「溺れた太陽の話」改め「見えないものを愛した彼等の話」ようやく、ようやく完結です。お、お待たせしました……。本当に、お待たせしました……!
思い起こせば11月、HGSS組の連載をやって欲しいとアンケートで多数のリクエストを頂き、始まったこのお話ですが、ええ、どうしてこうなった。
最早HGSSの欠片もない、オリジナルストーリーとなってしまっています。どういうことなんですかね。
しかも10話完結とか言いながら40話近い量になるだなんて誰が想像したでしょうか。ええ完全に予想外です。ちょっとどういうことなの……。
しかも年内に完結させるつもりだったのに何ですかこの体たらくは!2月どころか明日からもう3月ですよ!
……実はこれ、元々は16話くらいで締める予定だったのですよ。ええ、バットエンド極まりない終わり方をする予定でした。
それから後のことは本編(シアちゃん)に頑張って貰おうかな、とか思っていました。
なのにどうしてこうなったかというと、コトネをシアに並ぶ「もう一人の主人公」にしたかったからです。
HGSS、並びに金銀クリスタルには個人的に物凄い思い入れがありまして、彼等のお話は丁寧に丁寧に書いていきたいなと思っていたんですよね。
なので夢小説という趣旨から大きく逸れてはいますが、コトネの精神的成長や視野の広がりをじっくり書くことに力を入れました。
その結果が17話以降のあのぐだぐだした感じです。ええ、笑ってやって下さい、はは……。
ではいつものように一つずついきます。
1、霊感、ゴーストの設定
オリジナルの要素を詰め込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした。
読み辛いところなど多々あったかとは思いますが、こうして最後までお読み頂き本当に嬉しいです。ありがとうございます。
魔法学校の原作を見ていて「あれっ、全員にゴーストが見えるのっておかしくないか?」と思ったのがきっかけです。
「空を飛べない」ではゴーストを認識出来るか否かはその人が生得的に備えている「霊感」によって決まるのだという、そんな無茶苦茶な設定でした。
本当に、申し訳ありませんでした……。
今回登場した人物の霊感を強い順に並べると、
コトネ(Yが見える)、トウコ(Yは見えないが大抵のゴーストは認識する。Kも見える)、N(Kが見える)、シルバーとクリス(霊感が皆無)という感じです。
普通の学生や教師の霊力はNくらいです。
コトネが一番強い霊力を持っているということで良いのか、という点につきましては、こちらの方で答えることは控えさせて頂きます。
おそらくコトネよりも霊力の強い人間はいませんが、それに匹敵する(つまり、Yが見える)人間はいますよということだけ呟いておきます。
本編主人公であるシアちゃんの霊力はどのくらいなんでしょうね。まだ決めていないなんてそんなまさかね。
2、コトネ
一言で言うなら「歪んだ子」です。
とってもアンバランスに育ってきた、危なっかしくて不器用で、理不尽の許せない、でも一人が怖いただの人間。それがコトネです。
12才ということで、思春期への扉を開く手前の頃ですね。うん、一番難しいのは15から18くらいなのですがね。
しかし女の子なので、ちょっと早い時期からこういうコンプレックスと向き合う下地は備わっているんじゃないかな、と思っています。
ここからは個人的な語りが多くなってしまうので、お付き合い頂けるという方だけどうぞ。
当サイトの女主人公達はどの子もちょっと変わっています。その中でも、コトネは群を抜いて個性的であるという自覚があります。
しかし一番有りがちなパターンかな、とも。
彼女が求めていたものは「自分を支えてくれる揺るぎないもの」であり「自分を評価し、肯定する為の揺るぎない価値」です。
しかしそんなもの、この世界の何処にもないんですよね。それは私達がリアルに生きている世界でも同じです。
人生は往々にして無意味で無価値なものです。絶対的なものなど何処にもないのです。
それでも、私達は生きていかなければならない。
その為には膨大な知恵と経験が必要だと、私は思っています。
「生涯学習」は、自分を支えてくれるものを一生をかけて構築していく作業なのかな、とも。
さて、しかしそうした知恵ないし経験を持たない人間が生き抜くためには、そのない筈の価値を相対的なところに見出すしかありません。
誰より優れているか、何人中何番であるか、誰に認められているか、など。
今回のコトネがその最たる例であり、彼女は自分の指針を持たないが故に、それを外の世界に探し求めるしかありませんでした。
自分が周りにどう見られているかが気になって気になって仕方ない。
誰かが自分を笑っているのではないかといつも怯えている。
彼女はそうした子です。自分を支える知恵や経験を持たない人間が陥りやすい罠です。でも、ほら、ありがちでしょう?
