スイカとレタスの間

(ポケモン要素皆無)

立派な木目模様に似合わない、ツルツルとした肌触りの心地よいテーブルだ。
かなりの大きさがあり、4人で座ることもできそうな家族用のそれに、しかし椅子は2つしか用意されていない。
窓側に彼女は座る。その反対側にあたしが座る。東に面した窓からは朝日が煌々と差し込んでいて、彼女の輪郭を濃い黒で浮かび上がらせている。
逆光のせいだろう、いつもの彼女が妙に神々しく見える。彼女の「器」だけがひどくご立派に見える。
中身には血と肉と骨しか詰まっていないのに、生々しく臭く脆い生き物でしかないはずなのに、
此処だけ切り取ってみると、なんだか彼女が本当に、優しく美しい「概念」のようであるため、あたしは思わず笑ってしまう。
どうしたの、と首を傾げて飛んでくるそのメゾソプラノさえ、生きている者の紡ぐ音ではないようにさえ思われてくる。
そんな彼女の座る席から、暗いところを背景にしてなんてことのないように座っているあたしは、どのように見えているのだろう。

大きなテーブルの真ん中には、不思議な果物が真っ二つにされて、真っ白の、大きなお皿の上で揺れている。
その丸く大きな姿はスイカのようであるけれど、中身は赤ではなくレタスのような緑だ。
香りも、スイカのように甘ったるいだけのそれではなく、もっと、もっと水に近い、シャキシャキとした感覚を思わせるものだ。
味は、どうだろう。スイカのようにただただ甘いのかもしれないし、レタスのように野菜としての僅かな甘さが舌先をくすぐるだけかもしれない。

あたしの分のフォークは皿の端に置かれているけれど、あたしはまだそれを取ることができていない。
けれど彼女は食べている。……もう一度言おう。彼女は、食べている。彼女が、食べているのだ。
真っ二つにされたその果物は、都合よくその果実の分厚い皮の中で一口大に切り分けられているため、彼女はフォークをその果物の器の中に差し入れるだけでいい。
彼女はそれを、食べている。食べて「美味しい」と笑う。喉がこくんと震える度に彼女は嬉しそうに目を細める。
まるで、食べることに喜びを見出しているような、食事を楽しみとしているような、そうした見事な正常を装って彼女はそこにいる。
窓が生む逆光のせいで「概念」に見えてしまう彼女が、まるで「質量」であることを喜ぶように食べている様は、あたしを少しばかり混乱させた。

対極に在るはずの二つの単語を天秤に乗せて、それをつついて遊んでいる。
悪趣味だと思った。異常になるなら貫き通せ、とも思ってしまった。中途半端は、嫌いだ。
けれども、そのどちらにもなりきることができず、此処でスイカのようなレタスのような果物を延々と食べ続ける彼女が、まるで人間のようだったから、
そのややこしさ、どっちつかずの中途半端な在り方こそ、彼女が彼女である所以、彼女が「生きている」ことの証明であるように思われてしまったから、
あたしは彼女の概念も質量も異常も正常もすっかり許してしまって、彼女が此処にいてくれていることだけを喜んで、フォークを手に構える他にない、という有様なのだった。

あたしと彼女の間には、この不思議な果物がある。スイカともレタスとも取れそうな、大きな大きなデザートが二人の間で笑っている。
ではこのスイカとレタスの間には、一体、何があるのだろう。
あたしはその「間」を飲み下して、彼女のように「美味しい」と言えるのだろうか。

「明日は、雨だといいわね」

「そうだね、雨だといいなあ」

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