「それで? そのツイステットワンダーランドっていう世界から貴方は、私を探しにやってきてしまったんですか? もう5年も前の話だっていうのに? 私がその世界のこと全て、忘れてしまっていることなど想定もしないで?」
けれどもその、随分と捻くれた口ぶりはあの頃と一切変わっておらず、ああ貴方だと思えてしまったので、ジェイドは嬉しくて嬉しくて嬉しくて、笑ってしまったのだ。
「ええそうですよ。何年かかったとしても、貴方に忘れられていたとしても、それでもいいと思える程度には、大好きだったんです、貴方のこと」
「……そうですか。もしそれが本当ならとても嬉しいことですね。世界さえ飛び越えて迎えに来てくれるほど、貴方に愛されていたなんて。思い出せないのが本当にざ、んね……」
彼女は大きく目を見開いた。純度の濃い驚愕の表情だった。ポタポタとアスファルトに歪な染みが落ちていくのをジェイドは他人事のように呆然と見下ろしていた。
「こんな私に会えたことが、そんなに嬉しいんですか? 私の不在の5年間は、そんなに寂しいものだったんですか? 泣いてしまう程に? 耐えられない程に?」
「いいえ。……いいえ違います。僕と友人の力をもってすれば、世界を飛び越えて貴方を追うことだって不可能ではないと思っていました。いつか必ず会えるという確信が僕を此処まで連れて来てくださったんです。貴方に会えることも、数年はかかるであろうことも、想定内です。そのようなことで僕は泣いたりいたしません」
「でも、泣いているように見えますよ」
「ふふ、何故泣いているんだと思います?」
「……ごめんなさい、分かりません。だって私、貴方のことは何も思い出せないんです」
「ではこれから覚えてください。僕は貴方に、僕の愛を認めてもらえたことが嬉しくて泣いているんですよ。5年前の貴方は……頑として受け取ろうとはしなかったから」
すると彼女はニヤリと笑った。それはあの世界でついぞ見ることの叶わなかった、ひどく「相応しい」笑顔であるように思われた。
「それじゃあきっと私、貴方のこと大好きだったんですね。疑って否定して拒絶して、それでも差し出し続けてくれるものでなければ信用ならない程に、貴方を愛してしまっていたんですね。それはもう、死んでもいいと思えるくらい!」
ああそうだ、相応しい。その笑顔ができる貴方こそ、ツイステットワンダーランドに相応しい。
「……お願いします。どうか、僕の手を取ってください」
「えっ? ……今ですか? 別に構いませんけれど、私、どうなってしまうんでしょう? 手を取ると、すぐにでも連れていかれてしまう? それとも、あっという間に死んでしまったりとか?」
「もし、死ぬと言ったら?」
彼女はその笑顔のまま、手をそっと取った。真実になった「死んでもいい」こそ、何も覚えていないはずの彼女の魂が示した、5年越しの愛の証左に違いなかった。
さあ今度こそ握り返しましょう。貴方にもう二度と、この愛を切り捨てられてなるものか。