タイトル未定

「君のお父さんやおばさん、それに他の大人……あの人達が君に、私を守れと言ったの?」
「いいえ、皆さんはそんなことは一言も。ただ様子を見るようにとは言われました。あと、あなたはワタクシよりも優秀そうだから、色々と教わって来なさい、とも」
「……それじゃあ、サイキッカー一族の生まれ、というのは皆こんな風に、誰かを守るため、誰かの願いを叶えるために全力を出さなきゃいけないものなの?」

 セイボリーは首を捻った。言われている意味が分からないといった表情。そしてその表情と寸分違わぬ形で飛んでくる彼の「心地」。この子は本当に、どうして私が不思議がっているかを分かっていないのだ。
 分かっていない、ということが私には分かる。でもこの子には私が不思議がっているということが分からない。彼は心を読めないし、私は彼のように表情豊かでも純朴でもない。だから、声に出して伝えるしかない。

「ついさっき会ったばかりの私にそこまで言ってくれるなんて、君はちょっとおかしいよ。誰かに指示された訳でも、お家のルールがそうさせている訳でもないのに、どうして?」

 すると彼は「あっ」と驚愕の声を漏らし、そして、声を上げて笑い始めた。ともすれば私よりも高いのではないかと思わせる声音が、「本当だね」「おかしい!」「どうしてだろう?」と笑いの合間にそう奏でていく。私は息を飲んだ。彼は止まらなかった。

「ワタクシはちょっと、ええ、おかしいね。あなたの言う通り! だってこんなことをしろとは言われていないのに。ワタクシはあなたに、挨拶をするだけでよかったはずなのに。折角此処へ連れてきたあなたを故郷へ帰すなんて、そんなこと、お父様に聞かれたら叱られてしまうに決まっているのに!」
「……」
「でもね、本当にそう思ったんだ。あなたを守りたいと。あなたの助けになりたいし、願いを叶えてあげたいと」

 どうしてだろうね、と繰り返し笑顔で首を捻る、その彼の言葉に一片の嘘もないことが私には「見えて」いる。どうして、という疑問に答え得る力を私も彼も持たなかった。それでも彼の「心地」の全てが真実である以上、それこそが私の傷を癒すに足るものだった。他にはもう何も望むべくもなかった。

 テーマはたぶん「信仰」です。

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