「はぁ……。やっと来てくれましたか」
!?
え、ちょ、うわわわわ。
ステージ上で歌うネズさんを遠くから見ている主人公に対してなのか、それとも自身の中で完結させた呟きなのかは分かりませんが、ネズさんの第一声が発されました。
敬語だなんて聞いていませんよちょっと待ってくださいそんなローテンションだなんて聞いていませんしその目元のくまも知りませんよおいおいおい(大混乱)
「おれ……ほんとダメな奴だからさ、だから誰も来ないんだ。そんな想いが強かったね」
(ステージから下りて、こちらへと歩く。猫背、かなり猫背)
「おれ、いい耳してるから、シャッターのこと聞こえていたけど、一人でいる時間は心が泣きそうになるんだよね。
ダイマックスが使えないジムスタジアムだからさ、シンプルな戦いになるんだけど、ちょっとは楽しんでほしいよね」
(エール団の皆様がバトルフィールドの外へ捌ける)
「ふぅ……」
(目を閉じた気怠そうな表情から一変、先程のステージ上の強気な笑みに、そしてドクロ型のスタンドマイクを構える)
「おれはスパイクタウンのジムリーダー! 悪タイプポケモンの天才、人呼んで哀愁のネズ!!
負けると分かっていても挑む愚かなおまえのために、ウキウキな仲間と共に、行くぜー! スパイクタウン!!」
この前口上、頭がおかしくなるレベルで魅了されました。
自らを「天才」と称するその矜持、「負けると分かっていても挑む愚かなおまえ」とまで言ってのけるその自信、
「ウキウキな仲間」として応援してくれるエール団の皆を称えるような吠え声、しまいには「スパイクタウン」と締めて故郷への愛情を絞り出している……。
完璧じゃないですか?
だがそのかっこよさと勝負とは別物だ、箱入りブリムオン様とネギの姉貴で片付け、て……。
BGMがかっこいい!
多くは語るまい、とにかくかっこいい。かっこいいのでなるべく長く聴いていたいのでポケモんを入れ替えつつのんびりと楽しみましょう。
このネズさん、ポケモンを1匹繰り出す度に、ノリノリでポケモンの紹介をしてくれます。これがおそらくリーグカードの記載にあった「ネタバレ」というやつですね。
ズルズキン → 「みんなも名前を呼んでくれ。いくぜ! ズルズキン! いかくだ!」
カラマネロ → 「特性、あまのじゃく! カラマネロ、捻くれちゃいましょ!」
タチフサグマ → 「メンバー紹介! 甲高い唸り声が自慢のタチフサグマ!」
スカタンク → 「みんな、臭うけどいいよな! ふいうち、どくどくだ、スカタンク!!」
「ネズにはアンコールはないのだ! 歌も! 技も! ポケモンも!!」(ラスト1匹)
「おれもメンバーも出し切りましたよ。またいつか会いましょう……」(勝利時)
細い体でマイクを振り回しつつ、全身を使って歌を表現するネズさんにばかり視線を持っていかれながら、勝利。
ジムバッジを受け取ったタイミングで、バトルの様子を見ていたと思しきマリィからも祝福の言葉を貰います。
マリィは「意地でもダイマックスを使わず、よくやってきたんじゃない」と兄のことも称賛します。
そんな彼女に兄はジムリーダーを譲ろうと思っているようです。彼は今回の大会で引退するつもりであったらしく、妹にその座を継いでほしかったのですね。
ただ、マリィは断ります。
「だってあたし、チャンピオンになるけん。ジムリーダーできんよ」
きっぱりと言えてしまうこの態度、惚れ惚れしますね。
勿論、「色々背負っている」と口にしたことから、ジムチャレンジに参加した理由、勝ち上がらなければならない理由というのはスパイクタウンの復興にあるのでしょう。
ただ、ソニアさんのケースと同じように、彼女も最初は「町のため」としてジムチャレンジに挑んではいたものの、
徐々に「勝ちたい」「チャンピオンになりたい」という気持ちが、自身のために勝ち上がりたいという心意気が湧き上がってきたのではないかと考えています。
だからこそ、ネズさんの願いを「No!」と断り、チャンピオンになるために兄へ挑むとするという、その姿はとても眩しいものがありましたね。
ガラルは「特定の一人」に限定することなく、複数の子供、複数の若者が少しずつ成長していく姿が数々のイベントで描写されていて、
