「4枚の希望を紐解く話」これにて完結となります。少しでも皆さんの娯楽の一助となれたのであれば幸いです。
この「ユークリッドに咲く三つ葉」ですが、元々はBW2が発売されてから2か月後に書いた連載「メビウスの輪」の粗筋はそのままに、
心理描写とエピソードの大幅な追加を施した、所謂、加筆修正版となっております。
メビウスは8話、1万5千字しかなかったのですが、今作のユークリッドは話数にして2倍の16話、字数にして4倍以上の6万5千字です。……長いですね。
いかんせん、3年前の連載ですので、あまりにも随所に粗があり、このまま公開し続ける訳にはいかないとかなり前から非公開としていたのですが、
1か月程前にとある方から「メビウスの輪を読むことはできませんか?」との温かいコメントを頂いたので、これをきっかけに修正作業に取り掛かった次第です。
先ずは、お世話になった皆さんへの感謝を。
もう3年以上前の連載、メビウスの輪を覚えていてくださったミリオンさん、修正作業中に温かな応援のお言葉をかけてくださった、すえさん、くまさん、冬華さん、
そして今回、ユークリッドを最後まで読んでくださった方々、皆さん、本当にありがとうございました!
以下、連載のざっくりとした解説と裏話です。当然のようにネタバレを含みます。
また、読み手の方の解釈と書き手である私の思惑とが一致していない可能性がある、ということをご承知いただければと思います。
1、旧作「メビウスの輪」との相違点
といっても、もうユークリッドは殆どメビウスの原型を留めていません。残っているのは大まかな流れと人物関係だけですね。すなわち、残した点はこれくらいです。
・ジュペッタがシアに「呪い」をかけ、彼女の視覚と味覚を奪い、衰弱させた
・アクロマ、トウコ、Nが彼女の「不自然な症状」について調査を始めた
・シアはアクロマを慕っていて、同時にゲーチスの入院している病室にも通っていた
・シアにかけられた「呪い」は「彼」の独断で行ったことであった
ユークリッドでは更に、それぞれの人物の心理描写や、盲目となった彼女のエピソードなどを多分に盛り込みました。具体的にはこれくらいでしょうか。
・2年前の英雄であった「先輩」たるトウコの心理描写
・シアに慕われ、シアを支えたアクロマの行動と、トウコによるアクロマの評価
・ダークトリニティの三人、それぞれのシアとの会話、並びに三者の反応や思惑の違い
・盲目となったシアがその数週間、どのように毎日を過ごしたのか、具体的な生活の描写
今回、これらを事細かに盛り込むことで、この連載で「明らかになったこと」と「最後まで解らなかったこと」とをはっきりと書き分けるように努めました。
……ただ、あくまでも「努めた」に過ぎないので、私の力不足で「結局何がどうなったのか解らない」という場合が生じてしまうかもしれません。
そのため、盛大なネタバレですが以下にざっくりとまとめておきます。
<明らかになったこと>
・シアに訪れた盲目、その犯人、及び、犯人が彼女を盲目とするに至った「動機」
・ゲーチスと「犯人」との、シアに対する認識のズレ
・シアは本来どういった人間であり、それが今回の盲目を経てどのようになり、またその盲目が解かれて最終的にどう変わったのか
・誰がシアを想い、誰がどのような形で彼女を支え、誰がどういった理由で彼女を憎んだのか
・シアは今回の盲目を経て、何を学び、どのような指針を打ち立てるに至ったのか
・誰が盲目だったのか
<最後まで解らなかったこと>
・ゲーチスは何故、シアの盲目を喜ばなかったのか
・シアが掴み取った「幸福」の1枚は、誰の手によって千切られたのか
……あの四つ葉を「誰か」が千切るシーンは、最後まで書こうか書くまいかと悩んだのですが、その描写は今回の連載の主題とは関係のない部分だと判断したので、省きました。
彼女が掴んだ幸福をかけがえのないものとしたのは、その四つ葉を千切った誰かではなく、その千切られた四つ葉に意味を与えたNの言葉です。
だから、この犯人こそ、探す必要のないものだったのだと思います。
ただヒントがあるとすれば、彼女の盲目を「幸福」でないものにしたかった誰かの仕業である、ということになるでしょうか。……もっとも、それはヒトであるとは限りませんが。
2、BW2長編との相違点(「アピアチェーレ」「片翼を殺いだ手」「サイコロを振らない」を既読の方のみ、参考にして頂ければと思います)