しかしその方法には無理があります。何故なら相対的なものは日々変わっていくからです。世界はその人一人を中心として回っているのではないからです。
同じように誰かの世界も誰かを中心に回っていて、故にその「誰か」を揺るぎないものとすること自体が間違っているのです。
何故なら外の世界は「揺らぐ」ものだから。
だからこそ世界に意味を名付けるのはとてつもなく難しくて、それでも私達はその世界を生きなければならないから。
そんな子が、自分を認めてくれる揺るぎないものを自分の中で「決定する」とどうなるでしょうか。
依存します。
揺らがない筈のないものを、どうにかして同じところに留めておきたくて、自分の安定を守るためにそうするしかなくて、ひたすらにその人一人に縋ります。
そうした閉鎖的な人間関係はとても疲れるものです。本質を歪めようとする行為は、相手をコントロールしようとする欲求をその人の中に生みます。
そうした醜い感情を綺麗な言葉で飾るのは本当に簡単です。
「信じている」「親友」「裏切らない」「好き」コトネが散々、多用してきた言葉ですね。
こうした閉鎖的な人間関係を求められた時、相手が取れる行動は2つしかありません。
すなわち「私は貴方の依存の相手にはならない」と相手を徹底的に避けるか、
もしくは「私も貴方なしでは生きていけなくなった」と共依存に陥ってしまうかのどちらかです。
Yは自分の立場が下さざるを得ない、この2つの選択肢が見えていました。
だからこそ彼女は、コトネのことを大切に思っていた彼女は、そうした選択肢のどちらもを取りたくなくて、迷います。それが6話~8話辺りです。
結果的に、彼女が結論を出す前に彼女の体力の限界が訪れ、その役目をKが果たすことになってしまいました。
皆さんは、このコトネのことをどう思いましたか?
そんなことはあり得ないと笑いましたか?自分と重ねてみましたか?不甲斐無い主人公に呆れて途中で読むのを辞めましたか?最後まで彼女を見守って下さいましたか?
そのどれもが正解だと思っています。何故ならこうしたお話を読んで頂き、それに対して固定した感想を求めること自体が無理な話だからです。
読み手さんの世界は読み手さんを中心に広がっていて、だからこそ一人一人に個性があって、だからこそ、私は皆さんのご感想を読むのがとても楽しいです。
そうした「揺るぎないもの」はとても不安ですが、その反面、楽しいものでもあるのかもしれません。
コトネはそのことに思い至らなかった。しかし12歳である彼女にそれを求めるのは酷な話です。
結局のところ、今回の出来事は、知恵と経験を持たない彼女に起こることは必然だったのかもしれませんね。
「冷たい羽」はコトネという、何処にでもいる危なっかしい女の子の成長を追った物語です。
彼女の変化は数えきれないので、此処で纏めることは避けます。
しかし今回の件で彼女は、Yが7話で言ったように「世界の広さを知った」のだと思います。
それぞれの人間にそれぞれの世界が展開されていること。私達の価値はどのようにでも揺らぎうること。
だからこそ、そこに自分の価値を見出すことはとてつもないエネルギーを必要とすること。そうした閉鎖的な人間関係は双方を疲弊させること。
……本当に書ききれませんが、コトネは関わってきた優しい人達の中で、大切なことを知り始めています。
きっとこれらは、彼女がホグワーツに入学して直ぐになされることだった筈なんですよね。
それを妨げたのが彼女の持つ莫大な霊感であったことは否めませんが、遅かれ早かれ、危なっかしい彼女はこうした壁にぶつかっていたでしょうね。
それでも幸い、彼女は周りの人間に恵まれています。きっと何とかなるでしょう。今までもこれからも、だって彼女は一人ではないから。
3、シルバー
