「私は確かに社会における大多数の人間から魅力的に思われるような容姿としてデザインされているよ。でもそれだけだ。本当にそれだけの機能しかないんだよ。
私と手を繋いだところで人肌を感じることなどできないし、録画機能や録音機能を警戒されるから映画館やライブを一緒に楽しむこともできない。
当然、摂食機能もないからカレーも食べられないし、缶ジュースによる間接キッスなどというものも遂行不可能だ。
君が、冷たいプラスチックを抱き締めたりキスしたり……君の年齢では推奨されないがもっと踏み込んだこと……をしたいと思うような変態趣味の男でない限り、やめた方がいい」
「変態になったつもりはありませんよ。プラスチックでなければ愛せない、などとは言いません。君でなければいけない、とは思っていますが」
「ふふ、心地良い言葉だね。でもはっきりさせておこうか。
私はその喜ばしい言葉に対して「私も、貴方でなければいけない」と言うことができる。今も私のソーシャルモジュールが、そうすべきだと煩く喚きたてている。
でもね、その言葉に、君が乗せてくれているものと同じだけの温度を乗せることは叶わない。心を動かすことは、心を持たない私にはどう足掻いてもできない。
口惜しいことだけれど、恋愛はプログラムにないんだ。でも誠意なら理解できる。だから私は君に対して、できないことはできないと嘘偽りなく口にするつもりだよ」
人間そっくりにかたどられておきながら、此処まで人と異なる造りにさせられているなんて、あんまりなことだ、とビートは思う。
聞き分けの悪い子供の如く、やや乱暴にユウリの右手を取る。彼女の告解通りにその指先は冬の夜風と寸分違わぬ温度でビートの指を冷やす。
ほら冷たいばかりだろう、と機械は言う。今日は冷え込んでいますから、と人は言う。君の手が凍ってしまうよ、と返す。貴方と揃いになれるなら、と食い下がる。
「もう、これ以上は止してくれ。君にそうして「優しい」ことをされてしまうと、大変なことになるんだ」
「大変なこと?」
「エラーだよ。ソフトウェアのエラー、エラー、エラー。ほらまた出てきた。さっきから警告ウィンドウを消すのに忙しいんだよ。ねえ、お願いだから放して」
「……へえ、それは奇遇ですね。僕も貴方と手を繋いでいると、貴方の言うところの「エラー」で心臓が破裂しそうになるんですよ」
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恋とか愛とかいうものは人も機械も命懸け