神秘的には違いないのですが、ぞっとするほどの不気味な美を感じずにはいられなかったのですが、まあそれはあくまで私達「陸」の視点。あの姿から変化して人間のかたちを取る彼等は、同じ存在だと思われていたはずの彼等にあの姿を晒すことに抵抗などなかったのかなあと考えてしまう。アズールアーシェングロットは我を忘れた時にしかあの姿になっていないものね。第四章でも変化せず、だったものね。彼は人前にあの姿を晒したくない訳だ。まあ幼い頃の好ましくない思い出がそうさせるのかもしれないけれども……。
普通にやばいフロイドと本当はもっとやばい方のジェイドに「羞恥」「劣等」の感覚があるのかどうかも定かではないけれど、同じ人魚であるはずのアズールが「人間」にも大いに共感し得る劣等感や屈辱や強欲を抱えていたことを考えるに、この二人にも人間に共通する心理が……あるような気がしてしまう。いやちゃうかな、自分たちにはない感覚だから、それを持ち合わせてあたかも人間らしく生きているアズールアーシェングロットのことが面白くて仕方ないのかなどうなのかな違うかな。
もし人間としてのそうした「ちいさな」感覚があるのなら、二人が人魚の姿を晒せたのは「二人だから」ということになる。羞恥も劣等も感じ得る生き物だけれど隣に片割れがいるからこいつと一緒にこの姿を晒すなら別に羞恥とか劣等とかどうでもいいかな、のパターン。あるいはもし「ちいさな」感覚がない場合はガチで最強の、本来の力を発揮できる姿へと変貌し「やっべえな人間って弱すぎ!」って嗤っているだけという……僕等は自らの体にデバブをかけてあなた方に合わせていただけなんですよんっていう……あっこっちだな、こっちの方がしっくりくる……でもこっちに寄せてしまうと今度はアズールアーシェングロットとの親和性が取りにくくなる……。
いやいやほんとに、ほんとに、ねえ、お前らどうなってんだ!? なんでお前等は三人でいられる!? 三人ってなんだよ三人の同級生なんてそんなトラブルと修羅場の権化みたいなのが上手くいくわけないんだよ本来は! だのに何故お前等はそんな安定している!? 何故!? ホワイ!?
ハーツラビュルは分かるんですよ。リドルとトレイとチェーニャの幼馴染トリオで、チェーニャだけ別れてロイヤルな方に行って、そこに入って来たケイトが付かず離れずみたいな感じでいてさ、リドルだけ一つ年下でさ、年下がトップに立ってさ、導いているんだよ。トレイもケイトもチート紛いのユニーク魔法と共に、上手いこと支えて隠して誤魔化して、でもたまに見抜かれ合ってさ、互いの狡さを突き合ってさ、この年長同士の絶妙な緊張感もよくあるやつ。ほら書いた覚えのある構図だ。ずいずい前へと走る年下とそれを支える年上とちょっと離れたところで見守る年上……よくあるよくある、まああんなゴミの掃き溜めよりずっとこのお三方の方が綺麗だけれどもね、うん、そう、この三人の形なら分かるんだ。友情ってのとは違うじゃん。でも綺麗に収まっているからハーツラビュルはハーツラビュルで美しい。彼等の構図は美しい。理解はできるけれど実現は不可能であると思わせる、見えているのに届かない、美しさ。うん、よくある。こういう楽しみ方を普通はする、少なくとも私の普通はこっち。
でもこのオクタ深海トリオの美しさの根源はほんまに分からん。読み解けない。ふせって動けなくなっていた数週間の間にだいぶいろんな二次創作とかゲーム内のパーソナルストーリーとか見て回ったりしたけれど、百を超える感想や他者様のご考察に触れてきたけれど、自分で何通りか彼等の心理パターンを考えてみたりもしたけれど、それでもよく分からん。なんでや……なんでこれでうまくいく……おかしい……すごい……。どのご考察も合っている気がする。でもどんな風に捉えたとしても、その出来上がった枠組の後ろからぬっと顔を出した彼等がクスクス笑いながら「たったこれっぽっちで僕等を理解した気になって」「おやおや」「つまんね」と囁いている気がする。そういうとこやぞオクタヴィネル。見えないんだよ。見えないのに届かないのに美しいということだけが分かる。なんだこれは!? 訳分からん! 普通じゃない! 少なくとも私にとってはお前等まったくもって普通じゃない! 分からない、分からない!
この「よく分からないけれどオクタだから上手くいっている」を「らしく」言い表すと「やっぱり質の悪さってものがないと、友達なんてやっていられないんだね」になるワケなんだ。私が100回生まれ変わっても手に入れられないであろう理想の形が此処に在る。理解できない美しさがあの三人にはある。
いやほんと人魚って恐ろしいね! 人魚なんて本当は何処にもいないってところがいっとう恐ろしいね! 幻想の存在! 幻想の友情! 幻想の絆! でも本当にあるような気がしてくる! 見ることも理解することもついぞ叶わなかった癖に、それでもその美しさに救われている! こんな綺麗な概念……フィクションがあってええんやろか。泡になってしまえ。