローズさんの表情、上手に作られています。
基本的に微笑んでいる人物として描かれているため、感情の微妙な変化が大々的には表現しにくく、それ故に眉が全ての仕事を担っている感じがあるのですが、
それ故にこの眉のひそめ方とか、片側だけぐっと下げるところとかの感情の重みがもう、すごい。
そしてBGM。ラスボス系にてコーラスが入るのはBWの「ゲーチス! ゲーチス!」からの伝統芸のようなところがありましたが、今回も聞かせてくださいました。
私事で申し訳ないのですが、今年の8月に劇団四季様の「ノートルダムの鐘」を鑑賞いたしまして、
そのオープニングの曲の雰囲気が、この神々しく重々しいコーラスに入った途端、わっと想起されました。
起こしてはいけないものを起こしてしまったという絶望感、今回の騒動の首謀者である彼との対峙における緊張感、早くチャンピオンに加勢しなければという焦り……。
そうしたものをこれ以上ない程に美しく表現した曲でした。いやぁ、今作も素晴らしかった!(まだ終わってない)
……ただ、ルザミーネ戦やアクロマ戦のように「ループで聞いていると妙に泣けてくる」というような「無機質な音の中にある人間らしさ」というものではなく、
「ループで聞いていると妙に気持ち悪くなってくる」というような、「有機質で壮大なオーケストラの中にある空虚さ」のようなものを強く感じたのは、私だけでしょうか。
それはさておき。
マクロコスモスの社員さんが鋼タイプのポケモンをこぞって繰り出していたところから予想は出来ていましたが、ローズさんのポケモンも鋼で統一されていました。
シュバルゴ、ギギギアル、ナットレイ、ニャイキング、そしてキョダイマックスするダイオウドウの5体です。
これまで6体のフルメンバーで挑んできたトレーナーが一人もいないという事実に今更ながら「なんでや」と思いつつ、一匹ずつ倒していきます。
「厳しいねえ……。厳しすぎるよ。そういうの、よくないんじゃないの?」(初攻撃時)
「おやおや、最後の1匹ですか……。ちょいと困りましたねえ……」(ラスト1匹)
「どかーんと一発、やってみせましょうかね!」(ダイマックス時)
「いいねえ、ポケモン勝負は! 久し振りに戦って満足だ」(勝利時)
この勝利後に見せる一連の動作と表情の変化も見逃せないところです。
僅かに俯いたかと思ったら、彼の感情を如実に示してくださる眉部分、というより顔の上部分が完全に隠れ、口元だけが画面に映る形となります。
それが「ふっ」と、息を吐くのと同じタイミングで小さく弧を描いて、そこから上半身全て映り、いつもの笑顔のままにぱちぱちと拍手をなさいます。
「流石ですね、ナユくん。愛しのガラルが誇る無敵のチャンピオンが選んだジムチャレンジャーですよ!
いやあ、君とチャンピオンのチャンピオンマッチ、見たかったね! ジムチャレンジとか無駄にしちゃってほんと申し訳ない!
だけど仕方ないよねえ……。エネルギー問題を一刻も早く解決するべく、ムゲンダイナを目覚めさせたが制御できなかったわたくしを助けるために、彼は試合を捨ててやって来たんだ。
それこそ、お姫様をドラゴンから守るナイトのようにね!」
……ほう、ローズさんがお姫様でダンデさんがナイトということですか。
「わたくしを助けるために」「試合を捨てて」やって来る。この言葉からも分かりますが、彼はダンデさんが「そうするだろう」という確信のもとに動いたのでしょうね。
ダンデさんなら助けに来るだろう。彼ならムゲンダイナを制御してガラルの未来を守ろうとするだろう。
そのように微塵の迷いもなく思える相手でなければ、ローズさんは「協力を願えなかった」のでしょう。
かなり強いバトルの実力を持っていたオリーヴさんには部下として手伝いをさせるのみで、
肝心な作戦実行時には蚊帳の外……であったことを考えると、ローズさん、意外に用心深い人物ところがあるのかもしれません。
「さて、わたくしは演説が大好きだからね。話がとても長いけれどそろそろ終わらせますよ。
だって上ではチャンピオンがムゲンダイナを捕らえた頃でしょう。気になるのでしたら、リフトで上がればいいのですよ。
ほら、わたくしに負けてボロボロのホップくんも行くのでしょう? さあ、二人でチャンピオンの様子を見てくるといいでしょう!」
(主人公の隣に並んだホップが、笑顔で)
「委員長、分かってないな。オレもポケモンも諦めないぞ。委員長が開催してくれたジムチャレンジで学んだからな!」
強くなりすぎたホップの強くなり過ぎた返し文句にくらくらとしましたが、
そんな彼の言葉にもローズさんは怯まず「はいはい、リフトに乗れば上へ上がれますよ」と笑顔で告げるのみでした。
*
少し長くなってしまうのですが、此処でのローズさんの動きや台詞に関する感想と考察をさせてください。
ローズさんは「ガラルの未来を守る計画を邪魔する子供」として主人公やホップを認識し、勝負を仕掛けてきました。
彼にしてみれば、未来を守る役目は長らくその任に就いて確かな実績を上げてきた自分自身、ないしダンデさん以外が担うなどということは考えられず、
そのためにブラックナイトを止めようと駆けつけてきた子供達を「敵」のように認識していたのだと思います。
有り体に言えば「小賢しいガキ」にお灸を据えようとした、というところでしょうね。
彼は、リーグカードの裏面にも記載されていた通り、過去に「リーグ準優勝」の実績を取っています。
そのため彼がポケモン勝負において「敵わない」と認められる相手は、時代が変わろうとも「チャンピオン」の人間以外には在り得なかったのですよね。
だからこそ、チャンピオンに勝利していないような相手に「わたくしが負けるはずがない」と確信していたのではないでしょうか。
だからこそ、彼よりも実力の劣る子供達は、彼にとって庇護の対象であり、その対象が計画を邪魔しに入ってきたとすれば、それはもう「邪魔な敵」にしかなり得なかった。
けれどもそんな「邪魔な敵」でしかなかったはずの主人公が、圧倒的な力でローズさんを打ち負かした。
この瞬間、(これは私の勝手な妄想でしかないのですが)ローズさんには「時代の変わる音」が聴こえたのではないでしょうか。
ガラルの未来を守れるのは自分自身とダンデさんの他にいないと確信していて、この数十年間きっとその心構えでガラルの発展に尽くしてきていて、
だからこそ、自分が動かなければ、自分にしかできないことだから為さなければと、そうした思いでとんでもないものまで目覚めさせてしまった。
そんな彼がようやく、その「未来を切り拓く」役目を自身とダンデさん以外の誰かに譲り渡そうと思えたのが、
まさしくこのバトル終了後に彼がふっと微笑んだ、あの瞬間だったのではないでしょうか。
……私はそう考えています。そうだったら少し、素敵だなあと思っています。
未来を守るために動くべきは、もう自分ではなくなってしまった。
計画を邪魔させるものかと必死になっていた彼が、バトル終了後は笑顔で主人公とホップを送り出すことができたのは、そうしたことを感じたからであるのかもしれません。
その後あっさりと自首して(これは後に明らかになることですが)「ガラルを導いてきたポケモンリーグ委員長」という彼の時代に幕を下ろしたのも、
その役目を引き継いでくれる人物(ダンデさん)、更にはその人物の役目さえも引き継いでくれる人物(主人公)がいると確信できていたから、であったのかもしれません。
2019.12.13
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