更新予定のもの、少しだけ(Cold Case)

『無理を通そうとするから苦しいのだ。つまらない』
あの本の終盤、もがくことをやめて水底に沈むことを選んだエネコの一節が浮かぶ。
彼女は今、エネコとは違うことをしている。苦しいことをしている。無理を通そうとしている。そんな彼女の姿は、とても、つまらなくないものに見える。

「やっぱりこれはいけないことなんじゃないかって、今でも思っているよ。だって今の私は、貴方と、紅茶と、蜂蜜と、帽子の色と、本のことしか考えられていないんだ。
こんなのはおかしい。気が狂っているよ。適切な言葉が何も思い付かない。貴方にどう思われるかが怖くて仕方ない。息苦しくて、胸が痛くて、堪らない。
こんなはずじゃなかった。選んだせいだ。私が、貴方を、好きになったせいだ」

手元にハンカチの類を持ち合わせていなかったネズは、けれども彼女の顎へ滑り落ち震えるそれをそのままにしておくことができず、手を伸べた。
人差し指と中指の腹で頬をすっとなぞれば、透明な絵の具は淡い色をしたキャンパスにうすく広がり、部屋の安っぽい照明の光を浴びてキラキラと瞬いた。

更新できるかな、どうかな無理かなできるかな。

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