マーカスはカールから、コナーはハンクから、それぞれ「生きている」という扱いを受けており、その信託を彼等は本当に大事にしている。
でもカーラにはそうした人間がいない。ローズさんとの出会いはかなり終盤だから、彼女からの人間扱いを信託とするには少し軽いような気がする。
そう考えるとこの「穏やかな声」とは誰なのか、確信を得るためのエピソードが足りなさ過ぎて断定できない。
私は創造主が気紛れに埋め込んだ「祈り」というエラーだと思っているのだけれど、何か見落としていたらむっちゃハズカシイことになるな……。
多分、あのゲーム内でアンドロイドが自我を持ち動き回るという「変異」は、私達で言うところの、
「ポケットモンスターSWSHの主人公が、ボタン操作なしで勝手にポケモンを捕まえたりカレーを作ったりバトルを始めたりする現象」に該当している。
仮にそれが起こったとしたら当然のように我々はそれを「バグ」と称し、エラーとして報告し、二度とこのようなことが起こらないようにと願うだろう。
そのバグ、ないしエラーを「生きている」として祝福できるプレイヤーが果たしてどれくらいいるだろうか。
シア、シェリー、ミヅキ、クリス……等々、その主人公を「生きている」と仮定して10年近く物語を書き続けてきた身であるにもかかわらず、
私のソフトがこうした現象に見舞われてしまった場合、そのバグを喜ぶことなどできないに違いない、という確信が私の中にある。
そしておそらく、ほとんどの人がそうであろうと傲慢にも考えている。
……軽いディストピアとして描かれているDBHだけれど、あの「アンドロイドが新しい知的生命体であるという認識」を受け入れられる人がかなりいたことを考えると、
やはりあの世界はやさしいファンタジーであり、こう在れたならという祈りに過ぎないのかもしれないと思えてくる。
「穏やかな声」は、そうした製作者の祈りでさえあったのかも。
私も「穏やかな声」を聞いてみたい。
母とか父とかそうした人物の声ではなく、神様とかいうものでもない、何かの祈りにふと、肯定されてみたい。