遊んでいる側としては「次は誰に会えて、どんな風に変わっていくのだろう」と期待しながら歩を進めることができ、とても楽しい思いをさせていただきました。
*
さて、スパイクタウンを出ようとしたところで、開いたシャッターの向こう側から人が飛び込んできてちょっとした騒ぎを伝えてくれます。
野生のポケモンがダイマックスするという事態が発生し、チャンピオンのダンデさんがリザードンと共に戦っているのだとか。
西に伸びるルートナイントンネルを潜り、野次馬のような人の波を掻き分けつつ先へ進んだところでホップと合流。
7番道路に戻ってきて、更に西へ進み、ナックルシティでようやくダンデさんと、あとソニアさんとも会うことができました。
ソニアさん曰く「赤い光が溢れて……パワースポット以外でポケモンがダイマックスした」とのことで、再び赤い光が溢れ出してしまわないかと案じているようでした。
そこへマグノリア博士も現れます。おお、なんだか豪華になってきました。クライマックスも目前、といったところでしょうか。
どうやらこの事態について、ローズさんからの呼び出しに応じ、ダイマックスとの因果関係について色々と尋ねられていたとのことでした。
「何か判明したことは?」とダンデさんが尋ねますが、
「さあ? 委員長は、エネルギーは大事だからと秘書に任せっきりでしてね。データが足りないのですよ」
と、かなり不穏なことを口にされました。
その後、マグノリア博士はソニアさんに「ブラックナイトのことを引き続き調べるように」と指示を出します。
ホップは「なあ、オレ達にもできること、あるかな?」と主人公に尋ねます。
あるよ! or 手伝う! と選択肢が表示されるのですが、おそらくどちらを選んでも同じでしょう。前回と同じように、ダンデさんにやんわりと断られます。
「サンキュー! 君等の気持ちは有難く受け取るぜ! だがオレの願いは最高の決勝戦なんだ! オレが未来を守るから、ジムチャレンジを勝ち上がってくれ!」
此処まで主人公が「守られる側」に徹しているというのも珍しいことですよね。
そのご厚意は本当に、本当に有難いものなのですが、此処まで主人公を危機やトラブルから隔離しておかれてしまうと、今後の展開がやや心配になってきますね。
最終局面での戦いに、どうやって主人公を引っ張り出してくるつもりなのでしょう?
それともまさか、今作ではずっと事態を鎮圧するのはダンデさんで、主人公はただの子供としてチャンピオンになるだけで終わってしまう、とか、そういうことなのでしょうか?
BW以降のシリーズでは、主人公が特別たる理由が、少々理不尽ながらもしっかりと描写されていましたよね。
それ以前のシリーズでも、かなり序盤から悪の組織と対峙してきたこともあり、事態の鎮圧に主人公が動くのが当然、といった、いっそ刷り込みにも似た現象が起きていました。
けれども今作はどちらのケースでもなく、本当に主人公がただただ子供であるばかりです。ここからナユはどうやって成長していけばいいのでしょう。悩みどころですね。
*
さて、都合よくナックルシティに戻ってきました。この町にこそ、最終のスタジアムがあり、この立派な城めいたところでキバナさんに挑むことになるのですよね。
町の人々の声援を浴びつつジムミッションの受付を済ませると、いきなり宝物庫へと案内されます。
あれ? いつものアトラクションは? と思っていたのですが、これにはどうやらキバナさんなりの、というよりは最終のスタジアム特有の事情があるようです。
「残っているジムチャレンジャーは、ほう……10人もいないのかよ」
スマホロトムを確認しながらキバナさんがそう呟いていました。
7つのジムバッジを手に入れることができたチャレンジャーというのは、そう易々と現れるものではないのですね。
そんな数少ない挑戦者の実力を見極めるために、キバナさんは3人のジムトレーナーとダブルバトルをするようにと主人公に指示します。
ヌメイルやガメノデス、ジャランゴなどの懐かしいポケモン達を倒しつつ、3人を撃破したところでいよいよ本命のキバナさんと戦うことができます。
舞台は宝物庫からいつものスタジアムへ移り、さあ、戦闘です!
