Afterword2:サイコロを振らない

後書きの2ページ目ですが、こちらでは当連載だけでなく「アピアチェーレ」「片翼を殺いだ手」「サイコロを振らない」のBW2三連載について、
各シリーズの主人公たちの立ち位置や在り方を本編と照らし合わせながら、簡単に振り返らせていただいています。


1、トウコ(BW主人公)とN
「私の世界は私とNを中心に回っているのよ」「私は私とNの世界が守られていればそれでいい」
アピアチェーレでは口癖のように繰り返していたトウコの世界が開かれていく過程。それを「片翼を殺いだ手」「サイコロを振らない」で書かせていただきました。
逆にNの世界は「モノクロステップ」の段階から少しずつ広がっています。ポケモン寄りの生き方をしていた彼が、人らしくなっていく様を随所で書くように心掛けました。
彼等の登場シーンで特筆すべき回があるとすれば、この辺りだと思います。

1、片翼8話「私はあんたと違って、誰もを想うことはできないの。……ごめんね」(トウコ
2、片翼11話「どうかしているわ。あんたも、Nも、……きっと、私も」(トウコ
3、サイコロ6話「人の心を読む方法は、トウコが教えてくれたよね?」(N)
4、サイコロ39.5話「誰も悪くないんだ。シアもそれを解っている。誰もが誰もを想い過ぎた結果だと、カノジョも知っている。だからキミを責めなかったんだ」(N)
5、サイコロ57話「私はずっと、こう言ってほしかった」(トウコ
6、サイコロ64話『キミの世界はもうずっと前から、ボクとキミだけのものではなくなっていたのだろう?』(N)
7、サイコロ74話「私だってただの人間よ。不安になることなんて沢山ある。あんたにはそうした部分を隠していただけ」(トウコ

トウコは強がりです。気丈に振舞いながら繊細で、豪胆に世界を閉ざしながらどこまでも臆病です。
そんな彼女の世界は、そこへ土足で踏み入るようなことをしないと、開かれないままだったのでしょうね。
それを解っていたから、チェレンやベルは無礼を承知で踏み込んだのだと思います。彼女は閉ざした世界とようやく和解し、自ら世界に関わることを選びます。
けれどそうした繊細な部分を、トウコは決してシアには見せません。それはシアに対して一線を引いているからではなく、彼女がシアの先輩だからです。
気丈で、何事にも動じない姿勢を、彼女はシアに見せ続けていた。それも彼女の一部であったのでしょうけれど、他の部分は敢えて隠していたに過ぎなかった。
そうした「先輩」としての模範的な姿は、これからのシアにいい影響を与えていくでしょう。


2、コトネ(HGSS主人公)
彼女の立場は至ってシンプルです。「親友であるトウコちゃんが傷付かない道を選びたい」という、ただそれだけのことです。
けれど彼女は、シアクリスの夢物語に自ら関わることになります。彼女の背中を押したのは他でもない、彼女自身の旅の記録です。
詳細は「ミルクパズル」の話になってしまいますが、簡単に言えば、
「彼女もシアと同様にそうした組織を解散に追い込んだ人物であり、そのせいで居場所を失った人物がいることにも気付いていた」
という、シアとの共通点が、彼女を今回の協力に駆り立てたのだと思います。
けれど、彼女の原動力は他でもない、親友のトウコです。彼女がシアに協力する姿勢を見せたから、私も、と腰を浮かせたというのが大元の理由でしょう。
彼女はそうした、良くも悪くも純粋な子ですから。


3、トキ(ORAS主人公)
シルフカンパニーの社長令嬢である彼女ですが、存在の示唆自体は片翼後編の1話で行われています。
BW2の三連載において、彼女はその地位と簡単な人格を示すのみに留まっています。彼女の物語もまたいずれ、書くことになるでしょう。
人の情というものの優先順位が彼女の中で限りなく低い、その理由についても、彼女が主人公となったときに明らかとなるはずです。


4、クリス(クリスタル主人公)
少し異端な人物として登場させたこの女性、モデルはゲームボーイカラーのソフト「クリスタル」の女性主人公です。
「青の共有」で見事、弁護士となった彼女の活躍を、後編では大きく取り上げました。
シアの意志に強く共鳴し、自分の全てを捧げてまでその夢物語を叶えたいと望んだ彼女の奔走劇を中心に、サイコロ後編は進んできました。
奔放でマイペースなところのある彼女ですが、その内に秘めた熱意はシア以上のものがあったのでしょうね。

