ひぇ、むずかしい(砂一番)

 溺れている、溺れていく。ゴボ、ゴボ、と鼓膜を抉る音がする。くすぐったい。心地がいい。ずっと聞いていたい。見渡す限り、聞き渡す限りの砂の中、己の心臓さえ熱い粒まみれにしてしまえたらどんなに嬉しかろうとさえ思う。
 それが幻想であることを知っているから、いつもいつでも其処にいられる訳ではないと心得ているから、彼はゆっくりと目を開けて夢から浮上していく。

 此処はシュートシティのホテルに大きく構えられたパーティ会場であって、スタジアムのバトルフィールドではない。その身を包むのはお高い料理と上品なアルコールの匂いが混ざっためでたい空気であり、己が心臓を射殺すあの砂ではない。その大きな手に握られているのは、シャンパンの注がれた細長いグラスであり、サダイジャの入ったハイパーボールではない。故にこの時この場所において、トップジムリーダーたるキバナが取れる行動、その選択肢はあまり広くない。ふわふわとした笑顔のままに会場を練り歩いては、見知った顔を見つけてちょっかいをかけ、欠いた砂の分を埋めるべく楽しい思いを補充していくのが関の山である。

 キバナさんはもっとコミュニケーション能力というか自身の心地を盛り上げる力に長けているはずなのにどうして私が書くとこんなちょっと所在ない感じになってまうんや! ゆるして!

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