「さてさて、ようやく戦えるジムチャレンジャーがオマエとはな!」
あっ……ごめんなさい。と思わず声に出てしまいました。
おそらくですが、ダンデさんのライバルであるキバナさんは、彼の弟であるホップこそが一番に此処を訪れるはずだと信じていたのではないでしょうか。
勿論彼は良識のある大人ですから、見るからにがっかりしたりはしませんが、その「意外性」がこの台詞に滲んでしまっているあたり、
一番に来てほしかったのはナユではなかったのでは、という思いがこの一言だけですっと出てきてしまいましたね。
けれどもキバナさんは本当に良識のある素敵な大人ですので、「流石はダンデが見込んだポケモントレーナーということか!」と、素直に主人公の勝ち上がりを称賛し、
「ダンデに勝つということがどれだけ難しいかオレ様が教えてやる(要約)」と告げて、全力でバトルをしてくださいます。
やっぱりかっこいいなあこの人。
ジムトレーナーとの戦いで予想していなければいけなかったのですが、キバナさんとのバトルはこれまでのジムリーダー戦と異なり、ダブルバトルでした。
天候を操る戦い方を好んでいるとのことで、彼との戦いでは砂嵐が吹き荒れています。
手持ちはフライゴン、ギガイアス、サダイジャ、そしてキョダイマックスするジュラルドンです。
ジュラルドンのキョダイマックス姿は高層マンションのようでしたが、後に捕獲したところ、これは「摩天楼のような」と図鑑で表現されていましたね。
シールドの図鑑では「地震にも強い構造」と書かれていたのでもう完全に建物ですね。住みたい……。
「吹けよ、風! 呼べよ、砂嵐!」(すなおこし発動時)
「荒れ狂えよ、オレのパートナー! スタジアムごと奴を吹き飛ばす!」(ダイマックス時)
「もう一度、吹けよ、風! 呼べよ、砂嵐!」(こちらのダイストリームで攻撃後、雨が降るが、サダイジャの特性「すなはき」により再び砂嵐になった場合)
「いくぜ……竜よ吠えろ! 必殺! キョダイゲンスイ!」(キョダイ技発動時)
「オレ様、負けてもサマになるよな。記念に自撮りをしておくか……」(勝利時)
サダイジャの執念により再び砂嵐になったシーンでは爆笑してしまいました。キバナさん砂好き過ぎじゃないですか!
あと、彼のモーションでは傍らでスタイリッシュに浮遊するスマホロトムの可愛らしさも目立ちました。
ダイマックス時にはキバナさんがカメラ目線になり、ロトムがしっかりと撮影。敗北した際にはキバナさんの背後で「残念!」といった表情を見せます。
SM/USUMのロトム図鑑が「喋る」という仕様は個人的にしっくりこなかったのですが、このスマホロトムはとても馴染みます。素敵です!
勝利後、悔しさを露わにしつつも明るくナユを祝福してくれます。いい大人だなあキバナさん、本当に素敵な人だと思います。
ジムバッジとユニフォームを受け取ると、スタジアムにホップが姿を現します。
「キバナさん! あなたの強さ、オレに示してもらうぞ!」
「来やがったな、ダンデの弟よ!」
ああ、嬉しそう! ホップが来てくれて本当に嬉しそう! 私も嬉しい! やはりホップは転んでもただでは起きなかった。やったぜ!
ソニアさんも、マリィも、ホップも、それぞれ異なる強さを自身のものとして変化していきましたね。
その様子が今作ではとても鮮やかに、けれどもしつこくなく描写されているので、遊んでいて本当に心地が良い。ええ、心地が良い!
キバナさんと再戦を約束して別れ、外に出ます。
10番道路というところを抜けて、8つのジムバッジを手にしたチャレンジャーだけが参加できるトーナメント、その開催地であるシュートシティに赴きましょう。
2019.12.9
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