+ オルト「保障されていません」の外伝、イデア編
時刻は午前1時30分を回ろうかというところ。午前5時にリセットされるタイプのソーシャルゲームにおいて、深夜とはすなわち物語のクライマックスに等しい。イベント終了まであと4時間を切った。水分補給のためにデスク脇のペットボトルへ手を伸ばす暇さえ惜しまれる。繰り返されるハイレベルな戦闘、重課金者であったとしても脳死でクリックを続けているだけでは到底勝てないような相手を、的確なコマンドで倒し続けること557回。そろそろ目が霞んでくる。運動などせずとも腹は減る。それでもあと43回、43回、あと3時間28分の間に倒しきらなければこのオタク、死んでも死にきれぬ。数か月の間、実装を待ち望んでいた「推し」が、満を持してようやくこのイベント最高報酬としてお越しになられたというのに、みすみす寝ろと? 冗談じゃない。
えっ、何。脳死でぽちぽち回せる難易度のイベントステージを選べばずっと楽にやれるんじゃないかって? おやおやこの期に及んでなんてことを。難易度「高」を脳死で100周して得られるポイント数が、難易度「超高」の50周にも及ばないことをまさかご存知でない? 一つ難易度を下げて得られるのは休息ではない、損失なのだよ。ふ、っひひ……これだから情弱は。どのような分野においても効率で劣る奴は全てに劣る、出直してくることですな。あと拙者、そんな愛のない作業ゲーで推しを手に入れようなんざ思ってませんし。この、600勝に及ぶまでの一戦一戦、コマンドのひとつひとつに、情熱を、狂乱の気を、愛を込めることに意義があるのであってね? そうした果てにやってくるイベント最高報酬というのはもう何にも代えがたく……。
「直接会うことも、話をすることもできないような、ただの架空のキャラクターに時間とお金を投資し続けることは、損失じゃないの?」
「……はぁ!?」
思わず顔を上げた。あ、やばい。今ので手元が狂った。コマンドミスだ。ボスの攻撃がパーティのエースにクリティカルヒットし、あれよあれよという間に倒されていく。この一戦、無駄になった。難易度「高」で一勝でもしておいた方がまだマシだった。効率において最高難易度が勝るといっても、負けてしまっては意味がない。随分な嫌がらせだ、やられた。
「幻想だよ」
「……おい、黙れよ」
「コマンドに宿る愛なんて、幻想だよ」