そんな彼女を全てにおいて支えたのが彼です。
彼はサカキ先生の息子で、エリートの道を歩いてきた完璧な男の子でした。
余談ですが、彼はHGSSの4幹部から「坊ちゃん」と呼ばれて可愛がられている……という設定があります。
サカキ先生が多忙なため、カントーの実家では独り暮らしをしていました。4幹部あたりが交代で様子を見に来ていた……もとい、親代わりをしていたりしたらいいなという妄想。
大人と関わる機会が多かったため、妙に成熟した考えをするようになったのだと考えて頂ければと思います。それはさておき。
自分よりも危なっかしい彼女に、成績やクディッチ、バトルなど、全てにおいてあと一歩敵わないという事実は、彼にとって「好奇心」の対象となりました。
シルバーは成績優秀者の欄に彼女の名前を見つけたことをきっかけとして、彼女と関係を築いていくことになりますが、
結果として、彼はそうしたコトネの持っているものではなく、コトネ本人の人格に惹かれていきます。
「まさか。お前は危なっかしくて飽きる暇がない。」とは彼の本心です。彼は純粋に、コトネの隣に在ることを楽しんでいました。
そんな彼が、Yというゴーストの存在をどのように見ていたのかについて此処では言及します。
先ず彼がYと出会ったのは5話ですが、あの時既に彼は、コトネの友達がゴーストであることを知っていました。
しかしそれを隠して付き合うことを決心したのは、彼女がゴーストを異常なほどに嫌っていることを知っていたからです。
そんな彼女の前で「ゴースト」という単語を出すことすら彼には躊躇われました。
それに、ゴーストを毛嫌いしている筈の彼女が、満面の笑顔で「××」のことを「友達」だと呼んだという点に、彼はある種のアンバランスを感じます。
このゴーストは例外なのか。彼女は何故ゴーストを嫌っているのか。にも拘らず、そのゴーストのことを「友達」と呼ぶのは何故か。
多くの疑問が浮上しましたが、それらは彼女をミステリアスにするものでこそあれど、彼の中でコトネへの嫌悪を生じさせる要素にはなりませんでした。
彼はある時には遠巻きに、またある時には近くでコトネのことを見守るようになりました。
それはアンバランスで危なっかしい彼女に好意を抱かせるに十分な時間でした。
37話で彼も言っていますが、コトネとシルバーは相性が良いんでしょうね。
これ程までに危なっかしい人間を支えるには、かなりの器の広さが必要だなというのもありましたが。
10話辺りまではコトネにとっての二番手に甘んじていた彼ですが、18話からは一転、彼女を誰よりも近くで支えるために奔走することになります。
「見えなきゃいけないのか?」という9話の発言と、
「見えないものでも確かにそこにあるって、コトネが教えてくれたんじゃないか。」という22話の発言が要かな、と思っています。
前者に関してはそのままです。霊感が皆無である彼だからこその発言だと考えていますが、
「だから、見えないからと俺の認識に見切りを付けないで欲しい。」という、ちょっとした懇願も含まれていたのでしょうね。
シルバーにはゴーストは見えませんが、それが世界の共有を諦める理由にはならないと彼は言っているのです。
何故なら人は伝えることが出来るから。相手はそれを信じることが出来るから。
それから後者ですが、彼が信頼を置いているのはその物事ではなく、その物事を紡いだコトネという「存在」です。
見えないものは信じられないかもしれないけれど、コトネのことは信じられる、とはそういうことです。
自分にも他人にもある種の厳しさをもって接する彼が、コトネの努力を認め、尊敬しつつも、その危なっかしさを放っておけなくて隣で歩を進めるに至る。
簡潔にまとめるとこんな感じです。
2014.3.2
まだ続きます。