Afterword

「待ち続けた話」完結しました。ここまでお付き合い下さった皆さん、本当にありがとうございました。
前半はとにかく重かったですね。自覚はしております。
しかしそれは後半に至る布石ということで一つご了承下さい。

さて、今回も無駄話を重ねていきたいと思います。


1、赤と崩壊
XYの魅力はそのストーリーの惨さにあると(勝手に)思っているのですが、今回はそのストーリーの一番惨いところに焦点を当てました。
ゲームの主人公が一体どれくらい強靭な精神を持っているのかは解りませんが、少なくとも私なら赤のスイッチを押した段階で発狂します。
このお話では「赤のスイッチを押した時のそれ相応のショックを受けた」ということを前提にお話を進めました。
「花を咲かせた」とはそういうことです。

それから花が地中に戻り、崩れ去るところですね。
フラダリさんがどうなったのかは原作では明記されていませんが、何の説明もないところがまた惨い。
彼が地下に生き埋めにされたとか、そういう風にも捉えられてしまいますからね。
なので主人公がそうした「最悪のケース」を想定した場合として、今回のお話を進めました。
「あの人を殺した」とはそういうことです。

ちなみにこの2つもまた、「木犀」のようにif設定となっています。
神の花ではこのようにはなりませんのでご了承下さい。


2、甘え
さて、ここまで最悪の状況に立たされたシェリーを救えるのはもう彼しかいないでしょう。
彼には忍耐強く彼女に働きかけて貰いました。
ここで6話の展開が急すぎないかという声があるかもしれませんが、その通りです、急です。
しかし彼女の言葉が急なのであって、それに至る過程はちゃんとありました。

例えば2話ではシェリーはプラターヌ博士と目を合わせませんが、4話ではしっかりと彼の方を見ています。
その間に何があったのかと言われれば、それは博士も言っているように「時間」でしょう。
彼女には時間が必要でした。目まぐるしく起きた沢山の出来事を整理する時間、自分のしたことを振り返る時間。
彼はその時間をたっぷりと与えています。そして少女から少しずつ「言葉」を聞き出すことに成功しています。
しかしその間に彼女が錯乱してその身に危険が及んではいけない。その為に彼はシェリーを自分の研究所に招きました。
「君は生きていてもいいんだよ」と彼が脈絡なく紡いだのはそういうことです。

そうして過去を振り返る時間をたっぷり与えた博士は、その間に少女が零した言葉を大切に拾い上げます。
その際に「泣き喚いてくれればいい、強い力で縋り付いて欲しい」と言っていますが、それは「甘えて欲しい」ということです。
喜怒哀楽を表に出すこと、そうした甘えの形をまだ少女が出せていないことに彼は気付いていました。
他人である彼が出来ることなど限られていますが、それでも彼女を支えるには、彼女の側から歩み寄ってくれる必要があった。
そうしないとどこまで踏み込んでいいのか解らないからです。
ということで彼は待ちます。あの日のこと、彼女の思い、そうしたものを吐き出せるようになるまで彼はひたすら待っています。

そしてその忍耐めいたものが報われるのが6話です。
過去を整理する時間を与えた博士は、次に少女の目を外に向けさせようとします。
そのラストでシェリーが自分の思いを語るのですが、
ここでようやく博士は、自分が少女の支えになれたこと、自分の言葉に少女が救われていたことに気付きます。
3話から5話あたりは博士の空振りに終わっていたようでありながら、その思いはしっかりと彼女に届いていたのだと、彼が知ることが出来た。
6話はそんな転機の回です。

そこからも順調に進み、8話でようやくあの日のことをシェリーが語ります。
「強い力で縋り付かれた」とあるように、ここでようやく彼女は自分の感情をそのまま吐き出すことに成功しました。
ここで彼が最後に「辛かったね」と発言していますが、これは4話とリンクしています。
あの時は悲しそうに笑うしかなかったシェリーが、彼に縋り付いて泣くことが出来るようになった。
彼への甘えを彼女が許した。その変化に注目して下さると嬉しいです。


3、魔法の言葉
9話ですが、彼女の心理状態を彼はどのような方向に持っていくべきなのかなと考えた結果こうなりました。
正しいとか間違っているとか、そうした言葉って冷え切った心の前ではどうしようもなく無力です。
一番彼女に届く言葉はやはり「ありがとう」だったのかな、と。
ただその優しい言葉が届くには、その発言者がシェリーにとってより近しい存在でなければいけません。
そうでなかったとしても「ありがとう」という言葉には概して魔法が掛けられているものですが、
それ以上にシェリーの心を動かすにはやはり彼の言葉でなければいけなかったでしょう。

フラダリさんの消息も、彼が今何を思っているのかも解らないという設定の元に進んだお話なので、着地点としてはこの辺が限界かな、と思っています。
それ以上に彼について掘り下げるのは「神の花」に任せましょう。こちらはあくまでプラターヌ博士の連載ですからね。
あ、それとこの「ありがとう」に付く言葉として「ボク達の世界を選んでくれて」としましたが、言い換えればこういうことです。

「君が悔いた世界でも、ボクは愛しているよ」
もしくは
「君が愛したことを悔いたとしても、ボクは君が選んでくれた世界が好きだよ」

ね、こんなこと書ける訳がなかった。愛しているとかそういうキラキラした言葉を私が書ける筈がなかった。
ということでここにひっそりと投下します。笑って流してやって下さい。


あかん、いつものことだがどうしてこんなに後書きが長くなってしまうのか……。
毎回連載後にこのページを設けているのですが、目を通してくださっている方、本当にありがとうございます。

プラターヌ博士を出来るだけかっこ良く書きたかったのですが、果たして私の文でそれが表現できているのか微妙なところです……。
あ、彼は「神の花」でも活躍します。「Dear」とはまた違ったやり方で彼女を支える博士をお楽しみ下さい。

では、ありがとうございました!


2013.10.30
クロッカスの花言葉「あなたを待っています」

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