CPUわけっこ(DBHパロ)

「怖いことがあったんだね。大丈夫だよ、ほら手を貸して」

頬に大きな傷を作った子供型のアンドロイドが公園の隅で震えている。こめかみ部分のLEDが赤色にチカチカと瞬いている。
尋常な様子ではない、ということくらいは人間の目にも分かるが、だからといってどうしてやれる訳でもない。普通はそうだ。そういうものだ。
けれどもその震えるアンドロイドと同じ種族であるコトネに人間の「普通」は通用しない。アポロの静止を聞かず、彼女は迷いなく子供の元へと駆け寄っていく。
膝を折り、気遣うように言葉を掛けて、両手を差し出す。震えるアンドロイドの両手がおずおずとそこに合わさり、しばらくすると皮膚が溶けるように、消える。

「……」

姉代わりを務める人間の女性、クリスにとって、この異様な光景は日常茶飯事であるのか、特に驚く様子を見せずに二人を静かに眺めている。
消えた皮膚の下に淡く灯る白い素体、彼等がプラスチックの塊であることを否応なしに突き付けてくるその色へ、徐々に、徐々に青が混じる。
彼等にとっての血液であるシリウムが素体の下で発光しているのだとすぐに分かった。
二者の手の平をシリウムの青がくすぐり合うように動く様はとても奇妙に見えた。否応なしに「人間ではない」のだと突き付けてくるその眩しい青に、アポロは少し寂しい心地を覚えた。

貴方は、そうは思わないんですか。
そう問いかけるように、同意を求めるように、否定を恐れるように、アポロは隣に立つクリスの横顔を見る。視線に気が付いたらしい彼女は、彼の手を取り指で文字を書く。

『アンドロイドの変異の多くは、恐怖をきっかけとして起こると言われているようです。
人間でも持て余し、振り回されることの多いそのネガティブな感情を処理できずに、ストレスレベルを下げられないままでいるアンドロイドも少なくないのだとか』
「……あの子供もそうだと?」
『ええ、だからコトネは駆け寄ったんです。シリウムを介した通信を行うことで、感情を共有している。あの子の恐怖を引き取っているんですよ』

共感、ということだろうかとアポロは思った。けれども人で言うところのそれとは何もかも違うのだろう、ということは彼にも容易に分かってしまった。
人が為す「共感」というのは「思いやり」に近い。他者の苦悩や恐怖を推し量り、想いを寄せることはしているが、それを我がこととして実際に感じている訳ではない。
人の感情というのは、良くも悪くもその人だけのものだ。そのまま明け渡したり奪い取ったり共有したりできるような代物であるはずがない。

けれども彼等アンドロイドにはそれができる。テキストファイルをコピーする要領で、原型の一切を崩すことなく、一言一句違わずそのまま伝えることができるのだ。
その媒体となるのがあの、淡く輝く青いシリウムであり、彼等はああして素体を触れ合わせるだけで、人間が決してできない、完璧な「感情の共有」ができてしまう。
共感、共有、それらが安堵めいたものをもたらすのは人もアンドロイドも変わりないようで、
しばらくそうして「感情」というデータの遣り取りをしていた男の子のLEDは、異常を示す赤色から、黄色い点滅に、そして正常の青に変わっていく。
コトネは文字通り、彼の恐怖を引き取ることに成功したのだ。

「……成る程、貴方は寂しかったのではなく、羨ましかったのですね」
『あれ? どうして分かったんですか?』

貴方には心理スキャンの機能が搭載されているのかしら、と笑う世間知らずの彼女に「顔色を読む」という言葉の意味を教えてやらねばならない。
そう思いながらアポロは笑った。コトネは落ち着きを取り戻した赤い髪の男の子の手を引いたまま、こちらへと戻って来た。

「ねえ、私、この子とも一緒に行きたい!」

(アポロさんを人間にするかアンドロイドにするか迷っているけれど今回は人間として書いてみました)
1ミリの誤差なく感情が「そのまま」共有されるというのは、人間には絶対に不可能な芸当で、
つまりアンドロイドという種族は手を重ね合わせて素体による通信を行うだけで、所謂「魂の双子」みたいな心の同調ができてしまうということでそれすなわち

最高では?

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