上記の三連載を読んでくださった方がもしいらっしゃいましたら、その方々は、
今回の「ユークリッドに咲く三つ葉」の導入部分が、これらの連載の流れに酷似していることに気付いてくださったかもしれません。
片翼に登場した、アクロマさんの「貴方が間違っていてもわたしが支えます」の台詞は、そのままこちらの連載にも使っているので、こちらの方が解りやすいかもしれませんね。
事実、修正前の「メビウス」は、これら三連載の流れを汲んだ圧縮バージョン、という意図のもとに書き上げていました。今回も、概ねその通りです。
ただ、総話数150を超えるこれら三連載の間に生じた関係性を15話に収めることはちょっと物理的に不可能なので、あらゆる点において変更を加えています。
以下、その点についてまとめました。
・シアの境遇はBW2の原作に準拠
(旅立つ前にアクロマに出会っておらず、旅の途中でサザンドラから手紙を受け取ってもいない、故にアクロマの一人称が「わたくし」で固定)
・アクロマとシアとの関係がシンプル
(シアにとってアクロマは、「プラズマ団へと導き、その後の自分を支えてくれた科学者」以外の何者でもないため、その好意は純粋な感謝、尊敬、憧憬などのそれである)
・ゲーチスのシアに対する認識が異なる
(具体的には、シアにアクロマ、及びサザンドラが「絆された」とするシーンがないため、彼がシアに与えられた「屈辱」は三連載のそれより少しばかり軽め)
・ED後において、ゲーチスの希死念慮がない
(「屈辱」の少なさによるもの、三連載では「自らが拒んだ「絆」によって自らの駒と道具の力が奪われたこと」が、彼の「諦念」の決定的な鍵であるということにしていた)
・ダークたちとゲーチスの認識のズレ
(これはシアがゲーチスと言葉を交わした期間が短すぎることによるもの、本編11話までのダークたちにとってシアは、ゲーチスの心を取り戻すための駒に過ぎなかった)
逆に言えば、これら以外の下地は三連載と同じです。
シアが欲張りであったこと、トウコとシア、トウコとNの関係、アクロマさんがシアをどのように思っていたのか、これらは何も変わりません。
ただ、これらの関係性が全く同じであったにもかかわらず、今作のような「盲目」が訪れたのは何故か、という点について、
以上の5点を参考にして頂ければ、その分岐点が見えてくる……かもしれません。
3、使用した記号について
今回、場面の切り替わりはいつものように「*」で挟む改行にて行っていたのですが、
視点の切り替わりの記号として「◇」の数を変えることで示す、という新しい試みをしてみました。
「◇」はアクロマ、「◇◇」はシア、「◇◇◇」はトウコの視点です。
タイトルの「ユークリッドに咲く三つ葉」の「三つ葉」は、三人の視点がくるくると切り替わることを暗示するための「三」という用語であったりします。
けれど今作で登場したクローバーは本来、四つ葉でした。4枚目に相当する人物は敢えて明示していません。
けれど、その「誰か」はおそらく、アクロマやトウコと同じくらい、シアの今後に多大な影響を与えた人物であり、
またそれを、シア以外の誰にも悟られないようにするため、ただ謝罪だけを済ませてその場を後にすることを選んだ人物であり、
更にはそうした自身が「4枚目」に相当することを、シアをずっと見てきたために認識することができた人物であり、
そして、だからこそ、彼女が大切にしていたであろうクローバーの、4枚目に相当する部分を破き取るという、傍にいたポケモンの行為を黙認した人物であったのでしょう。
……最後まで本編をお読みくださった方は、もう誰のことか、読めましたよね。
毎度のことながら、あとがきは簡潔かつシンプルに、と心掛けているにもかかわらず、こんな長さになってしまいました。
16話にも及ぶ連載を読んでくださっただけでなく、ここまで目を通してくださった皆さん、本当にありがとうございました!
これからも皆様の娯楽の一助となれますよう、精進していこうと思います。
2016.2.27
(ポケモン20周年となる節目の今日、大好きなBW2の世界をお借りした連載をこのあとがきで締め括れたことは、密かな私の誇りです)
I’m looking forward to seeing you in the next world !