それから、これは余談ですが、彼女をN並みの超人物として設定したのは、彼女が「ポケモン」における初の女性主人公であることに由来します。
初代のレッドさんが生ける伝説となっているように、「はじめて」の持ち得る特異さを、前面に押し出した結果、このような「神童」の主人公が出来上がりました。
感情移入のできない人物として書いているので、ああ、この子はちょっと違う人間なのだなと割り切って頂ければと思います。
けれど、彼女も元を返せば一人の女の子ですから、人並みに感情を持ち合わせています。そうしたあれこれを今後は……もう少し詳しく描写していきたいですね。


5、シェリー(XY主人公)
プラズマ団に属していた少女を此処で登場させました。修正前よりも、臆病な面をぐっと押し出す形で、弱々しいところを印象付けるような書き方をしています。
そんな彼女の旅路を「神の花」では書いていこうと思っています。


6、シア(BW2主人公)
「アピアチェーレ」以降、何をすべきか解らず彷徨い続けていた彼女の様々な歪みと嘘が、ようやく前を向けるまっとうなものとして世界を変えるに至りました。
その力を与えたのはクリスですが、彼女の意志がなければ始まることすらなかったのですから、
やはり彼女の強欲と傲慢は今回の物語において大きな意味を持っていたのでしょう。
これまで「後輩」「子供」として走り回っていた彼女ですが、「神の花」以降は「先輩」として振舞うことになります。


最後に。
当連載では、興ざめする程に多くの主人公を登場させました。というのも、当連載がこの「First World」で見たところの「境界線」となるからです。

先ずはクリスコトネトウコですが、彼女たちの物語はこのサイコロ後編でひとまず終わりを迎えます。
一方、シェリートキの話は此処から広がっていきます。彼女の旅路はまだこの先の時間軸に伸びている状態ですね。
当連載は、クリスコトネトウコの物語の締め括りであると同時に、シェリートキの物語の幕開けを示すものとなっています。
シアについてはまだ前者に振り分けることをせず、かといって後者のようにこれから主人公として旅立つということもせず、
このBW2三連載におけるトウコクリスさんのような立場から、あらゆる時代や地方でその物語を少しずつ進めることができれば、と思っています。

(2019年11月 追記)
この連載を完結させた数年前、シアへの「もっと大きな夢をもって羽ばたいてほしい」という個人的な思い入れがあったが故に、
彼女をこれ以降のXY、ORASなどの物語へ続投させることを決めていたのですが、
いざ投入してみると、それは彼女の「活躍」を書くためというよりは、彼女の「挫折」を書くためであったという方が正しいように思います。
誰もが今回のシアのように「恵まれた環境下で」「最大の勇気と知恵を奮い」「大切な人を全て救う」ことが叶う訳ではありません。
大袈裟な書き方をするならば、これまでの彼女はまだ「世界のままならなさを知らず」「それ故に人間らしい苦しみを経験し尽くしていない」のだと思います。
彼女がそうした苦悩を味わうことは、支えられる側であったこれまでの物語ではどうにも難しいことであったため、
その苦痛、その後悔、その絶望、その悲哀は、これ以降の物語でなければ書くことが叶わないものでした。

この「シア」という、強欲かつ傲慢な主人公があらゆる連載にこれからも顔を出すという状況は、あまり歓迎されるものではなかったと思いますが、
彼女をそうした「誰もを救うことの叶った傲慢で強欲な主人公」で終わらせることなく、その後の暴走が故に引き起こした悲劇まで書くことができた、
……という点において、私は、それなりに満たされてしまっています。
だって、人間って、そんなかっこいいだけの存在であるはずがありませんものね。
(追記分終了)

では、これくらいで締めたいと思います。いつものことながら、長々としたあとがきに目を通してくださり、本当にありがとうございました。
これからもどうぞ、彼女たちの旅路を見守って頂ければ幸いです。


(補足)
シアが海底遺跡で読み解いた、ロ短調の「花の歌」ですが、これはXYのゲームで登場する、とあるBGMのメロディを歌ったものです。
曲名は「AZ」。
本編での海底遺跡の描写や楽譜の古代文字などについては完全なる捏造ですが、私は、……私個人は、この曲をずっと「愛の歌」として認識していました。

では、叶うならばまた、次の物語で会いましょう。

2015.8.28 葉月(2019.11.19 追記)
I will never give up on writing words, as long as you keep on walking with me.

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